その一言に贈りたい想い GMY
君は僕に「ごめんね」の一つの単語でさえ言ってくれないし、言わせてもくれない。
一体どうして?
気がつくと私は、そのような独り言を考えていた。それも、何かと不思議に、そして不意に。しかしながら、それは、私と深い関係にある人物との、とても古い出来事を思い起こさせる。
話は変わって、今私は東京都の新宿区周辺を探索しているのだが、異常なほどに凍っている。これについては、とあるニュース番組が氷河期レベルの寒波に見舞われたと述べているが、原因は全く分からない。
一応、私も防寒具を着るに着込んできたのだが、それでもやはり寒い。それもそのはずだろう。ここ数日、最高気温が零度に近い温度となっているのだから。しかし、今は八月五日と夏で、また十四時三十二分と一般に最高気温が観測される時刻である。しかも晴れといういくつもの好条件が揃っているので、まだましな方だ。
それでも、いくら優秀な人材だとはいえ、この「冒険者」として所属し、かつシステムエンジニアとして働いている、連日忙しい私をわざわざ派遣する必要はあったのだろうか?
私がそのようなことを考えているうちに、何故か凍っていない喫茶店を見つけ、同時にある男性を見つけた。その容姿を確認してみると、彼は、以前に探偵の活動経験があった、声高賢治(こえたか けんじ)という者のようだ。成程、先程の「私と深い関係にある人物」とは、まさに彼のことを指していたのか。そう私が感じると同時に、なぜこの喫茶店が凍っていないのかは早速気になりもしたが、とにかく、私は彼に話しかけてみることとした。
「やあ、そこにいるのは、賢治じゃあないか。そんなにまじまじと見つめて、どうしたんだい?」
「ん? ああ、界飛か。いや、僕はただ、この建物だけ凍っていないから、それが気になるな、って思っていただけだよ」
「そうか。まあ、ここだけ凍っていないんだから、確かに気になりはするんだろうな。で、東京の調査の進み具合はどうなんだ? 俺はもうさっぱり、といったところだな」
「それは僕の方もだよ。それにしても、ここ寒くない?」
やはり彼も、僅かながら寒気を感じていたようだ。それに彼も一応、独自調査ということで張り切っている、ように見えるかは私には分からないが、取り敢えずそのように感じる。
「まあ、ここで話していてもあれだし、この中にはいってじっくり話し合おう? ね?」
おっと、ここで勧誘が来たようだ。しかし、中に入っても、別にそれほど寒さが和らぐなどといったことはもしかするとないのかもしれないが、念の為。
「……ああ、はい。了解しました」
今更だが、小鳥遊界飛という名前、読みは「たかなし かいと」であるが、これも、中々奇妙な名前である。
しかし今はそのようなことは関係無い。話は変わるが、彼と色々と話しているうちに、少し、先程の「とても古い思い出」を思い出したように感じた。もしかすると、あなたはここまで読んで、最初の独り言の内容をすっかり忘れているのではなかろうか。
復習がてらと説明するが、今の処は簡潔に。その思い出とは、中学二年生の頃において、文化祭の出し物を決める際に私は彼と少し揉めたことがあり、それ以来機嫌を悪くしている、という思い出だ。だから、彼とは「表面上」仲が良いだけに過ぎない。当然ながら、私も何回か謝罪を試みようとしたのだが、それらが一度も成功したことはない。二十四歳であるこの私が今度こそ、謝罪をしたいのだが……。
さて、その喫茶店に入ってみると、そこは予想以上に暖かく、力が抜けてしまいそうな気がするほどだった。当然客は私達以外にいないものの、ここなら落ち着いて話が出来そうだ。しかし、先程の事をどう切り出すかが問題である。
「おい。何か、飲み物みたいなのが無いんだが、俺達しかいないのにどうやって注文するんだ?」
「それもそうだね! 店の人には失礼になっちゃうけど、取り敢えず、勝手に作っておこうか?」
「えぇ……。とりあえず勝手にしておけば」
そう言いながらも、結局は私も勝手ながらコーヒーを作らせてもらうこととなった。どうやらここでは、諸設備「は」生きているようである。
そのようなことを考えながら席に戻る中で、もう既に賢治はコーヒーを飲み始めているが、一体コーヒーサーバーから直に飲むなど、誰が考えられるのだろうか。
「お前って、いつも大胆な事をするんだなあ。それで、お前はさっき、調査は全然進んでいないとかなんだとか言っていたが、自分がそう思っていても、実は意外に重要なものだったりするのもあるんじゃないのか?」
「いや、だから本当に何もないってば。何も無いものを追求しようたって、意味がないんだから」
「うーん、あっ! そうだそうだ、あれがあるんだった」
確か、私は少し前に鞄の中に男性らしき人物のメモを入れておいたはずなのだが。これも何かと重要になりそうだと、私が入れておいたのだった。
「……あった。いやあ、鞄の中に入れておいて良かったよ。お前にはこれを見せたかったんだからな」
「おおっ、これはなんと、あの有名な……誰だろう、忘れた。あと、ちょっと眠たいから、おやすみなさい」
ああ、何というタイミングで寝てしまうのだ。前日は寝不足だったのだろうか。折角、彼の調査の参考程度にしてほしかったのだが。それに、彼によると、このメモは有名な人物のようだが、一体誰なのだろう。
ところで、喫茶店に入る前に思い出した話についてだが、ここで、どうやって謝罪をしようかという方法についてある程度の整理もできてきた。今度こそ、心から仲直りしよう。
そこで、賢治が……。
「思い出した!……急用を」
「おいっ!」と、その時は私がずっこけそうになってしまった。
忘れかけていたであろう、十年程度前の出来事を思い出して、彼の方から謝罪をしてくれるのかと思ったのだが。
しかも、疾風のごとく走っていって、料金でさえ払っていないとは一体何事か。私もこの地の調査を続けるという急用を、たった今思い出したので、同様に料金を払わず出ていくことにした。
と、今回もやはり、謝罪は成功しなかった。しかも、これから先、どこで出会えるのかも分からない上で、一体どうやって謝罪をすればいいのだろうか。そのような漠然とした不安を抱えながらも、私はこの「凍京」と呼ばれる地の謎を明かしていかなければならないのだ。彼とどう仲直りするかも問題だが、まずは、この謎を明かしていこう。
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