1430 俺って甘いのかなぁ?

 無名の打ち上げから帰宅すると、そこには奈緒さんが待ち構えていた。

しかも、あの一件から即座に此処に来たのか、体は小刻みに震え、顔色の真っ青。


そんな彼女を見た倉津君は……


***


「……奈緒さん」

「あっ、はい」

「明日、またワザワザ来るのも面倒でしょうから。良かったら、ウチの家に上がりますか?上がって、俺の気持ちに整理が付くのを待ちますか?」


俺って甘いのかなぁ?


けどなぁ。

こうやって改めて奈緒さんの姿を見て居るとな。

情が湧いて来るって言うか……なんと言うか……俺……ヤッパリ、この人の事が、まだ好きだわ。


あんなツマラナイ諍いぐらいで、失うには惜しすぎる。


いや……俺は奈緒さんを失っちゃいけないんだ。



「えっ?良いの?私、そんな事して貰える立場じゃないと思うんだけど……」

「そうッスね。確かに、そう言う立場じゃないッスね。だから、これも決して良くはないんッスよ。けど、それで風邪でも引いたら大変ですからね」

「えっ?それって……まさか、私の体の事を心配してくれてる?」

「・・・・・・」

「ごめん……なさい。そんな訳ないよね。……厚かましい事を言って、ごめんなさい」


ふぅ。


心配してますよ。

心配してなきゃ、こんな言葉が出て来る訳ないじゃないですか。


ナンダカンダ言っても俺は、アナタの事が好きみたいだし、奈緒さんの居ない人生は面白くなさ過ぎるッスからね。


そんな風にアナタは、俺にとって必要不可欠な人間なんですから心配しますよ。



「心配してますよ。心配してるに決まってるでしょ。心配しない訳がないでしょう」

「えっ?」

「本当にもぉ、この人だけは、馬鹿な真似をしてくれたもんッスよ。あんな事がなきゃ、全てが順風満帆に行ってた筈なのに」

「クラ……」

「まぁ、兎に角、こんな所で話を続ける気はないんで、さっさと家に上がって下さい。まったくもぉ、こんなに体が冷え切ってるじゃないッスか」


ホント、この寒い中、よくもまぁ、こんなに我慢してたもんッスね。


ホント、馬鹿ッスよ。


まぁ本来なら此処で、俺の上着を奈緒さんに掛けてあげたい所なんだが。

今は寝てる沙那ちゃんをおんぶしてる状態だからな。


流石にそんな沙那ちゃんを起こしてまで、する行為じゃないだろう。



「ごめんなさい……」

「へっ?」

「ぐすっ、ぐすっ……クラ!!クラ!!クラ!!うわ~~~~ん、クラぁ~~~~~!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」


地面にへたり込んで、本格的に泣いちゃったよ。


まぁけど、あれッスよ。

これに懲りて、2度とこんな後腐れの悪い真似しちゃダメっすよ。


こう言う事があって傷付くのは、お互いなんッスからね。


これ、奈緒さんが、そう言ったんッスよ。



「まだダメっすよ、奈緒さん。話は聞きますけど。俺、まだ許してないッスから」

「うん。……そうだよね。ごめん、ぐすっぐすっ」

「まぁ、なんにしても、今日は奈緒さんの話を聞く気には成れないんで。ウチで風呂に入るなりなんなりして、体を温めてから、俺の部屋で待ってて下さい。……俺、このまま、少し出掛けて来ますんで」

「何所に行くの?」

「奈緒さんに言う必要はないッス。自分の立場を弁えて、黙って従って下さい」

「でも……それって」

「これ以上話を続けるって言うなら、さっきの話は無しですよ。もう2度と口も利かないッス。それでも良いなら質問を続けて下さい」


奈緒さんは、決して真相を語ろうとしないは解っている。


こんな状況下に有っても。

きっと彼女は、崇秀や、眞子を庇って、なにが有っても、絶対に真相は話そうとはしない。


この人は、何所まで行っても、そう言う人だからな。



「あっ……」

「まだ2人で一緒に居たいと思うなら、此処からは口出し無用ッスよ」

「でも、でもね。例えそうであっても……」

「じゃあ、帰りますか?」

「それは……」

「俺はね、奈緒さん。奈緒さんに事情が有ったと思うからこそ、この条件を出してるんッスよ。少し俺が妥協したからって、勘違いして貰っちゃあ困るんッスけど」

「そう……だよね」


少しキツイ言い方をしちまったが。

言えない事情があるからって言っても、それをズッと隠し通されても、コチラとしては困るだけ。


それなら一層の事、その当事者である崇秀か、眞子に話を聞くのが先決。


そうすればアイツ等の性格から言って、奈緒さんや、俺に負い目を感じてる部分があるだろうから、自ずと真相を語らずにはいられない筈だからな。


そう言う『良心の呵責』が、アイツ等にも有る事を望む。



「兎に角、奈緒さんから聞く話は、今の所、なにもないッスから。それと、もし俺の部屋で待ってる気があるなら、この子の面倒を見ててやって下さい」

「うん。でも、この子は……誰?」

「知り合いから預かった大切な子ッス。そんな大切な子を、今の奈緒さんに任せるんッスから、絶対に期待を裏切らないで下さいよ」


親父さんに預かってる以上、本来ならこう言う事をしちゃいけないんだが。

この機会を逃してしまったら、もう早々にこんなチャンスは巡って来ないだろうから、今の奈緒さんに沙那ちゃんの面倒を見て貰う事にした。


まぁ、今の奈緒さんじゃなくても、元々キッチリした人だから預けても大丈夫だろうしな。

それにウチの家の中に入ってしまえば、こんな時間からヤクザの本家に突っ込んでくる馬鹿も早々には居ないだろうから、ある意味、一番安全だろうしな。



「あっ……うん」

「じゃあ、早急に家に入って待ってて下さい。これ以上の問答は、この場では無用ッスから。お互いすべき事をしましょう」

「あっ、はい」


この言葉に、少しだけ……ほんの少しだけ奈緒さんは安堵の表情を浮かべて、俺の家に向って行った。


こうして俺は、2つの問題を思考しながら、解決に向う、第一段階に入って行った。


この行動が、後にどう出るかは解らないが。

まずは自分から動いていかなければ、なにも解決には向わないと判断しての事だ。


そんな不安の中。

奈緒さんにおんぶされた沙那ちゃんと、奈緒さんが家に入って行く後ろ姿を確認した後。

俺は電話をしながら、自転車である場所へと向って行った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


奈緒さんの精一杯の誠意に、心を動かされた倉津君。

家で待ってる事を提案し、自分は本格的に問題の解決に乗り出したみたいですね♪


さてさて、そうなると。

今度はこれを、相手側がどうとるかが気になる所。


なので次回からは、眞子視点でお伝えしたいと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る