第2話 こうなった原因

 サイフォス男爵家とローレル伯爵家。

 財力の差もさることながら、ローレル伯爵家が本当に欲しがったのは『精霊眼』の秘伝だろう。

 ミスティアには『精霊眼』と呼ばれる特殊な能力がある。これは、普通の人には認識することが出来ないとされている精霊を見て、互いが認識し合うことで意思疎通ができ、更には妖精に力を貸してもらえるという非常に稀有な能力なのである。

 どうにかしてこの秘伝を、とローレル伯爵は望んだそうだが、如何せん本家筋の血筋にのみ受け継がれるものな上に、出現条件は明確にされていない。

 直系に受け継がれるものである、とされているが、それだけ。


 たまたま、今代はミスティアが力の使い手だった、というくらいのもの。


 ミスティアの母にはこれが受け継がれず、ミスティアの伯母にこの能力が宿っていた。もう少し上へと辿れば、ミスティアの祖父、さらにその上は曾祖母……と続いていく。

 能力の有無に関して、男性も女性も関係なく発現するものだから、男だから、女だから、ということではないから、これを研究したいと願う人たちは大変困惑していたらしい。

 条件は何なのだ、と必死に探っているらしいが、明確な条件としては『直系に受け継がれる』ということだけなため、もしも受け継ごうとしたら直系の血を入れるしかない。


「まぁ、リカルドのおじいさまは私のこの眼が目当て、財産がどうとかはある意味……いえ、どちらも得ようとした欲張りさん、ってことなのよね」


 はぁ、とため息をついたミスティアは、うーん、と伸びをした。


「さて、と。状況整理の時間だわ」


 ミスティアがいるのは、とても粗末な部屋。

 そうだ、ここで十分だからと義母、息子、夫が面白がってここへとミスティアを追いやったのだ、と思い出す。

 伯爵夫人に対する仕打ちではないのだが、当主が率先してやっているから、使用人達も面白がってやっている。止めてくれるような味方は居ないため、孤立状態だ。


「跡取りは産んだけれど、ランディには精霊眼が受け継がれていない……」


 きっとあの人たちは気付いていないだろう。

 精霊眼は発現するまで人によって時間がまちまちだから、と伝えておいたのが功を奏したようだ。ミスティアも時間がかかったのだが、現在ランディは十歳。これよりもミスティアの発現は早かったが、教えていない。

 大体が十歳までに発現するし、恐らくミスティアの次はランディではなく一族の他の誰かなのだろう。


「ばれたら発狂するでしょうけど、それまでにさっさと離縁して縁切りもしてしまいましょ」


 あとは、とミスティアは指折り数えていく。


「実家に戻るとして、戻ってからどうしましょうか……。お兄様が家を継いでいるから、いつまでも図々しく居座るだなんてできるわけないし……。冒険者になるにしても、年齢的なものが……」


 うんうんと悩んでいたが、まずは目先の目標から達成せねば、とミスティアは頷いた。


「ひとまず、ここの環境改善からね」


 す、とミスティアは手を上げて目に魔力の流れを集中させていく。


【力を貸してちょうだい、心優しきわが友よ】


 意識を集中すれば、自然と精霊言語が口から出てくる。

 そうすれば、ミスティアが主に力を借りていた、風属性の精霊たちがふわりと姿を現した。


【ミスティア!】

【こんにちは、心優しいお友達さん】

【ミスティアだ!】

【ミスティア、元気?】

【何ココ、空気悪い!】


 ぺっぺっ、と嫌そうに風の精霊たちは唾を吐くような仕草で嫌悪感を露わにする。

 空気の入れ替えをしようにも、窓の向きとしてあまり風が入ってこない。それに加えて、窓が一か所しかないから、うまく換気が出来ない。


【ミスティア、窓開けて! 一気に喚起する!】

【ココ空気悪い!】

【ミスティアの体の魔力も、巡りがよくなーい!】


 ぷんすかしながら精霊たちはきゃいきゃいとミスティアに指示する。

 ありがとう、と頷いてからミスティアが窓を開けた途端、ぶわっと綺麗な空気と共に風が入り込み、精霊たちの操作によって部屋中を巡っていくのが分かる。


「すごい……すっきりしていくわ……」

【ミスティア、何回か換気しなきゃダメー!】

【え、えぇ】

【ボクたちを呼んでね、可愛い姫】


 そんじゃ、ばいばい!と消える前にミスティアに対してあちこちにキスをしてから消えていく精霊たち。


「そういえば……やたら精霊に懐かれるのが早いのよね、私……」


 何かしたっけ、と首を傾げるミスティアだが、一先ず綺麗になった空気を堪能してから、ほっと一息ついたのだった。

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