第8話

 俺の領地は緩やかに、しかし確実に発展の道を歩み始めている。

 食糧不足の解消へ向けた農地改革、ノノカの医療サポート、セリカの情報整理、そしてラヴィアの盛り上げ――すべてが噛み合い、ちょっとずつ形になり始めた。


 そんなある日、またしても帝国騎士団長イグナートがやってきた。

 銀色の鎧に鋭い鷲鼻、相変わらず高慢な雰囲気をまとっている。


「エルフリード・ハヤカワ、借金返済の進捗はどうだ?」


 そう言い放つイグナートの眼差しは、前よりも警戒心を帯びているように感じる。

 俺たちの改革が進んでいるのを見て、こいつなりに驚いているのかもしれない。


「借金はちゃんと返す。そのためにこうして産業を育ててるんだよ。残りの期間で一気に利益を生み出してみせるさ」


 俺が胸を張って答えると、イグナートは鼻で笑う。


「ククッ、面白い。だが、貴様の領地にそんな力があるとはな……とにかく期限は守れよ。容赦はせんからな」


 そう捨て台詞を残し、イグナートは騎士団を率いて去っていった。

 彼が見下すように接してくるのは腹立たしいが、どこか不器用な男でもあるんだろう。


「うわあ、あの人相変わらず口調がキツイねぇ。まあでも前より長居したってことは、エルフリード様が気になってる証拠かも!」


 ラヴィアが首をかしげて笑う。

 セリカは腕を組んでクールに、「あの騎士団長も、いずれ頭を下げる立場になるかもしれないわね」とつぶやく。


 そんな夜、屋敷の寝室で休んでいたところ、外が妙に騒がしい。

 急いで飛び起きると、屋敷の警備兵が慌てた様子で「賊が入り込みました!」と報告してきた。

 一体何事だ?


 外へ出てみると、複数の黒ずくめの男たちが倉庫周辺を荒らしており、材木や薬草を物色している。

 村の資源を盗むつもりか、ふざけやがって!


「何やってんだテメェら! ここは俺の領地だぞ、勝手に持ち出すんじゃねえ!」


 怒鳴りながら走り寄ると、やつらはこっちを見向きもしないで袋を抱え逃げようとする。

 が、そこへ素早く影が飛び出した。セリカだ。

 彼女は敵の動きを先読みしていたらしく、「逃がさないわよ!」と低い声で言うなり、スッと懐に滑り込む。


「う、うわっ!?」


 黒ずくめの男は驚き、振り向いたところをセリカに見事に投げ飛ばされる。

 その一瞬後には、彼女の膝蹴りがもう一人の腹に炸裂。

 冷静沈着なセリカが、こんな激しいアクションを見せるなんて思わなかったぞ。


 とはいえ、賊たちもただ逃げるだけじゃなく武器を抜いて応戦してくる。

 俺は棍棒代わりの木材を掴み、「やるしかねぇか!」と立ち向かった。


 すると、背後からラヴィアの声が聞こえる。


「エルフリード様、私も手伝うよぉ! 踊り子だけど、身のこなしには自信あるの!」


 彼女は軽やかに宙を舞うようなステップで相手の攻撃をかわし、脇から一気に体当たり。

 小柄な体で飛び跳ねながら、賊の腕を取って制止させる。


「すごいなラヴィア! いけるぞ!」


 俺もその隙を見逃さず、棍棒を振り下ろして男の武器を叩き落とす。


 ノノカは遠くから駆けつけてきて、「皆さん、怪我をしないでくださいね!」と救護の準備を整えつつ、時には薬瓶を投げて目くらましを仕掛けたりしている。

 なるほど、彼女の薬の知識は戦闘でも役に立つのか……なんて思ってる場合じゃない。


 俺たちの奮闘により、最終的に賊は追い払われた。

 ただ、数名は捕まえたものの、背後にいる黒幕までは分からないまま。

 セリカは息を整えながら、「これは誰かが差し向けたものね。オットーか、あるいは帝国の誰か……」と険しい表情を見せた。


「まったく、こんな夜中にコソコソしやがって……俺の領地をなめるなってんだ。覚えてろよ!」


 俺は捕まえた賊から必ず黒幕を突き止めるつもりだ。

 仲間たちも「本気を出すしかないわね」と決意を固める。

 やっぱりこの世界は甘くない。内政を進めれば進めるほど、外からの妨害も増えていく。


 だけど――仲間たちと力を合わせれば、どんな危機だって乗り越えられる。

 俺はそんな手応えを、夜の静寂の中で強く噛みしめた。

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