第3話:廃坑に行ってみた

「それじゃあノームたち、こんな形でよろしく」

「ムフ!」


 ここでは木材は貴重だ。

 体高が三メートル近くにもなる鶏のための小屋ともなれば、相当な量の木材が必要になる。

 さすがにそれは無理なので、小屋は土で作ることにした。

 これならノームに任せておけば数時間で完成するし、材料だっていくらでもある。

 材料費タダ、人件費タダ。最強コスパだ。

 ま、俺の魔力がほんの少しだけ減るけどね。

 

「そうだ、アイザック隊長」

「ハッ。なんでありましょうか、レインシェルド様」

「鶏を捕まえたあの渓谷には遺跡があるって、父から貰った書類にあったけれど」

「はい。遺跡といっても地下にございまして。途中の扉までは安全なのですが、その先にはアンデッドが巣食っておりまして」


 扉?


「あぁ、混乱させてしまいましたか。我々も実際に見た時は驚いたのですが、地下の遺跡まではごく普通の洞窟のようになっていまして」


 元々この辺りには鉱山があった。

 坑道を広げている最中に、広い空間に繋がった。そこにあったのが遺跡だ。


「発見されたのは三百年ぐらい前の事らしいのですが、当時この地を治めていた領主様が失踪され、その時から遺跡に繋がる坑道に扉が出現した――とかなんとかで」

「その扉は実際にあると?」

「えぇ。私もこの目で見ております。扉には鍵などはなく、出入りは出来るのですが……扉の向こう側はアンデッドだらけでして。ただ不思議なことに、奴らは決して扉から出て来ようとしないのです。更に言えば――ある条件を満たすまで襲っても来ません」


 アンデッドが襲ってこない?

 通常、アンデッドは生ある者に対して強い殺意を抱き、無条件で襲って来るモンスターだ。

 それが襲ってこないって、どういうことなんだろう。


「襲ってこないのであれば、遺跡の調査も出来るんじゃ」

「いえ、条件を満たせば襲って来ます。その条件というのが、扉からある程度の距離まで中に入ることのようでして」

「遺跡に近づくとってことか……。遺跡を守るための兵士だろうな」

「だと思われます。あのアンデッドどもは遺跡を守るだけで、侵入者を殺すことまではしないのですよ。揉みくちゃにして、扉の外側に押しやるだけでして。まぁ多少の怪我はしますが、わたしの記憶では死亡者が出たという記録はございません」


 遺跡を守る任務を担った兵士たちがそこで死に、成仏できずにアンデッドと化して尚任務を続ける……なんてことはあるんだろう。

 もしくは――魔法で蘇った死霊たちに遺跡を守らせているとか。

 どちらかだろうな。


 だけど死者を出さないなんて、そうなっているんだ。


「隊長、モンスターの大群が町に押し寄せた時、避難出来る場所はあるのかな?」

「い、いえ、場所はございません。万が一のことがあった場合には、南に逃れて援軍を要請いたします」

「ずっと南に逃げ続けるってこと?」

「は、はい。先に早馬を出し、援軍の要請を行います。その間に領民たちを南にある隣町まで逃がすことになるでしょう」


 領民が少ないとはいえ、それでも二百人ぐらいはいるんだ。

 全員を乗せられるだけの馬車が、この町にあるとは思えない。

 となると大部分は徒歩での移動だろう。

 隣町と言ったって、ここから馬車で五日の距離だ。現実的じゃない。


「よし。明日は遺跡調査に行こう」

「え? レ、レインシェルド様?」


 徒歩で避難するなんて、足の速いモンスターがいればアッサリ追いつかれるだろう。

 だったら早馬だけ出して、領民はここから近い西の渓谷に避難させた方がいい。

 廃坑、それから遺跡の構造次第だけどね。






「非戦闘員のわたしまで同行しなきゃならない意味があるんですか?」

「何言っているんだウェルド。君は俺と一緒に剣術を学んでいただろう。その辺の見習い騎士より、よっぽど腕が立つじゃないか」

「見習い騎士よりはね!」


 そりゃ一流の騎士には到底敵わないけど、素人じゃないんだしいいじゃん。

 ウェルドはインドア派なんだよなぁ。

 俺も前世じゃそうだったけど、今世ではアウトドア派になりたい!

