リーナの過去
「魔女狩りって……あの魔女を殺すっていうあれか?」
そうリーナに聞くと、頷いて返してきた。
「その魔女狩りです。それも殺され方は残酷なものでしたよ……。本当に同じ人間が考えるようなことかと目を疑いました」
「こんなことを聞いて悪いが、どんなのだったんだ?」
またリーナは少し間をおいた後でこう答えてくる。
「『獣人狩り』と呼ばれる殺され方でした。簡単に言っちゃえば檻の中に受刑者を縛りつけるんです。そこに獣人化のスキルを持った人が何人か入ってスキルを発動させるんです。あとはもう分かりますよね?」
想像するだけでも悍ましい。確かに人間が考えるような処刑方法ではない。
「それはもう酷いものでした。見てられませんでした。私のお母さんは獣人達に心臓を引き裂かれ、脳を引きちぎられ、臓器という臓器を引きちぎられ、血まみれになって檻の中で死にました。」
もうご愁傷様としかいえない。それ以外の慰めの言葉が全く思いつかない。そんな中でもリーナは話を続ける。
「お父さんはそんなお母さんと結婚した罪で牢獄に入れられました。お父さんはお父さんで凄腕の鍛治師でした。お母さんの杖を毎回新調したり、修理していたのもお父さんでした。」
「そんな!お前の父親は何も悪いことしてないじゃないか!」
そういうと、リーナは頷く。
「そうなんです。でも、魔女を生み出した原因はお父さんの杖だって皆が言ったんです。それでお父さんは獄中で鞭打ちなどをされ続けた結果、死んでしまいました。」
リーナはまた俺の横に座ると、泣きそうな目をしながら俺の方を向いてきた。
「これが、私の一家に起こった悲劇です。」
「そんな……。あまりにも酷すぎるだろ、こんなの」
転生前に教科書でしか聞いたことのないような残酷な内容に俺は心がモヤモヤを超えたものに支配されていた。
「だから私はこうやって何も疑われることのないヒーラーの職業についたんです。いや、ついたというのは少し嘘になるかもしれませんが、今はそういうことにしておいてください。シエルは父親と同じように鍛治師になりたいと言っていますが、許可されるか分かりません。」
「そうだったのか……だからこんなところに家が」
「そうです。昔の私達の家はあそこにあったんですよ。一番いい土地と言われているあそこにお父さんが鍛冶屋を開いていました」
リーナは灯りの灯っている街の城に近い繁華街の辺りを指さしている。
「そうだったのか……」
俺がそう暗いムードになってしまっていると、リーナは俺の背中をトントンと叩く。
「そんなに暗くならないでください。私はこうやって私を頼ってくれる人を見つけたことが嬉しかったんです。いくら頑張っても私は曰く付きのヒーラーとして扱われて誰もパーティーに入れてくれなかったので。戦士様もその一人でした」
戦士様も、なのかと思いながらも俺はどこかで納得していた。チートスキルを手に入れたなら鑑定など容易くできるはずだ。それも経歴までも見れるような上位の鑑定を。そんなことをしたらリーナをすぐにトラブル防止のためにも避けた方がいいと分かるはずだ。
そんな中、俺はリーナに会った時の第一印象で頼れると判断した。けれど、それは間違いじゃないと感じた。実際、俺は今こうやってリーナと話していて安心できている。それにリーナがいなければ俺はあそこでのたれ死んでいたはずだ。
「俺はリーナが助けてくれなきゃ死んでた。だから俺はお前に恩返しをしたい。そういう意味でも俺たちはパーティを組んで正解だったのかもな」
そう言うと、リーナはそうですねと返してきて窓から部屋へとピョンと入っていってしまう。
「もうこんな時間ですし、そろそろ寝ましょう。私達は明日からダンジョンに行くのですから」
「そうだな。今のうちにしっかりと寝とかないとだな」
俺は屋根にかけていた梯子を使って玄関の方へと降りる。この梯子はリーナの父親の形見なのだとか。俺は側から見たら変ではあるが、梯子に向けて葬いの意味を込めて合掌をする。梯子を家の横に掛け直し、片付けた後で月明かりに照らされたログハウスの玄関を開け、俺は客人用の部屋へと入る。簡素なベッドだが、それでもこんな風に泊めてくれるだけとてもありがたいことだ。俺は有り難くその恩恵を受けることにし、ベッドに横たわり眠りへついた。
◆
「あの『限界突破』を使う少年、侮れないな」
派遣した兵士から話を聞いた戦士様はそう呟く。
「はい、我々が到着した頃にはもうすでに怪物は倒されていました。戦士様と同じような力をお持ちかと思われます」
戦士様と呼ばれて様々な人から慕われている少年、ショウタは頭を抱える。この世界で唯一の最強の力を手にして尊敬される主人公的な立場になろうとしていたのに、そこに水をさすようなライバルが現れた。これは致命的な問題だ。
「おい、しばらくあの少年に見張りをつけろ。場合によってはあいつを
そう言うと、兵士はハッと言ってまた奥へと下がっていく。
なんとしてでも主人公の座は譲らないようにしなければ。ショウタはそう思いながら次の作戦を練っていた。
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