第4話
農地作りの初日が終わり、次は水の問題に本腰を入れることにした。
翌朝、村の人々から「昔あったはずの水路が使えないまま放置されている」と聞き、実際に見に行く。
すると、確かに途中で崩れていたり、土砂で埋まっていたりして、水がまともに流れていないことがわかった。
「……こりゃひどい。誰も修理しようとしなかったのか?」
俺が眉をひそめると、横にいた村の男性が言いにくそうに口を開く。
「前の領主様は、“税が集まらない”と怒るばかりで、結局水路を直さずじまいでした。魔法を使える人も限られてますし、どうにもなりませんでしたから……」
この世界には魔法があると聞いてはいたが、どうやら専門の訓練を受けた者しか使えないらしい。
しかもここは没落領地なので、魔法使いがいるわけでもない。
となれば、これ以上農業を続けるなんて到底無理だろうな、と納得する。
でも、そんなときにふらりと現れたのが、金髪をなびかせた女性だった。
ウェーブのかかった長い髪が光を反射し、青い瞳がやけに輝いて見える。
そのうえ、薄桃色のフリルドレスに白いニーハイといういかにも優雅な姿。
見るからに気品のあるお嬢様のようだが、どうしてこんな荒野に?
「ごきげんよう。あなたが新しい領主様……? 失礼いたしますわ、わたくしアレナ・リヴィエールと申しますの」
流れるような上品な口調に、思わず俺は目をぱちくりさせた。
でも、そんなことより驚いたのは、彼女がさらりと小さな魔法陣を作り出したことだ。
まるで水の精霊でも呼び出すかのように、空中に揺らめく淡い光。
「そ、その魔法、もしかして……水を操れるのか?」
俺が勢い込んで尋ねると、アレナは照れたように微笑む。
「はい、水の魔法は得意分野ですの。以前からこの領地が荒れていると噂で聞いて、気になって見に来たんですのよ」
「じゃあ……悪いけど、この水路に水を流す手助けをしてもらえないか? いや、助かるんだけど、無理ならいいんだ」
正直、すがるような気持ちだった。
村人たちも俺と同じように、希望に満ちた目でアレナを見つめている。
「構いませんわ。どれほどの力になれるかはわかりませんけれど、まずはやってみましょう」
そう言うと、アレナは軽やかにステップを踏んで魔力をこめ始めた。
やがて淡い青色の光が彼女の両手に集まり、それを水路に向かって放つ。
するとどうだろう、滞っていた水の流れが、まるで栓が抜けたかのように動き出すではないか。
「おお……!」
思わず村人たちが歓声を上げる。
土砂が詰まっている部分は完全には取り除けていないが、仮修復のような形で水が通るようになってきた。
途端に荒れ果てた畑にも水が染み渡り、しっとりと湿り気を帯びていく。
「やっべ、マジで助かるわ! アレナ、あんた最高じゃねえか!」
俺が思わずそのままのテンションで声を張り上げると、アレナは少し頬を染めて微笑んだ。
「ふふ、喜んでいただけて何よりですわ」
こうして俺の頼もしき仲間、アレナ・リヴィエールが加わった。
水路問題が一時的とはいえ緩和され、畑の再生に向けて第一歩を踏み出せたのだ。
村人たちは大はしゃぎし、俺は“最高の味方を得た”という実感に胸を躍らせる。
「よーし、この勢いでやってやろう。こんな状況だけど、絶対立て直すからな!」
そんなわけで、畑の荒廃を解消する第一段階が、ほんの少しだけ前進を果たした。
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