懐かしさと狐の尾

「そういえばお前、饅頭好きじゃったよな?」


そう言いながら俺の口に饅頭のような


何かを入れ込んできた。


「むぐっ..」


「美味しい...」


不甲斐ながらもそれはとても美味しかった。


「ていうかなんで俺の好きな食べ物...」


「ん?秘密じゃ秘密」


口に人差し指を当て、


ニヤリと笑いながらそう言った。


「饅頭好きだなんてジジくさいな」


馬鹿にするようにそう言う。




𓂃◌𓈒𓐍𓈒




『そんなん好きなんてジジくさ』




𓂃◌𓈒𓐍𓈒




誰かの声が頭の中で再生される。


懐かしいような。


聞いたことのあるような声。


だけど知らない人だった。


「どうした?喉にでも詰まったか?」


そう言いながら顔を覗き込んでくる。


「うるっさいな!!」


思わずそう言ってしまい、


『ぁ、』と呟きながら口に手を当てる。


「その態度...」


『やばい、怒られる』


そう確信し、思わず目を瞑る。


が、


「気に入った」


そう言う。


やっぱりこの世界の人は少し変だ。


「さて」


「 " これ " は彼奴に送っておくとしよう」


ふふんと笑いながら先程の魚を消した。


ふと、急に辺りが暗くなったように感じた。


「なぁ女帝──」


「女帝と呼ぶでない」


「妾の名を忘れたのか?」


「じゃあ...」


「柧夜..様、」


そう俺が言うと眉間にしわを寄せて


明らかに嫌そうな顔をした。


「様なんていらないじゃろう...」


落ち込んだようにそう言う。


「分かったよ...」


「柧夜で」


「そうじゃ!そちにしとけ!」


命令口調でそう言う。


先程の落ち込みの気分は


どこに行ってしまったのだろうか。


本当、こいつ狐みたい。


「狐?」


「へ?」


「今、妾を狐と言ったのか?」


やっぱり心読めるんじゃ...


「言...った..」


「よく見抜いたな」


「やはり千秋もこちら側の人間か...?」


そうブツブツ喋りながら俺をじっと見る。


ふと何かが目に映り、それに視線を向ける。


その正体は柧夜から生えている


狐の尻尾のようなものだった。

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