第10話 寮の部屋へ

 カーシャとメリッサは、まだ回復しきれていないようなので、教会で回復まで面倒を見てもらう事になった。なので、マリアとルナの護衛がいない状態になったのだが…

「アルフとアンナがいれば大丈夫でしょ。さ、行きましょ!

 私たちを守ってね、私たちの勇者様❤️」

 そう言って俺の右手を掴むルナ。

 …小さかった頃にも、同じように手を引かれてたなあ…と思い出す。

「そうですね。何かあればアルフさんが守ってくれますよね。私達の勇者様❤️」

 左腕を柔らかい感触が包む。そう言ってマリアが腕を抱くようにしがみついてきていた。俺の左腕が幸せに包まれてる…ルナは…ちょっと足りないか…

「ナニか?」

 冷ややかな目をしたルナがこちらを向いた。

「女の子は男の子の視線に敏感なのよ?どこを見て何を思ったのかな?」

 怖っ…なんだろうか、竜の逆鱗に触れて怒らせたような感じがする…

「いや、な。ルナもマリアに対抗して同じようにしてくるのかと思っただけなんだが?」

「と、当然でしょ!」

 そう言って俺の右腕に抱きついてくる。ささやかながら、女の子特有の柔らかさに包まれる幸せ。これが両手に花というやつか。ルナは顔を真赤にしているが…

「さて、そろそろ寮に行かないと時間が遅くなりすぎて夕飯が無くなりそうだ。

 アンナ、一緒に行って3人分の手続きを済ませよう。」

「はい、アルフ様。」


 学園まで戻り、その隣の敷地にある寮まで来た。

 受付について衝撃の事実が判明する。

「え?部屋が足りない?」

 どうやら手続きに来るのが遅かったせいで、俺の部屋の分が足りないらしい。

 というのも、今年の合格者は地方の平民が多いので、その分部屋が埋まっている、と。しかもその大半がガートナー領からと言われると、文句も言えないんだよな…

 さて、これは困ったな…

「それなら、王家の別宅を私とマリア、アルフが使えばいいのよ!アルフたちは、私たちの護衛も兼ねてもらえれば、完璧じゃない。」

 ルナがとんでもないことを言い出した。

「ちょっと待て。女性だけの中に男が俺1人で入ることはまずいだろうが。

 その辺の問題があるから、2人とも護衛が女性騎士になってるんだろ?」

「それなら問題ないわよ。だってアルフは勇者だもの。」

「そ、そうです!アルフ様は私の…いえ、私たちの勇者様ですから!」

「それに私たちの護衛より、アルフとアルフの護衛の方が優秀で安心できるってハッキリしちゃったものねぇ…あの子たちには悪いけど、聖女と王族を護衛するってことでお願いできないかな?」

「いや、でも一緒に住むのは違うだろ…」

「護衛って常に一緒にいないと意味がないじゃない。特に今日みたいなことがあった後だから、余計に一時も気を抜けないわよね?」

「そうです!勇者と聖女は離れていたらダメなんです!」

 ん?なんかちょっと気になる言葉が…

「なぁ、マリア。なんでさっきから『勇者』って言ってるんだ?」

「あ…

 …その…実は…前々からアルフさんの名前を知っていたのですが、朝に助けてもらって、『私の勇者様』はアルフさんしかいない!と…」

「あー…」

 いや、まあ、孤児院に来たキッカケと言い、そう思っちゃうのは仕方ないか…

 と、ルナが反応する。

「じゃ、マリアが聖女ってことなの?」

「いえ、私が聖女として認定されたのかはハッキリしてないんですけど、アルフさんが『私の勇者』になるのは確実です。」

 ん?待てよ?

「なあ、神託はなんだったっけ?」

「えーと

『魔王復活を目論む者たちがいる。近いうちに孤児の中から聖女が選別されるだろう。』

 だったわよね。」

「あー、魔王が復活してから聖女が選別されるわけじゃないのか。それに勇者が選別されるとも言われてないし、魔王が復活するとも言われてないんだな。あのバカのせいで勘違いしてたのか…

 まぁ、その辺は部屋で考えよう…って、その部屋がないんだった…」

「いや、だから王家の別宅で良いじゃない。この話、あまり人の目があるところでできないでしょ?」

 いや、しかしなぁ…女性ばかりの中に俺1人男ってのは…

「アルフ様、ここは王家の別宅で仮住まいするのも良いのでは無いでしょうか。まだ例の件の黒幕がハッキリしていないのですから、その辺の相談もそちらの方が進めやすいと思いますよ。盗聴対策もしっかりしていると思いますし…」

 アンナまで…でも確かにそうだな…

「そうだな、そうするか…」

 ため息混じりに、そう答えるのだった…


 そうして、寮の管理人に「王家の別宅に3名で住むことにした」と説明し、後から来る2人の護衛への言付けを頼んで王家の別宅まで徒歩で移動する。

 

 んー…3人かな?上手いこと気配を隠しているようだが、尾行されてるなあ…まだ殺気は感じられないけど、敵意のようなものは感じるんだが…ルナの裏の護衛が王家からコッソリ付けられているのか、それとも邪教集団の監視か…

 学園の正門を越えて寮と反対側の隣に王家の別宅はある。徒歩で10分弱。その門に近づき、開けようとルナが前に出て近づいた途端に動きがあった。咄嗟にマリアを引き寄せ、ルナとともに背中にかばう。

「アンナ!」

 声をかける前にアンナは動き出していた。そしてアンナの投げたクナイによって1人脱落。残り二人。

「どういう要件かな?ここまで敵意丸出しだと、殺す気は無さそうだけど、王女と聖女候補の誘拐が目的というところかな?」

 眼の前の黒装束に問うが答えはない。が、代わりに剣による攻撃が来た。

 その剣はぬらっと光っている。毒が塗ってるのか。

「アンナ!剣に毒がぬられている!傷を受けたら致命傷だと思え!」

「はい!」

 剣による攻撃を避けつつ、後ろの二人を守るというのもなかなか難儀だな。いい加減鬱陶しいから少し大人しくなってもらうとするか。

 相手の剣を右手に持つ短剣で受けつつ左掌をかざす。

 バチィッ!

 火花が飛んだあと、相手の体全体をバチバチと光の蛇がまとわりついていく。カラン…相手の剣が地面に落ちる。

 これで無力化できたか。暫くは身体の自由がきかないはずだ。

 アンナの方も相手の利き腕を切り落としたところだった。が、腕を切り落とされた相手は即時退却する。俺の目の前で蹲っている黒装束の一人を置き去りにして。

「逃すか!」

 それを見て俺はすぐに圧縮した空気の塊をぶち当て気絶させた。そして電撃で麻痺しているもう一人も気絶させる。眼の前で毒を飲んで自決をされたら、流石に寝覚めが悪いからな。

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