第2話  背伸びがしたい

***


「おい、梨乃、ちょっと待てよ」

  

 マンションのエントランスで偶然会った健太は遠慮なしで私を呼び止めた。

 健太は私より2つ下の幼馴染だ。親同士が仲が良いこともあって小さい時はよく一緒に遊んだ。その時の名残りでいつもタメ口だ。年下のくせに身長と態度は無駄にデカい。

 そしてムカつくのは私が間違いをした時は正論で説教してくる。



「おまえさ、すごい年上のおっさんと付き合っているって本当か?」

「……付き合ってはいないけど」

 


 あのサークルでの出会いの後、なんと隆久さんから連絡がきたのだ。連絡先をサークルの先輩から教えて貰ったらしく『また会いたい』という内容だった。嬉しくてスマホの画面を何度見たことか。



 そして2回会った。

 だけど「付き合っている」という状態ではない。単なるサークルの先輩後輩の関係にすぎない。恋愛対象としてはきっちり一線をひかれている感がある。ただ、私が頑張れば付き合えるような雰囲気はあるのだ。これは女のカンってやつだ。

 そして隆久さんは学生じゃ入りにくいようなお店に連れて行ってくれるし、女性へのエスコートもスマートだと思う。過去の彼氏達や幼馴染の健太とは大違いだ。

 

 会う度に隆久さんを振り向かせたいという欲が膨らみ、彼に見合う女になりたいと思うようになった。



「英会話に通うのはいいと思うんだけどさ、親にあんまり小遣いせびんなよ。学費出してもらっているだけでもありがたいんだからさ」

「うちのママから聞いたんだ? ねえ何聞いたの?」

「いや、そんな詳しくは聞いてねえけど?」

「やっぱりうちのママ、健太のお母さんに話したんだ」

「まぁ、おまえが無理に背伸びしているような気がしたからな」


 そう言うと健太はエレベーターに乗って自分の部屋に帰って行った。


 そう、私は隆久さんに見合う女になるために母親にお小遣いを無心したのだ。英会話に行くためにレッスン費用を出してもらった。医療脱毛のコースも申し込んだ。メイク用品や新しい洋服を買うためにお金がほしいというのはもう無心のレベルだ。アルバイト代だけでは足りない。


 彼に見合うような知的で魅力的な女になりたいという欲望が抑えきれないのだ。 

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