夢と現実

風馬

第1話

==今月の運勢==

あなたの今月の運勢は最悪でしょう。

特に、金運・賭事は人生で最悪、絶対にギャンブルなどはしないように。

 

俺の今月の運勢は最悪なのか・・・。

ふと、寝る前に読んだ週刊誌の巻末のページに目が止まった。

でも、明日になればきっと忘れるさ。

俺はそう思い、布団に入った。

 

 

俺はモノレールに乗っていた。

今日は、休日。

毎度の習慣で小倉競馬場に足を運ぶ。

モノレールの駅を降りると、競馬新聞[ニュース]とペンを買い、人の群がっているパドックへと向かう。

競馬新聞片手に、周回している競走馬をチェックする。

(5番、7番、11番・・・)

競馬新聞の馬柱欄にチェックを入れる。

そのまま、馬柱欄の前5走の内容を見分する。

(間違いない、この3頭で決まりそうだ。しっかし、印が無いなぁ)

そう思いながらも俺は、その3頭の馬券を1000円づつ購入した。

BOX馬券と言う奴だ。計3000円也。

果たして、どういう結果になるのか。

やがて、締め切りのブザーが鳴り、競争の開始を告げるファンファーレが場内を包み込んだ。

一番高揚する場面だ。

 

俺は、ゴール前からターフビジョンでスタートの様子を見た。

ガシャン!

ゲートが開き、馬が一斉にスタートする。

あっという間に、7番が先頭に踊り出る。

(いいぞ)

そう思うと同時に買った馬の居場所を確認する。

11番は中段より少し前。5番は後方から4,5頭目に位置している。

7番の馬は、後方の馬のことを考えずに、ひたすら逃げている。

(後方集団との差は5馬身くらいか?)

各馬のスピードも時間が経つほどに増してきている。

(間違いない、この展開だとこの3頭向きのペースだ)

やがて、スピードについていけない馬が、脱落を始める。

7番が残り800mのハロン棒を通過する。

2番手までは10馬身以上差が開いている。

(7番は、いける!さて、2着が・・・)

相変わらず、7番の脚色は衰えない。それどころか、更にスピードを増しているような気さえ興させる。

後方集団が3コーナーから4コーナーのカーブに入る。

5番の馬が外目を突いて、スーッと順位を上げる。

11番も内ラチ沿いに、順位を上げる。

その頃、7番の馬は直線コースに入っていた。

まだ、残り200m。なのに、負けを確信したギャンブラーたちが、買った馬券を天へ放り投げる。

そして、残り100m。

相変わらず、先頭は7番。

そして、ようやく後方集団が直線コースに届き始めた。

後方集団の先頭は11番。1馬身ほど離れて1番の馬がいる。

気になるもう一頭の5番は、中段だが大外に出している。

(5番は直線に賭けたな)

7番が、ゴールを通過した頃、俺の目は既に2着馬以外気にするものはない。

このまま、行けば11番が2着。

だが、競馬はそれほど甘くない。

2着を賭けて、残り全ての馬に鞭がしなる。

11番、1番、9番、7番、それぞれ差が無く走っている。

このまま決まりか?そう思った刹那。俺の目の前の視界に、漆黒の馬体が駆け抜ける。

(ん?何だ?)

駆け抜けた馬の白地のゼッケンに黒い字で5番と書かれている。

(よっしっやぁ、勝ったぁ)

興奮が、体中を駆け巡る。

(配当は、配当はいくらだ?配当は?)

やがて着順掲示板の順位が点滅から点灯に変わり、そして確定の赤ランプが灯る。

 

結果が表示されると、場内に大きなどよめきが起きた。

俺は電光掲示板に、「馬番:5-7 70800円」と表示されているのを確認すると、真っ直ぐ、払い戻し所に向かった。

 

俺は、払い戻しを終えると70万円を手にして、そのまま競馬場から外に出た。

勝ち逃げと言う奴だ。

それにしても、今日はツイている。

このツキを生かすものはないものか・・・。

単純な発想だが、こういう時はやっぱり大衆ギャンブル、パチンコかな?

そう思うや否や、タクシーを拾い手ごろなパチンコ店に向かった。

 

パチンコ店に着くと、店内を周回し一番空いているシマのスロット台の席に腰を下ろした。

座った席は、ガラス張りの店内の一番端。

セオリーだと、こういう席はよく出る。

取りあえず、先ほどの小銭の8千円が手元に有る。

ま、懐にも70万円はあるのだが。

素早く、千円をメダル貸し機に入れる。

ガジャっと言う音と共にメダルが50枚出てくる。

メダルを鷲づかみにして、受け皿に移動し3枚のメダルを投入する。

開始レバーを左手でコツンと回し、ストップボタンをリズムよく押す。

揃わない・・・

(あたり前か・・・。そうは簡単にいかないよな)

ゲームをひたすら進める。

良いテンポで進んでいるのに払い戻しのメダルは1枚も無い。

ゲームを進めるたびに3枚のメダルが機械に消化されていく。

残り1枚になる。

俺は迷わず、千円を投入する。

出てきた50枚を手にすると新たな気持ちでゲームを開始する。

・・・。

揃わない。

3枚単位で進んでいたゲームが何時の間にか千円単位へのゲームへと変わる。

小銭千円を5分おきに投入する。

開始して30分ほど経っただろうか。

俺は、のこりの千円が1枚になった事に気づいた。

(ちっ!大金は崩したくないしなぁ、そろそろ出ねぇかなぁ)

最後の千円を投入し、ゲームを開始する。

チロリロリーン♪

初めて、払い戻しが発生した。

(いけるか?)

しかし、次のゲームは相変わらず・・・。

(やっぱり駄目か・・・)

俺は、俯きながらゲームをしていた。

(そんなに、落ち込むこと無いジャン、さっき競馬で勝ったんだから)

自分自身にそう言い聞かせていた、その時、突然機械から大音響のリズムが流れる。

(ん?どうしたんだ)

そう思いながら、恐る恐る徐々に目を上にずらしていく。

リールには7が一直線に並んでいた。

(ったく、ようやくきたか)

気分良くボーナスゲームの消化に入る。

メダルは受け皿にジャンジャン出てくる。

やがて、ボーナスゲームが終わる。

(あ~、今度はいつ揃うんだろ・・・)

程なく、7が揃う。

(え?うっそー)

(ったく、いつ流行った言葉なんだか・・・)

そう思いながら、飽きてきたボーナスゲームを消化する。

しかし、今度はその飽きてきた行為が嵐のように続き始める。

通常ゲームに戻るたびに、リールには「777」が表示される。

(壊れちゃうんじゃないの?)

そう思いながらも、重い腕を動かしながらボーナスゲームを消化する。

(あぁ、かったるい)

 

それから、何時間ボーナスゲームをやったんだろう。

メダルクレジットの枚数が0になったのを確認して、俺はメダルを両替した。

両替後、両手で持ちきれないほどの景品を、交換所で現金に替えた。

現金30万円。

(時給10万弱か?悪くないバイトだな)

そう思いながら、俺は帰宅することにした。

テクテクと近くの駅まで歩き始めたが、今度は電話ボックスの横に黒いモノを見つけた。

別に、興味はないのだが、ここは人通りが少ないので俺が気づかなけりゃ誰も気づかんだろう。

電話ボックスの側に来ると、その黒いモノはかばんだった。

無造作に、黒いかばんのジッパーを開ける。

街灯の黄色い光が、闇に埋もれていた正体を暴く。

中には、高額紙幣が溢れんばかりに詰まっていた。

(なんだ、こりゃぁ)

(少しの金なら、警察に届けることも無いがこれだけの大金だとな。)

俺は行き先を駅から、交番へと変えた。

 

交番には、警官と小奇麗なスーツを着た白髭を生やした老人がいた。

直感で、落し主はこの老人だと思った。

「あのう、先ほどこの黒いかばんを拾ったのですが・・・」

恐る恐る、かばんを差し出す。

「あ、そうですか。取りあえず中身を確認しますので・・・」

警官は、そう言うとかばんのジッパーを開けた。

その途端、老人の目が安堵の表情に変わる。

「このかばんに間違いないですか?」

警官は老人に尋ねる。

「はい。間違い有りません。それは私のかばん・・・です」

余程嬉しかったのか、老人は涙で咽ている。

しかし、何も名前を確認するようなものが無いのに、よくこれだけの大金をあっさりと渡すなぁ等と思う。

「いや、本官も助かりました。流石にこれだけの大金ですから、紛失するとなると大変ですから」

確かにそう思うが、本当にこの爺さんが落し主なのかも妙に気になる。

「受け取ってくだされ、お若い方。ほんのお礼ですじゃ」

と、手には一まとまりの札束がある。

受け取らないのも変だ、と思い手を出す。

「別にそんなつもりではなかったんですがねぇ」

金を受け取るときには、先ほどの疑念はすっかり消えている。金の力は恐ろしい。

 

それから、俺は家路に無事に着いた。

何時の間にか、胸の両ポケットは札束で一杯だ。

 

家に着くと俺は、まず手元に有る200万円を緑色の金庫に納めた。

これで、安心して寝れる。

さて、明日は豪遊でもするか。そう思いながら床についた。

 

目が覚める。

やけに今朝は、朝日が眩しい。

ガラス越しに、すずめの鳴き声がする。

鳴き声を聞きながら、ふと目が金庫の方に向いた。

確か、夢だったよな。

白い金庫を見やりながら・・・。

金庫の中には何も無いはずだ。

しかし、押さえられない好奇心が金庫に手を伸ばす。

カチャリ、と言う音と共に金庫の扉が開く。

薄暗い金庫の中には、札束が2つ。

200万円だ。

夢じゃないのか。

半信半疑で札束を両手に持ってみる。

ズシリと重く感じるこの感触。間違いなさそうだ。

そう思うと、素早く着替え、無造作に札束を両ポケットに入れて、戸外に出た。

 

道路は、夏の太陽に焦がされ暑く反射している。

俺は、闊歩良く歩く。

手元には200万円。

さて、何をしよう。

いざ、大金を手にするとどうして良いかわからない。

取りあえず、街にでも出てみるか。

タクシーを拾い、適当なところで降りて、小倉の街を歩く。

まだ、昼間で当然飲めるようなところはない。

シマッタナぁ、もう少し家でゆっくりすればよかったな。

金が歩いて、逃げるわけでもあるまいし。

しばらく歩くと、涼しそうな公園を見つけた。

その公園の近くで、缶ジュースを買うと、公園のベンチに腰掛けた。

木漏れ日の光が気持ちよく感じる。

それも、これも懐の大金のおかげなのかな。

一息に缶ジュースを飲み込み、俺は横になって、自分の胸に上着を掛けた。

夏の暑さが、俺を闇の中に引き摺り込む。

 

ネオンの光が黄色や青に輝く夜。

俺は、洒落た店の前にいた。

扉を開けて中を見回すと、客は誰もいない。

カウンターの前まで移動すると、バーテンに呟く。

「1晩で200万円分飲ませてくれ」

バーテンも商売柄慣れているのか、驚く顔さえ見せない。

「では、名も無い酒をお出ししましょう。しかし、1杯で200万円分の価値の有るお酒です」

「じゃぁ、それを」

俺は、カウンターに座り、煙草に火をつけた。

天井に吊るされた少し古風な明かりが、煙草の煙を照らす。

「どうぞ」

静かに出されたワイングラスには、深い紫色をしたワインが半分ほど注がれている。

200万円の酒。

俺は、一口含み、舌で酒を弄ぶ。

酸味の強いワインが徐々に渋味を強める、と同時にアルコールが喉の奥を刺激する。

旨いとおもいながら、ゆっくりと喉の奥へワインを流し込む。

胃は、それを待っていたのかうねりを上げてワインを吸収しようとする。

残った酒も、グイッと飲み干す。

200万円がほんの数秒で俺のからだの中に吸収される。

酔いで気分が高揚する。

カウンターに山積みになったマッチを右手でポケットに入れる。

段々と酔いが激しくなってくる。

こんなに俺、酒に弱かったかな。

そう思いながらも、睡魔が俺を押し倒す。

 

夕焼けの公園でベンチがオレンジ色に染まる頃。

ガバッと俺は起き上がる。

ゆ、夢か。

まだ、公園にいるしな。

それにしても、妙に気持ちの良い夢だったな。

そう思い、煙草を口に咥える。

胸ポケットにライターが無い。

俺は、他のポケットも慌てて探す。

しかし、ライターはない。

そのとき、右ポケットに何かが有った。

ポケットに手を入れ、何かを確認する。

ポケットから出されたものは、<BAR 20000$の夢>と書かれたマッチだった。

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夢と現実 風馬 @pervect0731

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