第8話 誤算
使用人達は、ランディの泣き落としでミスティアが簡単に出てきてくれて、ご機嫌取りで何かしらまた実家から金を引っ張ってくれると思っていた。
ランディは、自分のことをミスティアが愛してくれていると信じ切っているから、泣けばどうにかなると思っていた。
リカルドは、ミスティアはきっと子供を愛していると未だに信じ切っていたから、きっとランディがどうにかできると舐め切っていた。
――なお、結果として得られたのはミスティアからの白い目のみ。
「……うるさいです。ぎゃんぎゃんと部屋の前で。私の世話はしたくないから、適当だったじゃないですか。今更何なんです?」
「あ、あの」
「泣き落としが通じるとか思っていました?」
ぎく、と全員見事に硬直する。
やっぱりそうか、とミスティアがまた呆れたが、ランディは意を決したように口を開いた。
「お母様が手のひら返しをしたのが悪いんだ!」
手のひら返し、とは、とミスティアが怪訝そうな顔をしている。
その顔に、ランディは負けそうになるがぐっとこらえてから更に言葉を続けた。
「だって、お母様は寝てばかりだったじゃないか!」
「リカルド様と使用人達と、あなたの大好きなおばあさまが原因なので、文句はそちらにどうぞ」
「え」
ばっと慌ててランディは振り返ったが、全員気まずそうにしているだけで何も言わなかった、いいや、言えなかったらしい。
え、え、と混乱するランディはもう無視して、使用人に視線を向けてミスティアは更に冷たく言った。
「そちらの方々は、人の家の金を当てにしているだけのごく潰し使用人と思っておりますが、認識に間違いございます?」
「な、ななな、な!?」
しれっと告げられた内容に、使用人達が怒ったり焦ったりと忙しい人たちだなぁ、とミスティアは呆れ果てる。
自分の金で遊ぶならまだしも、人の金を当てにしてミスティアに擦り寄ってくるだなんて、どういう神経しているんだと思うけれど、甘い汁を吸ってしまったものだからどうしようもない。
「とりあえず私の実家には『私の名前で届いた手紙はこれから信用しなくていい』と手紙なりで連絡をしますので、これまで楽しんできた豪遊は出来なくなると思ってくださいな」
じわじわと息の根を止めるかの如く支援を切ってやろうかと思ったが、この押しかけ一度でミスティアの堪忍袋の緒は切れた。
ミスティア本人はあまり気が長い方ではなかったけれど、今回のこれでそもそも堪忍袋というものが無くなってしまったのだろうか、というくらいに目の前の人たちには何の感情もわいてこない。
自分の息子も、早々に義母に取り上げられて、義母の思考をがっちがちに植え付けられているうえに、世話も出来なかった。
可愛いはずの息子なのに、どうしても可愛いだなんて思えない。
「ぼ、僕は、お母様の、子供、で」
「子供だから親に何を言っても良い、というわけではないでしょう? 考え無しの発言はおやめなさいね」
そんな、とか、こんなはずない、とか聞こえてきたけれど、ミスティアはどうしてもランディを慈しむことは出来そうになかったのだ。
祖母に言われたからといって、母親に対してあれこれと暴言ばかりを吐いてくる我が子なんて、どうして可愛がれると思うのだろうか、とミスティアは本気で考えこみそうになる。
ランディはランディで、『ミスティアが母親だから無条件で愛してくれる』と信じ切っているのだから、ちょっと手に負えない。
【コイツ本当にミスティアの子?】
【頭悪い】
【風属性の親和性、ゼロなんだけど】
【コイツには力貸したくない~!】
精霊たちからも相当な拒否されようなのだが、幸い、ランディは彼らの声が聞こえないから、この暴言も聞こえていない。
精霊眼を持っていないことだって、ランディは気付いていないのだろうが、いずれは知ることになったとき、セレスティンの絶望はすごいんだろうな……と思いながら、ミスティアは扉を思いきり閉めた。
「え!?」
扉の向こうで何か悲鳴が聞こえたが、知ったことではない。
ミスティアはまず、実家への連絡を最優先にすることに決めたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます