第3話 クラス内の自己紹介

 入学式のあとは各クラスに分かれて、担任から学園内での設備や授業内容についての説明を受ける予定だ。

 俺のクラスはAクラス。クラス分けは各成績を考慮して振り分けられる。別に成績が良い順で集められるわけではないので、合格通知の際にクラスも連絡を受けている。

 一クラスあたり40人程度。毎年1学年に約400人ほど入学するので、A〜Jクラスの10クラスに分かれることになる。

 アンナを連れ、事前に連絡されていた教室に入るとマリアが女性騎士らしき人と一緒にいた。

 マリアにも護衛が付いているのか。大きな商家か、貴族なのかな?

 そんなことを思いつつ挨拶を交わす。

「同じクラスだったか。知ってる人と同じクラスで助かるな。」

「はいっ!私もです!」

 満面の笑みが返ってくる。

 と、その横から冷徹で攻撃的な声が割り込んでくる。

「すまないが、マリアベル様に近づくのは控えていただきたい。」

「カーシャさん!」

「ですが、異性を近づけぬようにと厳命されておりますので…」

 あー、だから護衛が女性騎士なんだ、と納得した。

 貴族の子女や商家の娘などは、余計な虫などつけずに清いままで卒業式を迎えてほしいという親の願いで、護衛も女性のみにする場合があると聞く。そのパターンか。


「この方は、あのアルフレッド・ガートナー様よ!おまけに先程私が危ない状態になったときに身を挺して助けてくださったんです!お礼を言うべき立場なのに、いきなり敵対するのは正しい行いと言えるんですか!?」

「いや、それは、その…」

 そんな二人の会話を止めたのは、教室入口に現れた担任の一言だった。

「さあ、生徒は席につけ。護衛は教室の端に行ってくれ。」

 各自が移動し、生徒と護衛とが分かれたのを確認すると、

「私がこのクラスを担当することになったバスコ・ノワールだ。よろしく頼む。」

 なかなか渋い声のダンディなおっさんだ。入学式での自己紹介では、近衛師団を退団して教師になったとか言う話だったな。王女の入学に合わせての対応かな?恐らく王家の意向で一時的に教職として王女の護衛も兼ねるのだろう。

「今日のところは護衛も教室内にいるが、これは護衛の顔見せも行うためだ。明日以降は授業中は別室で待機してもらうことになる。わかったな?」

 そう言ってバスコ先生は生徒たちを見回した。

 ちなみに席は決まっていないので、俺はマリアと並んで座っている。

 このクラスの生徒数は39人なのかな?とバスコ先生の視線の動きに合わせて教室内を見回していると

「このクラスは40人の予定だが、1名事情があって今はここにいない。まぁ、その辺の細かい事情は一部の人間はわかっていると思うが、今は気にしないで良い。ここにいる全員の自己紹介をしていってもらおうか。当然、生徒だけでなくその護衛もセットでな。各々の護衛も顔を覚えておけよ。何かの時に護衛が連絡役になることもあるからな。」

 そしてバスコ先生は俺と目が合うとニヤっと口元を歪ませた。

 あー、朝のアレか…つまりアイツも同じクラスなんだ…

 ふと、横を見るとマリアも朝の出来事を思い出したらしい。少し嫌そうな顔をしていた。


 Aクラス内の自己紹介が始まった。

 前の席から座っている順に自己紹介を行っていった。

 平民からの入学は決して多いというわけではないが、このクラスでも最前列の時点ですでに5人ほどいる。当然護衛などはいないので、出身と名前くらいで終わっているが、それでも優秀そうな顔ぶれに見える。


 ちなみに王立学園内の平民では、我が領出身者が非常に多い。というのも、他領では試験前には読み書きを教える程度ではあるが、ガートナー領では更に踏み込んで基礎的な知識や戦闘訓練などについて8歳から14歳を対象にした学園準備校を作って教育しているからだ。

