第9話 召喚の後始末

 マリアに魅了からの回復を任せようとしたら、ルナが苦しげな声で、こう主張した。

「私はアルフがやって。マリアと同じように。

 マリアだけなんてズルい!」

「ズルいってなんだ、ズルいって!

 ってか、同じことって、キスしたいのか?」

 ルナは顔を真っ赤にしながら、叫ぶように言った。

「何度も言わせないでよ!マリアと同じようにやって!」

「わかった。」

 俺はルナの横に膝をつきそっと肩に手を添える。

 ルナは両手を体の前で祈るように合わせ目を閉じる。

 軽く肩を抱き、キスをして、口から魔力を流し込む。

「ん。」

 ルナの全身に魔力が行き渡ったところで口を離した。

 ルナの周りで黒い霧が消えていく。

「私の中、アルフでいっぱいになっちゃった。」

 ルナはちょっと潤んだ目で見上げるようにして、微笑みながらそう言った。

「照れ隠しとかで変なこと言うな。ルナは充分可愛いから、俺もまだドキドキしてるくらいなんだし…」

「じゃ、私の『初めて』の責任とってね、私の…いや、私たちの旦那様❤️」

 くそう。卑怯なくらいに可愛く言いやがって。

 そっと目を逸らす。

「さて、他の人は大丈夫かな?」

「あー、逃げたー。」

 ルナがなんか言ってるが、とりあえず放置だ。

 マリアとルナという美少女2人を同時になんて、ちょっと俺のキャパを超えてる。

「そうか!その手があったのか!

 もしかして、私も魅了されてたら、同じようにしてもらえたのでは?

 …いやでもそれだとアルフ様の役に立てないし…あああ…」

 …なんかアンナが頭を抱えつつブツブツ言ってる。聞かなかったことにしよう…

 マリアは順調に魅了状態を回復させていた。そしてカーシャとメリッサのところに近づく。

「俺も手伝えるかな?」

「あ、アルフさん。魔力操作が結構大変なので、手伝ってもらえますか?」

 カーシャに触れるマリアの手に、自分の手を重ねて魔力を送り込む。先ほどの経験でマリアの魔力も操作できそうなので、自分の魔力と合わせてカーシャの全体をマリアの魔力で浄化してみると、カーシャから黒い霧が浮かび上がり霧散した。気を失っているが、カーシャは大丈夫そうだ。メリッサも同様に浄化する。

 

「とりあえずの危機は回避できたな。まだ問題は山積みで、魔王復活を目論む者たちも撲滅できていないが。」

 俺の言葉に全員キョトンとしてる…え?なんで?

「あれ?レイプマンがこの状態なら、解決じゃないの?」

 ガクトが何も考えてなさそうに言い出した。

「あのなあ…レイマンはこの魔法陣をどうやって知ったんだ?どんな効果なのか詳しく知らないのに、魔王復活に繋がるとだけ信じてたんだぞ。誰かが魔法陣をレイマンに与えたとしか考えられないだろ。じゃ、その誰かは誰だ?どこにいる?」

 流石に理解できたらしい。全員難しい顔をしている。

「レイマンがここまで搾り取られてると、蘇生は難しいと思うが、まぁ、あっちにいる奴らも詳しくは知らないだろうしなあ…」

 周囲で拘束されている邪教徒を眺めながら呟く。

「レイマンの私物、特に日記とか書いてないかな?その辺から探るしかなさそうだ。」

「そうだな。この件に関しては、ラーミア教も全面的に協力しよう。教皇の名にかけて誓おう。」

 教皇様の言葉は有難い。

「ありがとうございます。こんな事をして子供たちや民を苦しめる奴らは許せないので、徹底的に潰します!」

「そう言ってもらえると助かる。これでこの孤児院の子たちは、親の仇を取ってもらっただけでなく、命まで救ってもらえたんだな…」

 え?なんで親の仇?

