第3話 秋 美玖の成長

『出来た! みんな見て見て! このかぼちゃのグラタン、綺麗に焼けてるでしょ!!』



 近所のカフェでお茶をしながら、僕は小牧ミクの配信を見ている。

 何故僕がこんな所にいるかというと、彼女がお料理配信をしているからだ。

 お料理配信をするということは、いつも配信で使っている防音室は使わず、リビングで作業をすることになる。

 リビングは僕の生活スペースでもあるので、万が一彼女の配信に僕の声が載ってはまずいと思い、彼女に気を使って外出をしていた。



「それにしても美玖は料理が上手くなったな」



 1年前は油で揚げている鍋に蓋をして火災を起こしそうになったのに、ここまでよく成長したものだ。

 美玖と同棲を始めてから彼女は僕の料理を手伝うようになり、料理スキルが飛躍的に上がっていた。



『う~~~ん、美味しい! 今日の料理配信は完璧だね!』



 彼女の言う通り料理の出来栄えは完璧だ。

 それはあくまで見た目は完璧というだけで味はわからない。

 配信を全て見ていた僕は本当にその料理が美味しいものなのか、疑いの目で見ていた。



「目分量と言って、小麦粉を大量に入れた時はどうなるかと思った」



 ホワイトソースを作る時は牛乳を使って作るのだが、そのセオリーに反して大量の小麦粉を水で溶かし始めた時はどうなることかと思った。

 でも終わりよければ全て良し! 上手にグラタンを作れたようなので、帰ったら美玖のことをたくさん褒めてあげよう。



『それじゃあこれで今日は終わるね! おつみく~~~』


「ちょうど配信が終わったし、そろそろ家に帰るか」



 美玖からは自分が連絡するまで帰ってこないでと言われているけど、そろそろ戻ってもいいだろう。

 ここから家まで多少距離もあるし、帰ってくる最中に美玖から連絡が来ると思う。

 案の情僕が家へと帰宅している途中に美玖から連絡が来たので、僕は彼女に何の断りもなく部屋に入った。



「ただいま~~~」


「おかえりなさい!」


「やけに上機嫌だけど、どうしたの?」


「もう! わかってるくせに。早くリビングに来て!」



 美玖に案内されるままリビングに行くとテーブルにはグラタンが置かれている。

 このグラタンは彼女が配信中に作ったグラタンだ。綺麗に焼け目もついているので間違いない。



「綺麗にグラタンが焼けたんだね」


「でしょ! チーズの他に上からパン粉を振りかけたら綺麗に焼けたの!」


「凄いな。さすが美玖だ! いい子、いい子!」


「えへへ♡ もっと褒めてくれてもいいんだよ♡」



 無邪気に笑う美玖を見ていたら、もっと頭を撫でたくなる。

 体を左右に振って喜びを表している美玖は子犬みたいで可愛かった。



「このグラタン、食べてもいいの?」


「うん! 玲にも食べてほしい!」


「わかった。そしたら食べさせてもらうね!」



 美玖が作ったグラタンを食べてみると、僕の予想に反してものすごく美味しかった。

 とても1年前に小火を起こそうとしていた人の料理とは思えない。そのぐらいの出来栄えだった。



「どうかな?」


「凄く美味しいよ!」


「本当!?」


「うん! かぼちゃの他にもきのこや栗か入ってて、それがいいアクセントになってる!」



 栗の甘みと季節の野菜がいいアクセントになっていて、ものすごく美味しかった。

 下手をすると僕が作るグラタンよりも美味しいかもしれない。

 美玖の料理スキルがものすごく上達していることに驚いてしまった。



「美玖は本当に料理が上手くなったね」


「ありがとう! 玲に美味しく食べてもらいたくて頑張って練習したんだ!」


「この料理を作る練習をしたの!?」


「うん! 玲に美味しいって言ってもらいたくて、玲が仕事でいない間こっそり練習をしてたの!」



 美玖が可愛い事を言うから、僕は衝動的に彼女のことを抱きしめてしまう。

 僕の胸の中にいる彼女の表情はわからない。ただ突然のことで彼女が混乱していることは伝わって来た。



「れっ、玲!?」


「美玖、大好きだよ」


「うん。私も玲のこと大好き♡」



 僕達は見つめ合うとそのまま唇を重ねる。

 たっぷり数秒間美玖とキスをした後、ゆっくりと顔を離した。



「僕の為にグラタンを作ってくれてありがとう」


「うん♡」


「美味しいご飯を作ったお礼に何か出来ることはない?」


「それならもっと玲とチューしたい」


「チューがしたいの!?」


「うん♡ ダメかな?」


「ダメじゃないよ。そしたらもう1回チューをしよう」



 それから僕はもう1度美玖と唇を重ねる。

 キスをしている最中薄目で美玖のことを見ると、彼女は幸せそうな顔をしていた。



「どう? 満足した?」


「満足した♡」


「それならよかった。そしたら美玖が作ってくれたグラタンを食べようか」


「うん! そしたら私が玲に食べさせてあげる」


「いいの?」


「もちろん! 玲、あーーんして♡」


「わかった」



 恥ずかしがりながらも僕は美玖にグラタンを食べさせてもらう。

 僕にグラタンを食べさせてくれる彼女は満足そうな表情をしていた。



「美味しい?」


「美味しいよ」


「そしたら次は私に食べさせて♡」


「わかった」



 僕達は2人は美玖が作ってくれたグラタンを仲良く食べる。

 僕に甘えてくれる彼女はとても可愛くて、これからも彼女のことを大切にしようと心に誓った。

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