第7話 お昼

隣村に辿り着く頃には太陽が真上に到達していた。外には誰一人おらず、ポツポツと洗濯物が干してあることだけがここに誰かが住んでいることを物語る。静けさが支配する中、ひっそりと立つお食事処の看板を見つけ、足を踏み入れる。木製の重たい扉が音を立てた。店内には年季の入ったテーブルが3つ、カウンターの端には、一人腰掛けており、こちらを一瞥を投げた。カウンター奥から、店員さんが顔を出し、こちらへゆっくりと近づいてくる。


「いらっしゃいませ。すみません、うちこれしかお出し出来ないのですが…」


店員さんは手に持った紙を見せてくれた。料理の内容と、そのイラストが描かれている。一種類しか無いメニューは、パンそして、ウシウマの肉の炒め物。とてもシンプルだ。


「2人分お願い出来ますか?」


店員さんは少し驚いた様子だが、にっこりと頷き席へと案内してくれた。席に着くやいなや、俺はクエスト受注票を取り出して魔物の詳細を確認する。



シロタマモドキ。白いく長い体毛に覆われており、真っ赤な瞳を持っている4足歩行の魔物だ。全長は1mほどで、すごく素早い。大きな牙と、火の玉を吐き出して攻撃してくるらしい。



「魔物が複数出てきたら、逃げましょう。俺、魔法全く使えないんで」

「それも良いですが、私で対処可能です。安心材料にこちらをどうぞ」


彼は懐から巻物を取り出した。中をみれば、サポートに特化した魔法やスキルが細く記載されている。


「サポート系の魔法一覧表?」

「はい、私が習得しているものです」


その発言に驚いた。隙が無さすぎる上に何故か、鍵開けのスキルまである。しかし、攻撃魔法らしきものは一切見当たらない。サポート面はものすごく安心なのだが、対多数に対しては不安が残る。


「ありがとうございます。……でも、攻撃魔法は無いんですよね?」


彼に一覧表を返し、そう尋ねる。


「最終手段として、呪い等で対処します」

「呪いで対処……ですか?」


確かに、呪いとは書かれていた。が、呪いと対多数の対処との繋がりが分からず、俺が首をかしげる。ケインさんは静かに口を開いた。


「詳細は省きますが、複数体を一掃することが可能です」


彼は淡々とそう説明する。その表情は冷徹そのものであった。どんな、そう深堀することははばかられた。


「お待たせいたしました」


店員さんの登場により、少しだけ暖かな空気が流れた。美味しそうな香りに、腹の虫が小さく自分の存在を主張した。店員さんは軽く会釈した後にカウンターへと戻っていく。そして、お客さんとポツポツと会話し始めた。


「ユウさん、今回は魔物は単独で行動しているとのことですから、安心して良いと思いますよ」

「……もしもってことも、あるかもしれないです」


俺が不安を口にすれば、彼は微笑んだ。その笑顔が何を意味するのか、俺には分からなかった。


「それでしたら依頼主の村長さんの元へ向かいましょう。情報をいただけるはずです」

「そうさせてください」


クエスト受注票にもある程度情報はあるが、最新の情報も欲しい。その前にと目の前のご馳走をいただくことにした。ウシウマの肉は少し歯ごたえがあり、素材そのものの味が際立っている。野菜はシャキシャキとした歯ごたえが心地よく、塩コショウで味付けされており、素朴でどこかほっとする味が広がった。

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