初めての撃破
「良かったら、これ、どうぞ」
そう言って少女が渡してきたのはパンだった。
この世界に来てから初めての食事。俺は夢中になってそのパンに齧り付いた。なんせこの世界に来てから初めての食事なのだ。コロニーでも貰えなかった食べ物を貰うことができたのだから、相当運が良かったのだろう。そう思っていた。しかし、そうでは無かったのだ。
「来た方向的に戦士様率いる解放軍のコロニーから来た人ですよね?そこで食料がもらえなくて、こうやって道端で倒れていた、という感じでしょうか?……。」
彼女の洞察力には驚くものがある。ここまで鋭いと何か暗殺のスキルでも持っているのではないかと心配になる。しかし、もしそうならこんな風に俺を助けてくれなかっただろうから、その線は薄い。その見た目からはむしろ、聖職者などのスキルを持っている可能性の方が高いかもしれない。
「一気に色々喋ってしまいました。すみません。私はリーナと言います。治癒師として活動させてもらっているのと同時に貴方も通ってきた解放軍のコロニーに物資を届ける仕事をしてます。この子は愛馬のファラスです。」
そう言ってリーナは手を差し出してくる。握手ということなのだろうか。俺は手を取って握手をしようとすると、リーナは豆鉄砲を喰らったような顔をしてからこう教えてくれた。
「そういえば戦士様も同じミスをしていましたね……。こうやって挨拶をするんですよ。」
そう言ってリーナは俺の手とリーナの手を勢いよくぶつけてタッチのような行為をする。そうか、タッチがこの世界の挨拶なのかと理解する。手がジンジンするが、悪い気は全くしない。
「俺はアキラ。アキラ・カサクラだ。戦士様と同じような感じでこの世界に生まれた……はずだ。多分。」
そう簡潔に挨拶を済まそうとしたつもりだったのだが、思ったよりもリーナは食いついてきてしまった。
「え、戦士様と同じように膨大な力をお持ちなんですか!?もしかして最近コロニーの方で多発してる怪物を一撃で倒したり!?」
「いや、そこまでじゃないな……。というか戦士様には全然追いつきそうにない……。今のところはね。」
そう言うとリーナは少しがっかりしたような顔をしてきた。そんな顔をされてもチートスキルとかいうのにはそう簡単には勝てるものではない。無条件で発動してしまう『限界突破』を制御しないことにはどうしようもないのだ。あのスキルを自分でコントロールできるようになるのが第一条件だろう。
「戦士様も最初は普通の冒険者の人と変わらないようなことしかできませんでした。でも、ある時急に強くなったんです。噂だとダンジョンに入って修行したんだとか……。」
ダンジョンか。確かにダンジョンを一人で攻略するということなら力は確実につくはずだ。
「ダンジョンと一口に言っても色々あるんじゃないか?弱いダンジョンを攻略しても意味はないだろうし……。」
そんなことを話していると、急に空が転生してきたと同じように空が赤く染まり始める。
「この空になったってことは怪物が来るわ!気をつけて!」
そうリーナが言った直後に地面がムクムクと盛り上がっていき、一体の怪物が姿を現した。転生した時に見た個体よりは小さいが、それでも強そうなのは確かだ。
「羽付きの
そう言ってリーナは荷台から銃のようなものを取り出そうとする。しかし、それを怪物が許すはずがない。怪物は羽を使って一気にリーナの方へと加速していく。
咄嗟に間に割り込む。体が熱くなってくる。『限界突破』がまた自動で発動し始めたのだ。そして、同時に俺の中には試したいことが1つあった。それはこの『限界突破』が時間によって動けなくなるのか、使うパワーの大きさによって動けなくなるのかどちらなのかを調べたいのだ。発動さえしてしまえば、出力を上げるのは自分の意志でできる。一気に今ある自分の力を全て解放する勢いで『限界突破』をする。体が一気に熱くなる。
「怪物め!喰らいやがれ‼︎」
俺は一気に力を込めてこの前は通用しなかった固い部分を狙って拳をぶつける。パキッ、という音と共にヒビがはいる。まだ動ける。時間制限なのか。そうと決まればやるべきことは1つ。ひたすら今脆くなったところに拳をパワーを上げながら殴るのみ。
一発。ヒビが広がる。
二発。薄皮が捲れた。もう一発だ。
三発。ついに紫の物体が姿を現した。
もう一発。そう思った瞬間に、あの時の痺れと同じような感触がくる。
「くそっ、またこれかよ!この前よりも使ってる時間は短いのに……!」
今更ながら気がついた。これは時間でもパワーの大きさでもない。合計のパワー使用量でこの体の痛みが訪れるのだ。
「動けなくなるって……。
そう言ってリーナはまた荷台の方へ向かうと、括り付けてあった自分の杖を外して詠唱をしてくれた。
「
回復がかかると、俺は起き上がって動けるようになっていた。
「おぉ!すごいな!戦士様の回復よりも回復したぞ!」
「それよりも早く心臓を攻撃してください!羽付き個体中型は時間が経つと皮膚が回復しちゃいます!」
破壊した皮膚のところを見ると、じわじわとだが皮膚が埋まっていっているのが見える。まだ拳1つ分とちょっとは入る大きさをしている。俺はまた一気に力を込めて紫の心臓を狙って拳を繰り出す。
グチャ!という音がした後で怪物は灰になって崩れ落ちる。チートスキルがなくても怪物を倒せた。それだけでも俺は嬉しかった。
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