第6話 厄払
ドア枠を歪ませ、室内に入って来たのは、憤怒の顔をした神将であった。
革製の見事な甲冑を身にまとい、手には先端が三つに分かれた槍に似た武器、三叉戟を握っている。
「お、なな、あ……」
大臣と呼ばれた初老の男は、言葉にならない声を漏らしながら、ソファの上でのけ反った。
立とうとしたが、神将の怒気にあてられ、腰が完全に抜けてしまっている。
「し、七福神の一人、毘沙門天……」
ソファの後ろに立っていた秘書の男がつぶやいた。
怯えた目は毘沙門天に釘付けとなり、全身が恐怖で震えている。
「し、しし、七福神なら、ご、御利益が、あ、あるのだろう。御利益を、置いて、と、とっとと帰れと、い、い、言え」
大臣は視線だけを秘書に向けて言う。
「び、毘沙門天は、必勝祈願、開運、金運の御利益、そ、それと……」
秘書はゴクリと唾を飲み込んだ。
さっきのスマホから入った連絡が脳裏によみがえる。
首相官邸、外相宅、国土交通省宅、そして、税調会長の行きつけの店に、毘沙門天が現れたという連絡だったのだ。
現れた毘沙門天は、次々に……。
「ひいいい」と、大臣が悲鳴をあげた。
毘沙門天が大臣の首根っこをつかみ、絨毯の上に転がしたのだ。
そのまま大きな足で、ぐいっと大臣の頭を踏みつける。
「そ、それと……、除災招福。
厄を祓い、福を招くという御利益があり、び、毘沙門天の像は、邪鬼の頭を踏みつけています」
秘書が喘ぐように言う。
「痛い痛い痛い痛い」
大臣は踏みつけられている自分の頭が、ミシミシと音を立てるのを聞いた。
新年の初日。
日本全国で三千四十五人の厄が謝罪と反省をし、八十八人の大厄が祓われた……。
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