登録者数100万人超えの美少女Vtuberと付き合ったら幸せになった

一ノ瀬和人

第1話 春 僕の彼女はVTuberだった!?

『それじゃあみんな、おつみくでした! またね~~~!』


「ふぅ。終わったか」



 僕こと鹿島かしまれいは推しのVTuberである小牧ミクの配信が終わるとスマホを閉じて台所へと向かう。

 台所には20分以上火にかけている肉じゃががあり、ちゃんと芋にまで味が染みているか味見をした。



「よし! 味の方は問題なさそうだ!」



 これで美玖が仕事から帰ってきたら、すぐにご飯が食べられる状態になった。

 台所で肉じゃがを煮詰めながら、僕は交際相手の七原ななはら美玖みくがリビングに現れるのを待った。



「わぁ~~~! いい匂いがする! 何を作ってるの?」


「肉じゃがを作ってるんだよ」


「えっ!? 肉じゃがを作ってるの!?」


「そうだよ。もうすぐ出来上がるから、先に座ってて」



 ブロンドの髪をなびかせてリビングに入ってきた巨乳の女性は僕の彼女である七原美玖だ。

 彼女とは一昨年の春SNSで知り合い、半年間の友達期間を経て交際を始めた。



「玲の料理は大好きだから楽しみ~~~!」


「ありがとう。期待に応えられるように頑張るよ」



 僕は美玖の笑顔が好きだ。彼女の屈託のない笑みを見ていると元気が出る。

 彼女が僕に振りまいてくれる極上の笑顔が生きる活力となっていた。



「そういえば玲」


「何?」


「さっきまでやってたウチの配信はどうだった?」


「最高だったよ! 料理を作りながら聞いてたけど、すごく面白かった!」



 僕の彼女である七原美玖の仕事はVTuberだ。

 彼女は小牧ミクという芸名で活動しており、世界でも有名な大手動画投稿サイトYourTubeの中で登録者数が100万人もいる超有名人だった。



「(そんな彼女が僕みたいな一般人と付き合ってくれた理由がいまいちわからないんだよな)」



 美玖のような人気者なら芸能人のようなイケメン彼氏を簡単に作ることが出来るはずなのに、何故僕を選んだのだろう。

 彼女が一般企業勤めの冴えない自分の事を彼氏に選んでくれた理由がいまいちわからなかった。



「ありがとう! 玲に褒めてもらえて私も嬉しいよ!」


「どういたしまして! それよりも肉じゃがが出来たから、一緒にご飯を食べよう!」


「うん!」


「今ご飯とみそ汁を持って行くから、ちょっと待ってて」


「ご飯とみそ汁まで着いてくるの!? ものすごく贅沢じゃん!!」


「それを贅沢って言える美玖のことが羨ましいよ」



 大したことをしているわけではないのに、彼女は僕が料理をすると必ず褒めてくれる。

 ご飯とみそ汁が食卓に並ぶのは普通の事だと思っていたけど、もしかすると僕の常識は間違っていたのかもしれない。



「よし! これでいいだろう!」


「凄く美味しそう!」


「食事の準備が出来たことだし、早くご飯を食べよう!」


「うん!」


「それじゃあ行くよ! せ~~のっ!」


「「いただきます!」」



 食事の挨拶を終えた僕達は晩御飯を食べ始める。

 美玖は僕が作った肉じゃがを口に運び、幸せそうな表情をしていた。



「う~~~ん、美味しい! 玲の料理はやっぱり最高だよ!」


「ありがとう。美玖に喜んでもらえて僕も嬉しいよ」



 僕が料理を作ると美玖はいつも喜んでくれる。

 仕事上の癖なのかわからないけど、彼女が喜んでいると必ず体を横に振るのですぐにわかった。



「(職業病なのかもしれないけど、本当に可愛いな)」



 まるでご褒美をもらえて尻尾を振るチワワのようである。

 美味しそうに料理を食べる美玖を見ていると僕も嬉しくなり、ついつい料理を作りすぎてしまう。



