俺も知らなかった第2スキル

「2個もスキルを持っているなんて!珍しいですよ!それにどちらも見たことのないスキルです!興味深い……」

 そう言ってシューミさんは何やらメモ帳のようなものを持ってきて必死に俺のスキルをメモしている。それよりも、俺が驚いているのは俺自身も知らないスキルが一個追加されていることだ。

 スキルの名前は『カスタムダンジョン』というものらしい。この水晶が言うには、だが。

 「なるほど!アキラさんのスキルがどんなものか分かりましたよ!」

 

 そう言ってシューミさんはブラックボードを180度回転させて白い面を見せるようにしてくれ、何かを必死に描いているが何も見えない。

 「シューミさん、白の面に白のチョークじゃ描いても何も見えませんよ……」

 リーナが呆れたようにそう呟くと、シューミさんは何事もなかったかのように赤いチョークを取り出して図を描き始める。

 描かれた図を見ても俺はさっぱりだったが、リーナの方はその凄さを理解したようで俺の方をキラキラとした目で見てきている。

 

 「まず1つ目のスキルである『限界突破オーバードライブ』についてです」

 そう言ってシューミさんは胸ポケットから刺し棒を取り出すと、人の描かれた場所を指し示す。

 「このスキルは簡単にいえば自分の限界を無理やり引き上げて戦うスキルです。ただし、弱点もあります」

 そう言ってシューミさんは人のイラストの横に水の入れ物のようなものを描いた。

 「水はたくさん注げばいつかは溢れますよね?このスキルはそれと同じように合計使用量の上限があります」

 俺の最終的な予想は当たっていた。やはりこのスキルは限界を引き上げた合計量がどのくらいかによってパワーをどの程度まで突破させるかを決めるスキルということだ。

 「どうやら水晶のデータによるとこの上限を限界までにあげるのには数十年はかかるということらしいです」

 冗談じゃない。そんな数十年も経ったら体も大分衰えてしまうだろうし、その間にも戦士様は確実にチートで強くなっていってしまうだろう。そんな俺の心を見透かしたかのようにシューミさんは次のイラストを指し示し始める。


 「普通ならそんな10年以上も能力アップになんか使えません。そこで、この第2スキルです!」

 そう言ってシューミさんはダンジョンの入口のようなものが描かれたイラストの方へと移動する。

 『カスタムダンジョン』が言葉のままの意味だとしたらダンジョンの内容を自由にいじれるということになる。

 しかし、シューミさんの説明は少し異なるものだった。

 「これは元あるダンジョンに入るところまでは変わりません。ただ、入った後に並行世界的なダンジョンに送られるみたいです」

 「つまり、自分でカスタマイズするというよりもカスタマイズされたダンジョンが出てくるって感じか?」

 そう聞くと、シューミさんは首を振ってホワイトボードにまた何やら描き足している。

 「出てくるのとはちょっと違います。接続される、といった感じですね」

 そう言ってシューミさんは2つのダンジョンの絵を枝分かれした矢印で繋ぐ。

 「この入口自体は他の冒険者と変わりません。でも、中身は全く別のダンジョンに接続されるという感じですね。入るメンバーのスキルなどの成長に役立つようなダンジョンができるらしいですよ」

 そうか、つまりこの世界とは全く違うダンジョンにワープするのと似た感触なのだろう。自分に最適なダンジョンを探す手間をかけることがなく、近場のダンジョンに入るだけでそのダンジョンにアクセスできるということになる。既に攻略されてしまったダンジョンだとしても俺には行く価値ができるということだ。これは凄いことだ。もしかするとチートスキルを持つ戦士様よりも凄いスキルかもしれない。


 「じゃあ、早速近場のダンジョンにでも潜ってみるよ。それが俺の強化への近道になるわけなんだし」

 そう言って、ギルドを出ようとするとリーナが俺の服の袖を引っ張って止めてくる。

 「待ってください。一人で行ってどうするつもりなんですか?動けなくなったらそれこそ行った意味も無しに死ぬことになるんですよ?ヒーラーの一人は一緒に行かないとですよ」

 リーナの提案は言うとおりだ。まずは一緒に行ってくれるヒーラーを探さなくては。

 俺はそのままギルドの奥の募集掲示板のような場所へ向かおうとすると、またリーナは俺を引っ張って止めてきた。

 「なんでそっちに行く必要があるんですか?」

 「いや、だって一緒に行ってくれるヒーラー職の人を探さなきゃって……」

 そう言うと、リーナはため息をついてから俺の方をその小さな体で見つめてくる。

 「なんで私は候補に入らないんですか?ここの街にいる最低レベルの回復ヒールしかできないへっぽこなヒーラーよりも仕事はできますよ?」

 そう言ってグイグイと迫ってくるリーナに俺はちょっとした言い訳、いや思っていたことを言う。

 「いや、だってお前は解放軍への物資を運ぶ仕事があるだろ?それはどうするんだよ。」

 そう聞くとリーナは少し悪い顔をしてから悪びれもなくこう答えてきた。

 「弟に押し付けます。」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る