チートスキルを前の転生者に取られてしまった俺は神様さえも知らなかった第二のスキルの『カスタムダンジョン』でチートキャラに追いつく〜第一スキルの『限界突破』でチートに追いつくためにダンジョンを廻ります〜

ぽてぃ カクヨム金のたまご選出

語り継がれる伝説

「ママ!またあのお話読んでよ!」

 「また?あの話好きね。いいわよ、でも1回だけね。読んだら寝るのよ」

――――――――――――――――――

 昔、あるところに天から舞い降りた最強の戦士がいました。その戦士は、無敗の力を誇りこの世界を守ってきたのでした。

 しかし、ある日その戦士は自分だけでは敵わない敵と遭遇してしまいます。それでも戦士は懸命に街や他の冒険者を守ろうと必死に戦います。後一人、自分に並ぶ人がいれば。そう思いながら戦士は戦い続けました。しかし、その努力も虚しく、戦士は敗れ世界は支配されてしまいました。それを見た神様はもう一度戦士にチャンスを与えようと時間を巻き戻し、新たな勇者を追加で一人、世界へと解き放ったのでした。

 その勇者には無敗の力はありませんでした。けれど、勇者はみるみると力をつけていき、戦士へと追いついていきます。ほぼ、同格にならびついては、戦士が勇者を引き離し、また追いついては引き離していったのです。そして、また戦士をやっつけた敵が侵略してきました。しかし、戦士は勇者と共に戦い、必死に戦った結果勝利を掴み取ります。しかし、戦士は力を使いすぎたのです。長い眠りについてしまったのでした。残された勇者は戦士の残した言葉を胸に刻み、世界を守ってきたのです。

――――――――――――――――――

「それで、本当にチート能力は前に来た人が持って行ってしまったんだな?」

「そうです。なので、他のスキルを選択してもらうしかありません」

 目の前には半透明のカードが大量に浮かんでいる。この中から1つを選び、死んでしまった俺は異世界へと新たな人生を歩めるらしいのだ。

 その中でも一際、俺の興味を惹いたのは2つのスキルだった。

 自身の肉体を一時的に強化する『限界突破オーバードライブ』と自身で生み出した技を合体させる『境界突破ブレイクリミット』だ。この2つはどちらも底上げの力だが、使用用途が違うという。チートに追いつける可能性があるのはどちらか考えた。俺は前者を取った。デメリットはとても大きいらしいが、その分チートを持っていった主人公的立場の奴に追いつける確率も高い。俺は『限界突破』のカードを手に取ると、自分の上へと掲げる。すると、カードはどこか見えない空間へと吸い込まれていった。

 

「では、そのスキルで転生処理を行わせていただきます」

 結局、誰から話しかけられているのか姿は見ることができなかったが、転生の機会を与えてくれただけありがたい。新しい世界で、夢に見たハーレムをしてみたいななどと思っていると俺は眩い光に包まれ、真っ赤な空の世界へと飛ばされていた。


 ◆


 「戦士様が来るまで持ち堪えるんだ!」

「できることはなんだっていい!やれ!やれー!」

 俺が目覚めた横では鎧を着た男たちが巨大な悪魔のような怪物と戦っている。

 一人の兵士が俺に気付き、駆け寄ってくる。

「そこの若い君!こんなところで何をしているんだ!早く向こうの街に避難しなさい!」

 しかし、見るからに無惨な状況が視線の先では繰り広げられていた。

 怪物に多くの兵士が切り裂かれ、頭や腕、胴体を切断されていた。明らかにこの人たちだけではこいつを抑え切ることはできないだろう。


「戦士様、とかいう人を待ってるんだろ?その時間稼ぎ、俺も手伝うぞ」

 おいと言って静止しようとする兵士を振り切り、俺は怪物へと近づく。瞬間、体が温まる感触を感じた。スピードもさっきまでとは違う。無意識のうちに『限界突破』が発動したのだ。

 俺は怪物に向けて一発パンチを繰り出す。カキン!というような音がして、俺の攻撃のエネルギーは怪物の硬い皮膚の部分に吸収されてしまう。しかし、怪物は少し後ろへと後退りしグロロロと悔しそうな声をあげて俺の方を睨んできた。

 効いてはいるが、決定打にはなっていないのは確かだ。

 グルァァと咆哮をたてて悪魔は俺に向けて大きな拳を向けてくる。俺もそれに抵抗するように拳を向ける。衝突した瞬間に爆風が発生する。周りの樹木か何かが吹き飛んだのか周りにいた兵士たちが困惑している声が聞こえてくる。