「この肉じゃがすごく美味しくて、ほっぺが落ちちゃいそう!」


「美玖は大げさだな。この程度の料理なら、レシピを見れば簡単に作れるよ」


「玲は私の料理を見ても同じことが言えるの?」


「ごめんなさい」


「わかればよろしい」



 美玖の圧に負けてついつい謝ってしまった。

 VTuber仕込みの彼女の圧は強いので、それを直接受けるとどうしても尻込みしてしまう。



「(そういえば昔美玖がお料理配信でコロッケを揚げている時、鍋に蓋をしたのは衝撃的だったな)」



 あの時は家が火事になると思って、慌ててコメントを書いた。

 人生で赤スパを投げたのはあの時が初めてである。



「(幸いにも美玖が気づいてくれたからよかったけど、もう少しで家が火事になる所だった)」



 生まれてきてこの方、あれほど焦ったことはない。

 あの配信以降、美玖は料理配信をする時に揚げ物を作らなくなった。



「これだけ玲がご飯を作ってくれるなら、私も何かお礼がしたいな」


「別にそんなことしなくていいよ」


「ダメ!! いつも玲にはお世話になりっぱなしなんだから、何かをさせて」


「そうだなぁ~~~」



 急にそんなことを言われたって何も思いつかない。

 色々と考えた末、僕はある提案を美玖に持ちかけた。



「それなら今度桜を見に行こう」


「桜?」


「そうだよ! この近くに桜通りと呼ばれている道があるから、その道を美玖と一緒に歩きたいな!」



 僕達の街には桜通りと呼ばれている歩道がある。

 その場所は歩行者が歩く道の両脇に桜が埋められており、毎年春になると満開の桜を堪能することが出来た。



「でも、この時期じゃ満開の桜は見られないよ」


「そしたら来年の春一緒に見よう。このお願いは繰り越しになるけど、それでもいい?」


「いいよ! その代わり約束を忘れないでね♡」


「もちろん忘れないよ」



 美玖とこのような約束をしたのは久しぶりだ。

 彼女と約束をしたのは同棲を始めた時以来だと思う。



「せっかくだから、私も玲に何かしてもらおうかな」


「えっ!? 美玖は僕に何をさせるつもりなの!?」


「それはね‥‥‥」


「それは?」


「私に、あ~~~んして♡」


「ごめん、もう1度言って」


「だからあ~~~んしてって言ってるの!! 玲はあたしに肉じゃがを食べさせて!!」


「わかったからそんなに圧をかけないで!? ほら、あ~~~んして」


「あん♡」


「美味しい?」


「うん! 玲が食べた肉じゃが、ものすごく美味しい♡」



 なんだかこうして美玖にご飯を食べさすのは恥ずかしいな。

 美玖は突然僕に甘えてくるから、時々驚いてしまう。



「(でもそんな美玖のことが好きなんだよな)」



 美玖に甘えられるのはものすごく嬉しい。

 彼女といるのはものすごく楽しいし、この関係がこれからも長続きしてほしいと思っている。



「そしたら次は玲の番ね」


「えっ!?」


「玲にも肉じゃが食べさせてあげる! あ~~~んして♡」


「あん!」


「玲が私の肉じゃがを食べてくれた! 嬉しい♡」



 嬉しいのは僕の方なんだけどな。

 こんな可愛い子と一緒にご飯を食べられることだけでも幸せなのに、ご飯まで食べさせてくれるなんて、これ以上の喜びはない。



「それじゃあ今度は私にも食べさせて♡」


「わかった。そしたら口をあけて」


「うん♡」



 しばらくの間2人でイチャイチャしてたら、夕食を食べ終わるまでに1時間も掛かってしまった。

 だけど美玖が満足そうに笑ってくれたからそれでいい。

 僕の彼女は今日も可愛いかった。

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