バディ結成

「ということで、よろしくお願いしますね。」

 ギルドでパーティー契約を結んだ俺とリーナは、リーナの家に向けて歩いていた。

 「元はと言えば、私は解放軍のこと、あんまり好きじゃないんですよ。」

 馬を引きながらリーナはそう愚痴をこぼす。

 「あの人達、自分の利益のことしか考えてないんです。自分たちが戦えればそれでいい。ピンチでも自分たちが助かればどうだっていい。そう思っているようにしか見えません。だから、私は戦士様に一泡吹かせるという利害の一致したアキラと一緒にチームを組んだんです。」

 そう言ってリーナは頬を膨らませている。確かに解放軍は俺に食料や水の1つもくれなかった。自己中だというリーナの意見はものすごくよく分かる。

 「しかもその癖に私たちの村の大切な食料や資源を毎週のように大量に運ばせるんですよ!あんな量絶対いらないですよ!」

 確かに初めてリーナと会った時に馬車の荷台に乗っていた荷物の量は普通に考えておかしい量だった。コロニーを見たからこそ分かるのだが、あんな量の食料や武器は絶対に必要ないはずだ。実際、目にする兵士の数もそんなに多くなく、あの荷物の量は過剰と言えるような量だった。

 「だから私、あの運送の仕事をサボりたかったんですよ。あんなことに加担してるみたいで嫌だったんです」

 「でも、街の人は普通に挨拶してくれてたじゃないか」

 「それは私の一家があの面倒臭い仕事を受け持ってくれたからですよ。普通なら私の家はあんな風に感謝されるような家でもないので。それに、普段ならあんなにいい雰囲気で挨拶はしてくれません。」

 そう言ってリーナは俯く。どうやらリーナの家庭には何かしらの問題があるようだ。

 「着きました。ここが私の家です。」

 村から遠く離れた、いや隔離と言ってもいいような場所にある一軒のログハウス。そこがリーナの家のようだった。


 「シエルー。帰りましたよー!」

 そうリーナが言うと奥からリーナよりも背の高い少年がやってくる。

 「お帰りなさい、リーナお姉さん!あれ、そちらの方は?」

 シエルは俺の方を見て首を傾げる。

 「あれ、リーナお姉さんもしかして彼s――グホッ!」

 恐らく彼氏と言いかけたであろうシエルにリーナは思いっきり拳をぶつけていた。絶対痛い。

 「そんなわけないじゃないですか。彼は解放軍に物資をもらえないで倒れていたところを助けたただの冒険者です。」

 リーナがそういうと、シエルは頬のあたりを両手で押さえながら立ち上がり、そうなのですねとだけ答えていた。明らかに姉に怯えている。これは。

 「それでなんですけど、シエル。リーナお姉さんはシエルにお願いしたいことがあって〜……」

 そう言ってリーナはシエルに寄っていっている。怯えているところにこれは完全なるオーバーキル。お願い事を聞かなければまたあのパンチが飛んでくるかもという恐怖に駆られることになるだろう。実際、あんなに身長差のある兄弟なのに完全にリーナの方が優勢に見える。シエルはもう顔が負けましたと言う顔になっている。

 「ひゃ、はい……。なんでしょうか?なんでも言ってください」

 完全にへっぴり腰のシエルにリーナはあのお願いを容赦無く突きつけた。


 「私はこれから彼の特訓のサポートのためにダンジョンを巡ります。なので、解放軍への物資の輸送をお願いしたいんですよ〜。分かるかな?」

 もう完全に威圧をかけている。こんなのされたら俺でも断れないだろう。兄弟は居なかったからわからないけど……。

 「わ、わかりました‼︎明日からはこのシエルにお任せください!お気をつけて!」

 シエルがそう返事をすると、リーナはこちらへと歩いてきてにっこりと笑ってこう言ってきた。

 「と、いうことなので。明日からダンジョンでの修行にお供しますね。よろしくお願いします」

 もう今その笑顔を見ても少し恐怖の方が勝ってしまう。兄弟ってあんな風なことがあるんだな、と身をもって実感してしまったのだった。

 

 ◆

 

 「そういえば、なんでこんなところに家があるのか気にならないんですか?」

 夜。リーナの家に泊めてもらうことになった俺は屋根上でリーナにそう聞かれ、どう返答するか迷ってしまった。

 確かに気になることには気になるのだ。しかし、どこか触れてはいけないような禁忌な気もしてしまう。

 「その顔は聞くべきかどうか迷っている時の顔ですね?私には分かりますよ。そういう人を沢山見てきたので」

 そう言ってリーナは俺の鼻を指でツン、と突いた後で立ち上がり空に輝く月を見ながら話をし始めた。

 「私の家には元々お母さんとお父さんも住んでいました。けれど、2人とはもう長いこと会っていません。なぜだと思います?」

 そう言ってリーナは俺の方へと振り向いてくる。

 「遠征に行っている……とかか?」

 「違います。もっと悲惨でした。これは私が話すべきだと思っているから話しているので。私のことは気にせずに聞いてください」


 リーナは息をスッと吸うとまた話し始めた。

 「私の母親は魔法使いでした。それもとても優秀な。今いる怪物くらいなら一発で仕留められるくらいの実力があったのではないですかね……」

 そう言った後で、リーナは俺にこう言ってきた。

 「けれど、お母さんは『魔女狩り』に遭いました。」

 

 

 

 

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