 咆哮を上げながら怪物はどんどん俺を押しつぶすような勢いになっていき、俺の方が地面へと押し込まれていき穴ができていく。

 「うるぁぁぁぁ!」

 気づけば勝手に押し返せていた。体が熱くなっていき、力が湧き出てくるのを感じる。どんどん自分で『限界突破』をしている感触がする。押し返し、吹き飛ばす。怪物からは紫の液体がこぼれ落ちており、確実に一撃を喰らわせたのは確か。俺はそっとガッツポーズをする。しかしその刹那、俺は上から差し込む光に気づいた。吹き飛ばされた怪物はさっきまでなかった羽が生えており、口には大きな光の球体ができていた。まともに喰らったら転生したてなのに死ぬのは間違いない。そんなのは俺はお断りだ。


 避けるために跪いていた体を起き上がらせようとする。その瞬間、体に電撃のようなものが走り、俺は立ち上がるどころかその場に倒れ込んでしまった。体に立てと命令するも、言うことを聞かない。視界が狭まっていく。そんな中でも俺の目の前に飛んできている閃光は最後まではっきりと見えた。

 あぁ、ここで転生人生終わりかよ。最初からフルパワーを出しすぎたな……。


 「よく一人であそこまでやったな。あとは俺に任せて」

 そんな声が聞こえたかと思うと、目の前の閃光は色と飛んできている方向が変わっていた。

 そして、体が少し軽くなった感覚がしたと思うと、目の前には物凄い気迫を持った人が立っていた。

 「ごめんね、攻撃に全ステータス振りすぎたせいで回復は微回復リトルヒールしかできないんだ。でも、これで少しは動けるはずだ」

 そう言って俺に回復魔法を施してくれた人はそのまま飛んでいる怪物に向けて一直線に飛んでいった。

 そして、その直後に俺は理解した。この戦士様と呼ばれている人がチートスキルを貰っていった人なのだと。この気迫、そして計算もせずに突っ込んでいくこの感じ。自分に自信がないとこんな行動には出ないはずだ。

 

「太陽斬!」

 戦士様は背中に挿してある剣を引き抜くと、薄暗いこの世界を照らすかのような眩しい光を放たせ、硬い皮膚をいとも容易く破壊して怪物を斬りつける。まるでこの場に今太陽が生み出されたかのような明るさだ。

 そして、切り付けられた皮膚の内側から紫色の心臓のようなものが露出する。恐らく弱点のようなものなのだろう。

「カラー砲!」

 今度は七色に輝くビームをどこからか出したレールガンのようなもので発射している。

 もうオーバーキルのような状態だが、それでも戦士様はまだ攻撃の手を緩めようとしない。

「爆裂弾!」

 拳銃で弾をめり込ませ、体内でそれを爆裂させる。

 明らかなオーバーキルだし、もう既に反抗する力も残っていないはずだ。

 それでも、戦士様は怪物の灰1つ残さないと言うような意思で攻撃しているように見えた。

 そして、もう灰すらも見えなくなったと言うところで戦士様は攻撃を止める。そして、空へと剣を向け真っ赤な空を晴れ渡った空へと戻した。

 圧倒的な強さに、俺は絶望を感じていた。夢にまで見たチートスキルをゲットできなかった上にそのスキルを持っている本人の絶対的力を目の前で見せつけられるのだ。これで絶望しない方がおかしい。このただの兵士たちが尊敬し、服従しているのも納得ができる。この力には絶対に越えられないような何かを感じる。

 

 俺の周りにいた兵士たちは歓声をあげた。まるで戦国武将が敵の大将の首を討ち取った時のような感じだ。

 「戦士様がやっつけた!」

 「流石は戦士様だ!」

 生き残った兵士たちはそう言って宙で浮かんでいる彼に賞賛の言葉を投げかけている。

 戦士様は俺の方へと降りてくると、俺を凝視してきた。

 「『限界突破』を無理して使うからあんなことになるんだ。君みたいな一般人がもう、あんな無理はしないほうがいいよ」

 戦士様と呼ばれた人は俺に向けてそう言い放つと、兵士を連れてその場を離れていった。

 「まっ、待って!ぐっ……!」

 追いかけようとするも、まだ体に電撃のような痛みが残っている。

 「くそッ!なんだあの力、全然今の俺じゃあ追いつけそうにないじゃねぇか……。」

 俺は晴れ渡った空の下で自分の無力さを感じながら動けるようになるまで回復するのを待つしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る