初魔物討伐系クエスト
第4話 初陣前
昼間の冒険者ギルドは閑散としている。ポツポツ騒がしい人はいるが、彼等は一般のお客さんだろう。俺はというとカウンターに座り、クエスト票と睨めっこしている。ケインさんがサポートしてくれるなら、と魔物討伐系のクエスト票も持ってきたが、魔物の詳細をみるだけでちょっと背筋が寒くなるのだ。
「お?遂に初陣か?」
ギルドマスターは受付業務が暇なのか、俺のところにやってきた。
「……たぶん、そうなりそうです」
弱気な俺の発言に、ギルドマスターはカラッと笑い、俺の肩を軽く叩いた。
「いっちゃんはじめってのは怖いよな。だがこういうもんは1歩踏み出せばクリアしたも同然だ!鍛錬しっかり積んでるお前さんなら大丈夫!」
ギルドマスターの言葉を心の底から信じたい。でも、怖くてたまらない。そうやって先延ばしを繰り返した結果、ぶっ倒れケインさんにお金を払うべく、無理やりにでも行かなければ行けなくなったのが今なのだが。自分自身の情けなさに、落ち込んだ。俺はクエスト票を纏めた。
「話変わるんですが、ギルドマスター。パーティ加入する時の契約書ってどうやって作るもんなんですか?」
ギルドマスターは目を丸くした。
「契約書?何の話だ」
「え?パーティに加入する時に必要な、書類?」
最初の質問以上にどうやって説明すれば良いのか分からず、より大雑把な内容になってしまった。
「パーティ加入申請書のことか?」
彼はとある紙を取り出した。登録番号と名前を書く欄があるくらいのもので、先日俺がケインさんから貰ったものとは随分違っていた。
「加入の時の条件とか……例えば魔法を使う時にお金が発生します。みたいな細かいことを書いてある奴」
「んなもんある訳ねぇだろ。誰に吹き込まれたんだ?」
やっぱりか……。パーティ加入時の契約書なんて聞いたことがなかったし。
「いや、当ててやろう。ケインだな?」
「そうですけど、なんでわかったんですか?」
「んな事言い出すやつはアイツくらいだ。聞いたことないか?『守銭奴僧侶』って」
「『守銭奴僧侶』……?」
守銭奴ってほぼ悪口では。倹約家とかでもなく守銭奴。それも僧侶で守銭奴って、反対言葉を並べているようだ。
「ユウ、情報を仕入れるってのも大切だからな?『守銭奴僧侶ケイン』はかなり有名だ、そこら辺の奴でも知ってるはずさ」
彼は親指でさした先にいたのは、冒険者でもなんでもない一般の酒飲みだ。
「まさかお前さん、ケインをパーティに入れるつもりか?」
ギルドマスターはカウンターから乗り出さんばかりの勢いで問うてきた。
「一時的に入ってもらおうかと」
「ああ、そうしとけ」
彼はすっと身を引けば、皿を拭き始める。
「ケインさんってそんなに訳ありな僧侶なんですか」
「訳ありも訳ありだ。とはいえ、奴の実力は折り紙付きだ。そこは安心しな、なんせ」
「ユウさん。まだ寝ていなくてはいけないでしょう」
ギルドマスターが何か言いかけたところで、ケインに話しかけられた。ケインはギルドマスターと目があえば、ふわりと微笑んだ。
「お話中でしたか、これは失礼しました」
「お前さんな、ユウに妙なこと吹きこんだろ」
「妙なこと?なんのことでしょうか?」
ケインは本当に分からないと言わんばかりに首を傾げる。その様子に、ギルドマスターは呆れたようにため息をついた。
「それでは、私は他の用があるのでこれで。ユウさんも最優先事項は療養であることをお忘れなく」
「はい」
ケインはギルドを後にし、どこかへと行ってしまった。
「どういう風の吹き回しでお前さんとケインが組むことになったんだ?」
俺は口を開くのを躊躇った。どんなに表現を変えたところで情けない話に変わりないからだ。
「俺が生き倒れそうなところケインさんが助けてくれたんです。ただ、救助代を確実に請求する為にって」
「行き倒れ……?ここは始まりの町だが?」
やめて、言わないで。という小さな嘆きは口に出せばさらに悲惨さがますのでやめといた。
「お金……なくて……」
ようやく絞り出した言葉に、ギルドマスターは呆れたように返した。
「だから、あれほど、魔物討伐系のクエスト受けとけって言ったろう。お使い系クエスト受けてくれるのは助かるが、それだけで食っちゃいけねぇだろ」
ご最もである。現に俺の財布の中は酷く悲しいことになっている。
「レベルを上げて、安全に行きたかったんですよ。それにクエストって大概期間が設けられてるじゃないですか。地形とか色々調査してから行きたいんですが、俺の力量じゃ時間足りなくて」
「調査って、そりゃギルド側の仕事だ。情報ならクエスト票を確認すれば問題ない。慎重なのは悪いことじゃないが」
ギルドマスターは顎髭を右手で弄る。
「いや、なんでもない。万全になったらまたこい、いくつかクエスト見繕ってやるから」
「本当ですか?ありがとうございます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます