少女との出会い

「クソ……。あんな力にどうやったら追いつけんだ?」

 俺はただそう考えることしかできなかった。

 晴れ渡る空の下、一晩休んでやっとの思いで動けるようになった俺は戦士様たちが進んでいった道路をひたすらに歩いて進んでいくことにした。少なくともこんなところにずっと居てはまたあんな怪物が出た時に今度こそ死んでしまうだろう。進んでいったということは町ではなくとも彼らの拠点はあるはずだ。転生先で町でもなくこんなだだっ広い道に出てきてしまったことがそもそも運が悪い。あんな怪物といきなり戦わなくてはいけないような状況、しかもチート持ちと思われる戦士様に一般人と言われてしまう始末。こんなのではチート持ちを超えることすらもできなくなってしまう。

 

 進んでは休んでを繰り返し、丸一日。やっとのことでテントの建ったコロニーのようなものが見えてきた。そこには昨日見たような格好の兵士たちが警備に回っていた。

 「誰だ!いや、待てよ。お前は昨日あの怪物に一人で立ち向かって行ってたやつか。何をしにきた」

 冷たい口調の兵士に俺は食料がないこと、帰るべき場所がないことを説明する。すると、兵士は驚いた顔をしてきた。

「てっきり南の方にいる先頭部族のはぐれなのかと思ってたが、違うのか……。ちょっと待ってろ、一応戦士様に状況を伝えてきてみる」

 そう言って兵士はテントの奥へと走っていってしまった。ふとこのコロニーを眺めると、一般人は一人もいない。居るのは兵士だけで、まるでここの地域に起こっている何かのために出張してきているかのようだ。

 そんなことを考えていると、奥からさっきの兵士と戦士様が歩いてくる。

 「先ほど伝えた方がこの人です。」

 そう言って兵士はまた持ち場へと戻っていってしまった。


 「話は聞いている。衣食住をできる場所がないんだって?ここのコロニーを使ってもいいと言いたいところなんだけれども、ここは俺の引き連れている兵士たちのためのキャンプでね。この地図を頼りに町をあたって欲しい」

 そう言って戦士様と呼ばれている人はテントの奥へと戻っていってしまった。

 最低限の食事さえもらえないまま、俺はコロニーを後にしなくてはならなくなった。それもここから数キロはある町へと向かうために。戦士様がこのコロニーでは絶対的な以上、他の兵士に頼んでも食料は貰えないだろう。

 俺は地図を頼りにコロニーから離れることにした。昨日は気づかなかったが、ここは夜になるととても冷え込む。砂漠と似たような気候を持つ地域のようだ。

 転生した時は太陽は赤い空の雲によって隠されていたので気にならなかったが、明日の朝にもなればここら一体は灼熱の空間になることは確かだ。この夜のうちにできる限り移動をして、休める場所を探すしかない。洞窟なんかがあれば最高だ。もしかしたら天然水がどこかから湧き出ているかもしれない。

 薄い希望を頼りに道を進んでいく。それにしてもおかしい。こう言う世界にはモンスターの1・2匹はいるはずだ。だが、あの怪物以降は全くと言っていいほど見かけない。何か理由があるのだろうか。


 道路の周りをよく見てみると草木も一切と言っていいほど生えていない。強いて言えば雑草のようなものが少し生えているかな程度のもので、環境が良いとは決していえないような地域だ。そんな場所に洞窟があったとしても食べ物はおろか、水さえあるかわからない。そんな荒野をひたすら進んでいく。視界が少しずつ歪んでくる。頭に痛みが出てきた。

 「水……とにかく水だ……。」

 このままではせっかく転生した世界で水を得られずに死ぬことになってしまう。

 足が急に動かなくなった。俺はそのままその場に倒れ込む。楽園だと思っていた異世界は現世よりも全然厳しかった。欲しい時に欲しいものが得られない。水さえも高級品なこの世界でどうやって生きていけばいいというのだ。これならテイマーのスキルでも取っておけばよかったと思っても後悔先に立たず。もう遅い。これでラノベのタイトルが出来てしまうくらいには遅すぎた。

 「あのコロニーでもっと強請って水だけでももらっておくべきだった……。」

 そのまま俺は落ちてくる瞼を止めることができなかった。これは死ぬ。気を失う前の最後の瞬間に思ったのはそんなことだった。

 

 ◆

 「……ますか?」

 何か声がする。口元には冷たい感触。

 「……えますか!?」

 誰かが話しかけてくれている。俺はゆっくりと瞼を開く。

 僕の顔の前には聖職者のようなローブと帽子を身につけている一人の小柄な少女の顔があった。僕はびっくりして飛び上がるように起きてしまい、その拍子に少女と顔がぶつかってしまった。

 「ひゃっ!?」

 少女はそう言って後ろに倒れ込む。そんなつもりはなかった僕は急いで駆け寄り、謝罪の言葉を投げかける。

 「悪い!大丈夫か?怪我とか、ないよな?」

 そう言うと少女は自分のことよりも僕のことを心配してきたのだった。

 「私よりも、貴方が心配です。多分この感じだと貴方、4時間くらい倒れていたみたいですよ?」

 少女はそう言いながら自分が引かせている馬の荷台で何かを探している様子だった。

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