第9話 届いた手紙の違和感と、同行者選抜
「……おかしい」
サイフォス男爵家の執事長、ディオは難しい顔をしていた。
「何がおかしいんだ、ディオ」
「ぼっちゃま」
「俺は男爵家を継いだんだから、そろそろぼっちゃま呼びはやめろ」
「こちら、ご覧いただけますか」
「聞けよ、……って、ん?」
ディオが手渡してきたのは、愛しい妹ミスティアからの手紙。
はて、どこがおかしいのかと首を傾げていれば、ペイスグリルが思い当たったようで『あ』と呟く。
「……ミスティアの字の癖、今もあるはずなんだが……」
「お嬢様の字の癖が、ある手紙とない手紙がございます」
サイフォス男爵家では、当主宛てに届いた手紙は執事長であるディオがまず確認をするようになっている。
精霊眼を持っていなくても、サイフォス家直系であればかなり高い精霊との親和性を持っている故に、精霊を守れ、という過激派から狙われてしまうことも多い。
手紙に細工をされていることだって、よくあるために確認を行っているのだが、今回ディオが確認したのはミスティアからの手紙。
「これまでは巧妙に真似られていたようでございますが、慌てていたのでしょう」
どうぞ、とディオが手紙をペイスグリルに手渡し、すぐに中身を確認する。
「…………ほう?」
ひくり、とペイスグリルの頬が引きつるのを、ディオは見逃さなかった。
直後、ミスティア(らしき人)からの手紙を、ペイスグリルは容赦なく握りつぶす。
「これのどこがミスティアだ!! ああ、余程慌てていたようだ……今までが巧妙すぎる程に細工されていたことが分かるほどにな!」
これまでサイフォス家に届いた手紙は、ミスティアの操る風属性の精霊の痕跡があるものだけをペイスグリルに手渡すようにしていた。
ミスティアが強制的に眠らされる前は、ミスティア自身が手紙を送って来たことの方が多かった。筆跡を真似るだけの手紙は容赦なく握りつぶしていたのだが、ある時期を境にミスティアが何故だか『実家にある自分のアクセサリーを送ってほしい』などという手紙を送ってくるようになったのだ。
確認するも、それは確かにミスティアの操る風属性の気配があった。
「馬鹿か、この手紙の送り主は」
「ぼっちゃま、しかしこれまでのミスティアお嬢様のお手紙は……」
「どうにかしてミスティアの操る精霊の気配を定着でもできていたんだろう。だが、何かがあってそれが出来なくなった。だから、筆跡だけでも似せたんだろうが見抜かれた、と」
お前にな、とペイスグリルはディオをちらりと見た。
恐れ入ります、とどことなく誇らしげな執事をみて苦笑するが、今までどうやって風属性精霊の力を沁みつけていたというのだろうか。
気にはなるものの、当主である自分が堂々と乗り込むわけにはいかない。
「さて、どうにかしてあの家に行かねばならんが」
「あなた、わたくしが」
「奥様」
微笑んでやって来たのは、ペイスグリルの妻であるステラ。
ミスティアと同じく、風の精霊と親和性がとても高いため、義姉妹という関係性ながらとても仲が良かった二人である。
「ミスティアちゃんのためですもの。家族が会いに行って駄目、だなんてあり得ませんわ。……普通は、ね」
ステラは微笑んでいるが、目の奥は笑っていない。
先ほどの会話はしっかりと聞いていたのだろう。ステラの周りにいる風の精霊たちも敵意むき出しな上に、今まさに飛び掛かろうとしている。
【ミスティアに何かやった馬鹿いる?】
【殺る?】
【ステラも怒ってる。よっしゃ殺ろう】
「提案内容が果てしなく殺意まみれなのはどうにかしてくださいませ、奥様」
「わたくしの可愛いミスティアちゃんのためでしょう? 情けなどかける必要がありまして?」
そうだそうだー! と騒いでいる精霊たちと、ステラは一緒になって『ねー』と微笑んでいる。何度でも繰り返すが、ステラは今笑っているものの激おこ状態。
このままいけば恐らくローレル家を壊滅状態にしてしまいそうなくらいにはキレている状態だが、多分それをやりたいのはミスティアだろうから、我慢しなければいけない。
「とりあえず抜き打ち検査、ということで明日行ってきますわね」
「……我が妻の行動力に、俺は頭が上がらん」
「ペイスさまの精霊ちゃん、何人か貸してくださいます? 万が一の連絡手段で連れて行きたくて」
「構わんぞ。誰か、ステラの力になりたいやつは……」
【はいはいはーーーーい!!】
わらわらとペイスグリルと親和性の高い精霊たちが挙手しつつ出てきてくれる。
ペイスグリルの得意属性は、『水』。
下半身が魚のような、見た目で言うと人魚のような精霊たちがわらわら出てきて、我が我がと手を上げてペイスグリルの視界に入ろうと押し退け合いをしている。
【ミスティアにも会えるんでしょ!】
【ボクが!】
【いーや、ワタシが!】
「まぁ、ミスティアちゃん大人気」
のほほんと笑っているステラだが、すぐ後にペイスグリルが怒り、一番力の強い精霊を直々に指名したことで騒ぎは一旦おさまったのである。
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