 

 昨日は鶏小屋が完成するまで、暴れる鶏を押さえつけてないといけないから動けなかった。

 夜には小屋が完成し、その頃になると鶏も諦めて飼われる覚悟が出来たようだ。

 尾っぽの蛇は食用にもなるし、昨晩は三本の蛇肉が領民に振舞われた。

 まぁ全員に配るとなると、ひとり当たり唐揚げ二個分ぐらいにしかならなかったけど。


 こういう辺境じゃ、モンスターの肉も貴重だ。

 だけどこれから向かう遺跡にいるのはアンデッドのみ。さすがに食えないな。


「てわけで、アンデッドはサクっと浄化してしまおう」

「だったらわたしは戦わなくていいんですね?」

「え、戦ってよ。神聖魔法はそこまで得意じゃないんだから、魔力の消費が多いんだ。俺の魔力が枯渇しないよう、数を減らす協力ぐらいしろよな」

「魔力の枯渇って……あなた、人生で一度も枯渇させたことないじゃないですか」

「それはそれ、これはこれ。お、坑道の入り口が見えてきた。さぁ、張り切っていくぞー!」


 やや間があって、警護兵が静かに「おー」と返事をしてくれた。

 な、なんか俺、空気読めてなかった?


 坑道の入り口は大人が三人、両手を広げても十分な広さがあった。

 あまり広くない方が籠城しやすいんだけど、まぁ許容範囲かな。

 奥に行くにつれ道幅は狭くなっていくが、こういう場所にも係わらず、モンスターの姿は一切見ない。

 安全っていうのは嘘じゃないようだ。


 下へ下へと歩いて三十分ほどで、隊長が言ってた扉まで到着。

 床も壁も天井もむき出しの土の中、扉だけが鉄っぽい素材で出来ていて周りから浮いている。


「この扉、物凄い魔力を感じる」

「でしょうね。アンデッドがこっちにこれないのも、この扉の存在ありきでしょうから」

「と言うわけで入ってみよう!」

「どういうわけなんですかレインシェルド様!?」


 鉄製に見えて鉄ではない扉は、軽く押すだけで開いた。

 その向こう側に見えるのは無数のゾンビとスケルトンたち。

 こっちを全く気にした様子もなく、坑道を右に左にふらふらしている。


「アイザック隊長、どの辺りまで行くと攻撃してくる?」

「通路の先に広い空間があります。そこに出れば襲って来るようです」

「ふーん。じゃ、それまでは戦闘を避けていこう」

「ちょ、レインシェルド様!? 戦闘を避けるって、こんなにうじゃうじゃしているんですよっ」


 扉を潜って向こう側に行っても、アンデッドたちはやっぱり見向きもしない。

 なんかちょっと寂しい。


「レインシェルド様っ、浄化してくださいよ! さっきサクっと浄化するって言ってたでしょっ」

「んー。アンデッドが外に出ないよう扉を作り、通路を歩いているだけじゃ襲ってこないようにもしてるその人のことを知りたい……と思ったから」

「し、知りたいって。でもあの扉は三百年前に出来たものなんでしょう? 生きていませんよ、その魔術師はっ」


 だろうね。

 でも魔法の効力はまだ生きている。死後も効力を発揮させるには、そうとうな力が必要だ。

 だけどあの扉は、現在進行形で魔力が流れ込んでいる。


 つまり、術者は今もここにいるってことだ。

 人を襲わせない。でも遺跡には近づけさせたくない。

 いったいどんな人なんだろう。


 あ、人じゃなかったりしてね。




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次の更新は元旦12:04です。

みなさま、よいお年を

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