第6話 前世での創作物
「ここがそうだ。」
バスコ先生に案内されて、ルナと共にガクトを捕らえている警備兵の詰所まで来た。
…なぜかあの場にいた全員が付いてきたけど…
ルナがメリッサを連れ、先行して入る。俺たちは扉の影に隠れて待機だ。
「貴方がガクト・ランドルフね。私はルナリア・アルティスよ。
少し話を聞きたいのだけど、良いかしら?」
「王女様かよ。驚いた。でもどうせアンタも妄想を語ってるだけだと言うんだろ?」
ちょっとヤケクソ気味な返事だ。
「その妄想について聞きたいのだけど?
『魔王が復活して、聖女と勇者が選定される』と言っていたようだけど、それ以外に知ってることがあるなら教えて欲しいのだけど。」
「ああ。魔王が復活して、最初に聖女が選定されるんだ。
そして俺が勇者に選定されて…」
「それはどうでも良いの!
魔王がどうやって復活するのか、誰がいつ頃、どこで復活させるのか、とかに関しての情報はないの?
その辺の『事前に備えるため』の有益な情報を知りたいのだけど。
そしてそれが正しければ、貴方の話を信用するに足る話だ、と言えるようになるのよ。今のように貴方が勇者になるってだけだと、妄言としか取られないわよ。」
ピシャリとそう言われて、ガクトが黙る。
「わ、わかった。
えーと…確か、魔王は邪教集団によって復活する。
大量の違法奴隷を生贄にして呼び出すんだ。
その大量の奴隷はガートナー領の各地から集められていて、ガートナー家の奴らはそれを放置しているんだ。だからアイツは極悪貴族で…」
「脱線させないで!」
ルナの厳しい一言で中断させる。
「貴方の感情なんか、今ここでは何も意味はないの。知ってる事実だけを話してちょうだい。
それと、一つ残念なお知らせがあるわ。
ガートナー領での違法奴隷に関しては、5年前の時点で組織全体を壊滅させてるわ。王都まで影響が出たほどの大規模組織だったけど、それに伴って幾つかの貴族も粛清されてるの。
6年前にガートナー領のある村で、巧妙に隠されていた村長主導の奴隷狩りを、貴方が極悪貴族というアルフレッド・ガートナーが暴き出して、1年かけて壊滅させたのよ。
だからガートナー領では違法に集められる奴隷は一切無いわ。」
なんでルナがそこまで詳しく知ってるんだよ。怖いわー。って、王家と一緒に組織潰してたんだから、ある程度情報渡っていても仕方ないか。
…アンナはうんうんと頷いている。
「で、魔王復活は『誰が』、『何の目的で』、『いつ』、『どこで』やると言うの?」
ルナの剣幕に、フリーズしていたガクトが再起動する。
「あ、ああ…それはラーミア教の司祭が、『魔王を倒す際に勇者と共にラーミア様が力を発揮するはずだから、魔王を復活させて聖女を認定し、勇者を生み出せば、魔王討伐の時に力を示したラーミア様の威光を使ってラーミア教の権威を高めることができるはず』と…」
「その司祭の名前は!?」
「そこはわからない…」
「じゃ、その儀式はどこで…」
ふと気づいてしまった。そして扉の影から飛び出てルナに声をかける。
「ルナ!神託があったと言ってたな。それはいつの事だ!?」
「…一週間前だけど…」
「その『神託を受けた』のは誰だ!?」
「えーと…確か孤児院のシスターだったかと…」
「そうです。私がいた孤児院で、孤児たちの面倒を見てくれていたシスターで、テレサさんです。」
マリアが出てきて答える。
「そのシスターの今の居場所はわかるか!?」
「え?そう言えば、昨日から見かけない気が…」
「クソッ!急いで確保に向かうぞ!口封じされる可能性がある!」
「「え?」」
全員フリーズしてやがる…
「その『神託』がニセモノの可能性があれば証拠隠滅。ホンモノなら次の神託を止めさせるためだ。聖女選定の神託が同じシスターに降りる可能性があるだろ。その司祭の立場からすれば、違法奴隷を集められないなら魔王復活に時間を稼ぎたいはずだ。どっちにしろそのシスターが危ない!」
全員の顔色が変わる。
「マリア、カーシャ、孤児院まで案内してくれ!ルナ、メリッサと2人で応援を呼んでくれ。バスコ先生は充分戦えますよね?期待してますよ。」
「かなわんな、お前は…」
苦笑しつつ同意するバスコ先生。そして警備兵に学園長にこの話を伝えるように伝言していた。
「お前も来い!充分な戦力になるだろ!」
とガクトにも声をかける。
「わ、わかった。」
事情を把握しきれていない様子だが、同行させることはできそうだ。
「イヤな予感がする。急ぐぞ!
アンナ、カーシャと連携してマリアの護衛を頼む。この中で一番戦えないのはマリアだからな。」
「わかりました。」
こうして、孤児院に向かうのだった。
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