第5話

 祭り当日。村の広場は予想以上の人出でごった返していた。

 俺たちの手作りチラシを見てやってきた行商人や旅人が、「あれ、何やら面白そう」と足を止めてくれている。

 普段閑散としていたこの辺境の村が、こんなににぎわうなんて想像してなかった。


「いやー、マジですげえな。見てみろよ、あっちじゃもう売り切れ寸前の屋台まであるぞ!」


 俺が興奮気味に言うと、セリカが肩をすくめて笑う。


「ふふ、まんざらでもないでしょ? こういうイベントが成功すれば、あなたの領地の知名度も上がるわ」


「ま、俺の計画にしては上出来だ! って自画自賛してもいいよな!」


 俺がウキウキしていると、ステージ上から華麗な音楽と歓声が聞こえる。

 そこではラヴィアが妖精のように舞い、瞬くようなステップで観客を魅了していた。

 ふんわりとした白髪が踊るたびに揺れ、白ニーハイの美脚がちらちらと目に入ってドキドキする。


「ラヴィア、楽しそうだな。踊りながら客を呼び込むなんて、なかなか天才的だわ」


「彼女の笑顔は武器になるわね。商人たちも退屈しないでしょうし、商品の宣伝にもなる」


 セリカがクールに言い放つ一方、俺はついつい見惚れてしまう。

 だが、そんな晴れやかな空気を壊すように、うさんくさい大柄の男が寄ってきた。

 肥満体型にモノクルという出で立ち……あれ、たぶん隣国の商人オットー・トバだったはずだ。


「フン、なかなか繁盛してるようだが、これからの取引はどうするつもりかね? 安く買い取ってやるなら、うちほど好条件はないぞ」


 いきなり絡んでくるオットーに、俺は思わず苦笑。

 その言葉の裏には「俺の気に入らない値段じゃ、取引しないぞ」って脅しが見え隠れする。


「悪いが、こちらとしても商品の価値を下げるつもりはないんでね。正当な値段を支払ってくれる相手と取引するつもりだ」


「ほう……生意気な領主だ。いいだろう、これで市場がどう反応するか見物させてもらうわ」


 そう言ってオットーは高笑いしながら離れていくが、その眼光は完全にこちらを見下している。

 ちぇっ、ああいう守銭奴がいると何かとやりづらい。


 とはいえ、この祭り自体は大成功で、領民も喜んでいるし、来訪者からも好評を博している。

 ステージの方へ目を戻すと、ラヴィアが最後のターンを決めて華麗にフィニッシュ。

 拍手喝采の中、彼女は汗を拭いながらステージから降りてきた。


「エルフリード様、どうだった? 私、ちゃんと役に立てたかな?」


 その笑顔は純粋そのもので、俺は一瞬、胸がキュンと高鳴る。

 さっきのダンスは息を呑むほど魅力的で、観客の心をひとつにまとめていた。


「ああ、すっげぇ盛り上がったよ。ありがとな、ラヴィア」


「えへへ、私も楽しかったよぉ。もっともっと上手くなるように頑張るね!」


 そう言ってにこりと微笑むラヴィアの頬には、ほんのり赤みが差していた。

 俺も思わず照れて、鼻の奥がツンとする。


 こうして、祭典は大盛況のうちに幕を下ろし、俺の領地に新しい風が吹き始めた。

 ただし、隣国の商人オットーが巻き起こす波乱の予感はまだくすぶっているし、借金返済までの道のりは遠い。

 でも……今は少しだけ、この甘い空気に浸っていたい気分だった。


 ラヴィアの踊る姿が、ちょっと頭から離れなくなりそうだ。

 めちゃくちゃ綺麗だったし、なんか心が暖まるんだよな。

 さて、次はどんな改革を起こそうか。やりたいことはいくらでも湧いてくる。

 俺の“最高のスローライフ”への道、まだ始まったばかりだぜ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る