第4話 成就
自室でテレビを見ていた智美が、ふと部屋の隅に目を向けた時、すでにこの美しい女性はたたずんでいた。
驚きはあったが、恐怖は無かった。
天女のような衣装に身を包み、優しく穏やかで、理知的な目をしている。
智美はノートパソコンを置いた机に向かって座っていたため、立ち上がるタイミングをつかめなかった。
女性に目を奪われている内に、点けっぱなしになっていたテレビで、寿老人、恵比寿、大黒天のニュースが流れ始めたのだ。
じゃあ、この美しい女性は……。
智美が緊張して唾を飲み込んだ時、机の上のスマホが着信を知らせた。
女性を見る。女性は微笑んだままである。
智美は、電話に出るように、うながされている気がした。
スマホの画面には、ユースケと出ていた。
ネットで知り合った男の子である。
ユースケはミュージシャンを目指していた。そして智美は作家になることを目指している。
分野は違うが、クリエイティブな職業を目指す者同士で気が合い、たまに連絡を取り合う仲になっていた。
智美はスワイプした。
「あ、智美さん! オレ、ユースケ。
あの、あ、あけましておめでとう」
動揺するユースケの声が聞こえてきた。
「ちょっと、どう説明したらいいか分からないんだけど、今、オレの部屋に……、その、えっと……」
「美しい女の人がいるんじゃないの?」
智美が言う。
「どうして分かったの!?
もしかして、智美さんの部屋にも……」
「うん。気が付いたら……、ね」
「この女性って、今、ニュースで大騒ぎになってる……」
「私もそう思う。
七福神の一人、芸術向上、学問向上、美人祈願の御利益をもたらしてくれる、弁才天……」
今頃、入試試験を控えた全国の受験生、また資格試験に挑もうとしている社会人、小説家、画家、音楽家、脚本家、漫画家、作曲家、作詞家、陶芸家……。ありとあらゆる学問、芸術に関わり、目指す人たちの前に現れているまだろう。
通話を切った智美は、弁才天に視線を向けた。
頭を下げて目を閉じる。
お願いします。どうか、作家になれますように……。
そう願った時に、少し違和感を覚えた。
……いや、ちょっと違うよね。うん。そうじゃない。
智美は改めて願った。
一生懸命がんばります。どうか見守っていてください……。
智美が顔をあげ、目を開ける。
弁才天は微笑み、ちいさく頷いてくれた気がした。
そして、穏やかな微笑みを残し、真昼の幻のように消えていった。
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