 そう思っていると、マリアが言葉を続ける。

「そうですね。アルフさんがいなかったら、私も奴隷として売られていたでしょうね。

 私の両親は、5年前に王都から出かけている街道で奴隷狩りの野盗に襲われて亡くなりました。私を奴隷にすることを狙って、のことでした。でも、私が連れ去られる直前に近衛騎士団の人たちが来て助けてくれて…

 そのすぐあとでした。犯罪組織が壊滅したという話が出たのは。そして、その壊滅につながるキッカケは、アルフさんがガートナー領で動いていてくれたこと。さらには王都の組織につながる証拠を掴んで王家に伝えてくれたこと。それがなければ今頃私は奴隷として売られて慰み者にされているか、ここで生贄にされていたと想います。

 だからアルフさんは、唯一無二の『私の勇者様』なんです!」

 そうか。ルナのやつ、この話を知ってたな?だから俺が選ばれると思ったということか。

「良かったわねー、こんな美少女から『私の勇者様!』なんて言ってもらえるなんて。」

 悪戯な笑みを浮かべたルナが横に並ぶ。

「お前、この話知ってたな?」

 ルナが「当たり前でしょ!」という顔してやがる。

 教皇様が続ける。

「この孤児院にいる子どもたちは、同じ頃に同じように親を亡くして、奴隷にされるのを助け出された子どもたちなんだよ。だから、この孤児院の子供達にとって、アルフレッド・ガートナーと言えば、救世主とか勇者と想われているのだよ。」

 え?マリアだけでなく、この孤児院の子どもたち全部?…照れくさい。話を変えよう。

「まぁ、それは良いとして、ルナ自身は俺のところに嫁いでも大丈夫ってのはどういう意味なんだよ。俺は爵位も低いほうだし、礼儀もなってないだろ?なんで俺のところなら良いんだ?」

 むっとした表情でルナが答えた。

「貴方だけなのよ?私のことをちゃんと見て、正しく評価してくれて、対等に話せる相手は。」

「そういえば『お転婆姫』なんて呼ばれてたときも、ルナはただの落ち着きがない女の子と言われてたけど、実態は違ったもんな。ちゃんと大人の話を難しい内容すら理解していて、それでいて決断が滅茶苦茶早くて、行動力があるってだけで、考えなしに行動していたわけじゃないし、実際は判断が難しいものでも素早く決断していただけだもんな。

 最初『お転婆姫』の噂を聞いていて、あまり会うのを気乗りしていなかったんだが、会ってみて噂は当てにならないって思ったよ。」

「そ、そんなこと真顔で言わないでよ。恥ずかしいじゃない。

 でも、その頃、大人でもそう見てくれる人はいなかったし、ましてや一緒に行動してくれる人なんて、アルフしかいなかったのよ?

 それだけでもアルフのところが一番安心できるのよ。わかった?」

 …俺、無理矢理連れ回されただけだったような気がするけど、黙っておくか…

「わかったよ。とりあえず今日のところは、一段落したことだし、入寮手続きして、部屋に行くか…」

「それは良いんだが、コイツの処分をどうするか決めなきゃいかんのだが、学園長からはアルフレッドの意見を聞いてから、と言われていてな…」

 と、ガクトを指差しながらバスコ先生が言う。

「学園の趣旨を考えれば、初回は厳重注意、でしょう。

 次に同じことやったら、命の保証はされない事を理解してもらって、ですが。」

「そうですね。その時は私が容赦なく潰します。」

 いつの間にかガクトの背後から、逆手に持った短剣を首に当ててアンナが続けた。

「いや、殺すな。」

「じゃ、こちらを潰しておけば良いですね。」

 と短剣を股間に移す。

 相当な殺気を当てられているらしいガクトが、青い顔をして震えている。

「アンナ、とりあえずそのくらいにしておいてくれ。

 コイツの持ってる情報と、王家の持ってる情報などを合わせて今後の予定とか考える必要があるからな。その辺は明日以降にするか。」

「わかった。とりあえず、ガクトは私が寮まで連れて行こう。明日の放課後に一度集まって情報整理とするか。」

 そう言って、バスコ先生はガクトを連れて行った。

 

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