第4話

 セリカが「私も本気で領内を調べるわ」と言ってから数日。

 彼女の情報収集能力は想像以上だ。

 村にある資源、領外への物流ルート、どの商会がどんな商品を求めているのか……

 それらをまとめた書類が、屋敷のテーブルの上にずらりと並んでいる。


「へえ、意外とこの辺りって木材や薬草が豊富に取れるんだな。今まで活用してなかったのか?」


 俺が書類を見ながらつぶやくと、セリカは微かに笑みを浮かべる。


「前領主が怠慢だったのよ。借金を作っておきながら資源をまともに活かさないって、正気を疑うわね」


「ったく、やることなすことデタラメだったんだろうな。でも、ここからは違うぜ。俺の領地ブランドを作り上げて、特産品をガンガン売り出してやる!」


 鼻息荒く意気込む俺に、セリカはすっと紙束を差し出す。


「あなた、チラシとか作れる? 情報をまとめて、商人たちに『この領地にはこんな魅力がある』って宣伝できれば、取引相手は増えるんじゃない?」


「任せろ。前世でビラ配りのバイトとかしたことあるし、デザインやキャッチコピーくらいなら考えられる!」


 一方、その場に居合わせたラヴィアは「私、踊り子だからショーでお客さんを呼ぶの得意だよ!」と張り切っている。

 こうして、セリカの情報分析×俺のチラシ作成×ラヴィアの集客力という形で、三人それぞれの得意分野を合体させることにした。


 自室にこもって紙とインクでチラシの下書きを作り始める。

 この領地の名前や名産品、地図と簡単な紹介文……ここぞとばかりに“売り文句”を凝縮してみた。


「セリカ、どうだ? 『癒しの薬草と木材、そして活気あふれる村の笑顔!』みたいな感じで書いてみたけど、ベタすぎるかな?」


 そう尋ねると、彼女はクスリと笑う。


「ふふ、悪くないわ。いや、むしろこのくらいストレートな方がインパクトはある。私の情報網でバラ撒けば、商人も興味を持つでしょうね」


「マジかよ! よっしゃ、やっぱりこういうのは勢いだよな!」


 楽しくなってきたところで、ラヴィアが「私も協力するぅ!」と手を挙げた。

 彼女は可愛いイラストを描くのが得意らしく、チラシの端に小さな踊り子キャラを描き加えてくれる。


「これで華やかさアップだよぉ。みんなが見た瞬間、“わぁ、楽しそう!”って思うといいなぁ」


 たしかに、柔らかいタッチのイラストがあるだけで雰囲気がガラッと変わる。

 次第にテンションが上がってきた俺たちは、完成したチラシを持ち寄り、村の広場へ集結。


「よーし、これからイベントを開くぞ! 村人たちと一緒に即売会みたいな祭りを企画して、俺たちの領地をアピールしよう!」


 セリカは「本当にそんな規模の催しを開くの?」と若干呆れ顔だけど、目は笑っている。

 ラヴィアは「踊り子として、私も思いっきり踊って場を盛り上げるよぉ!」とやる気満々だ。


 これが初めての本格的な領民参加型プロジェクト――祭りだ。

 自給自足の農作物や、薬草から作ったちょっとした香料、そして木工品などを出店形式で並べる。

 参加者が自然と集まり、売り上げを伸ばせば借金返済の足しにもなるだろう。


 セリカの情報分析と指揮、ラヴィアの華やかなパフォーマンス、そして俺のチラシ作戦。

 それらを合わせて盛大にアピールしようじゃないか。

 さあ、今度こそみんなで一丸となって、領地改革の第一歩を踏み出すんだ。

 こんなワクワクするイベント、前世でもあまり経験がないから俺自身が一番楽しみかもしれない。

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