 これは俺の提案で実施したことでもある。

 7年前、俺がまだ8歳だったときに領内から王立学園の受験をしに、平民がまとまって移動しているときだった。道中、彼らが野盗に襲われた事があった。その時に偶然近くにいた俺と剣術の師匠、魔法の先生とで助けたことがあったのだ。以来、王立学園への入学前にある程度の自衛ができるよう子どもたちに教育をしておいた方が良いという話からできたものだ。

 結果的に領内の子どもたちの基礎学力や武力が高くなり、王立学園への入学率が高くなったのである。

 学園準備校に関しては奴隷狩りと称して領民が襲われたのを誤魔化されないよう、子供たちを確認する意図もあったから、なかなか良い方法だったと思う。

 あとから思えば、あの時の襲撃は野盗ではなく急激に力をつけてきたガートナー家を貶めるために目論んだ他貴族の差し金という可能性もあったのだが、領民が無事だったので特に深追いはしなかった。それどころか結果的に領民が全体的に力をつける結果になったのだから、却ってガートナー領に手を出しづらくしただけだったな。その後も何かとガートナー領内で犯罪組織が暗躍したりしていたが、最大の組織を壊滅まで追い込んでからは、ガートナー領はアルティス王国内で一番治安の良い領地と言われるようになった。この話はまた今度。


 さて順番も進んで、マリアの番が来た。

「マリアベル・ストレインと言います。ラーミア教の運営する孤児院出身です。護衛にラーミア教の神殿騎士カーシャがついています。」

 と礼をする。

 神殿騎士が孤児の護衛?なぜだ?ちょっとよくわからないな。後でマリアに聞いてみるか。

 というわけで、俺の番だ。

「アルフレッド・ガートナーという。

 ガートナー子爵家の嫡男だ。専属メイド兼護衛のアンナがついている。彼女が非常に優秀なので護衛も兼ねている。彼女ともどもよろしく頼む。」

 と礼をする。

 そしてクラスメイトの『なんでここにメイドが?』という疑問が解消されたようで、納得と羨望の眼差しが向けられる。

「アンナさんって、すごく優秀なんですね。」

「ああ、4年前にこの学園を首席で卒業したらしいからな。卒業後、数ある進路の中でガートナー家のメイドを希望して来てくれたんだ。」

 そう、彼女含め7年前の事件のときに王立学園に行った領民は全員優秀な成績で卒業したにも関わらず全員がガートナー領に戻り、ガートナー家に関わる仕事を希望したんだよな。おかげで準備校も質が上がって領民が王立学園に入学する率が増えたし、領軍の編成も順調に進んだんだ。その分、父上はアチコチから色々と言われていたらしく、珍しく愚痴を言っていた時期があったのをよく覚えている。


 そして順調に自己紹介も進み、39人目、金髪碧眼の美少女が、優雅な所作で立ち上がり、透き通った声で自己紹介を始めた。

「ルナリア・アルティスです。第二王女ですが、王位継承権も返上する予定ですし、皆さんと同じクラスの生徒ですから、様付けは無しで呼んでくださいね。護衛は近衛騎士団からメリッサが来ています。」

 さすがに平民の子たちは目を丸くしてるな。

 ってか、ルナ、王位継承権を返上する予定ってなんだ?

 …お転婆姫だから?

 そんな事を思ったら、ルナにジト目で睨まれた…

 …なぜか背筋に冷たいものが走った…こいつ、昔より勘が鋭くなってないか?


「これで一通りの自己紹介が終わったな。

 ちなみに、今ここにいない最後の1人はガクト・ランドルフと言う。明日は各講義内容について講師紹介兼ねて行う。明日以降は護衛は別室で待機となるので、護衛まで含めて揃うのは今日だけだ。と言うわけで今日のところは、コレで終わりだ。

 このあと各自入寮手続きをするように。

 ああ、そうそう、アルフレッド・ガートナーとマリアベル・ストレインは少し残ってくれ。話を聞きたいことがある。

 以上だ。解散!」

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