第2話 夏 どっちが大切なの?
8月の真夏日、僕は部屋にあるソファーに座り美玖と話していた。
隣に座る彼女はものすごく不機嫌である。僕の肩に頭をのせ可愛らしく頬を膨らませながら、僕に不満を訴えていた。
「せっかくの休みなんだから、外に出かけよう」
「暑いからやだ! 家でのんびりしてたい!」
僕の腕を取りながら美玖は可愛くおねだりをする。
普段なら彼女の可愛さに負けて家で過ごす所なんだけど、今日ばかりはそう言ってられない事情がある。
「美玖が行きたいって言ってた映画のチケットが取れたんだよ! だから一緒に行こう!」
映画のチケットは前々から取っていたけど、お互いに仕事が忙しくていけなかった。
この日を逃したら、いつ行けるかわからない。場合によっては映画の上映が終わってしまう可能性もあったので僕は焦っていた。
「映画なんて別にいいじゃん! 久しぶりに休みが取れたんだから、部屋でゆっくりしよう!」
「でもそうなると映画が見れなくなるかもしれないんだよ!?」
「映画なんて見れなくてもいいよ。どうせあとでテレビで見られるし」
「そしたらチケット代が無駄になるじゃん!」
前売りチケットのお値段は2枚合わせて4000円もする。
出来ることなら僕はこのお金を無駄にしたくない。
美玖は僕よりも稼いでるからわからないだろうけど、普通の会社員をしている僕からすれば、このお金は大金である。
「チケット代ぐらいいいじゃん!! 必要経費だと割り切ろう!!」
「割り切れるわけがないよ!! 美玖はお金の大切さをわかってない!!」
4000円を稼ぐためにはものすごく頑張らないといけないんだよ。
配信しながらおしゃべりをするだけで数万円稼げる美玖とは違う。
僕の目から見た彼女はお金の大切さがわかっていないように見えた。
「玲は私とお金、どっちが大切なの?」
「もちろん美玖のことが大切だよ。だけどお金もないと生きていけないでしょ」
「うん」
「だからそれを無駄にしたくないんだよ。美玖にはお金をドブに捨てるような人になってほしくない」
彼女はちょくちょくお金遣いが荒い所が見受けられる。
僕は彼女のそういう部分が苦手だ。出来ることならこの悪い癖を美玖には直してほしい。
「玲の言っていることはわかった。その部分はこれから直すようにしていくね」
「わかってくれればいいよ」
「だけど私の気持ちも聞いて! 私は少しでも玲と一緒にいたかったんだ」
「どういうこと?」
「最近玲は仕事が忙しくてかまってくれなかったじゃん。だから今日は2人でイチャイチャしたかったの」
「あっ!?」
そういえば最近仕事が忙しくて、家に帰ってくるのが遅かった。
いつも美玖は不満1つ言わずに僕のことを出迎えてくれたけど、一緒にいる時間が殆どなくすれ違っていた。
「もしかして美玖は、僕とイチャイチャしたかったの?」
「(コクリ)」
「そうだったんだ。ごめんね、あんな酷いことを言って」
「わかってくれればいいよ」
僕の肩に顔をうずめて恥ずかしがる美玖も可愛いな。
顔を赤らめて目を背ける所なんて、他の人には見せたくない。
「一応これで仲直りかな」
「そうだね」
「仲直りのしるしに何かする?」
「うん! 私は玲と仲直りのチューがしたい」
「わかった。そしたら目をつむって」
「んっ♡」
彼女が突き出した唇に僕は優しく唇を重ねる。
彼女の唇はしっとりしていて柔らかい。
数秒間彼女の唇を堪能して、ゆっくりと離れた。
「これで仲直りだね」
「うん♡」
キスをした後美玖は僕の胸の中に飛び込み、子猫のように甘えてくる。
僕はそんな彼女の頭を優しく撫でながら抱きしめた。
「玲」
「何?」
「お互いの言いたいことはわかったけど、結局今日は何をするの?」
「お腹が減ったから、美玖の好きなカフェに行って食事を取ろう。その後はコンビニでアイスを買って、ゆっくりと家で過ごすのはどう?」
「賛成!」
お金のことを気にしすぎて、僕は大切なことを忘れていた。
確かにお金も大切だけど、それ以上に大切なのは美玖である。
彼女の考えを蔑ろにして、自分本位な発言をしてしまったことを反省した。
「それじゃあ行こうか!」
「うん♡」
「美玖は何を食べたい?」
「私はパンケーキを食べる! もちろん生クリームをマシマシで!」
お出かけの準備をしながら、今日の昼食について2人で考える。
ニコニコと笑う美玖と手を繋ぎ、僕達は近所にあるカフェへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます