第3話
俺の領地で始まった水路工事は、なかなか順調に進んでいる。
村人たちが総出で穴を掘ったり、木材を運んだりしてくれるのは心強い。
ここの人たちは最初こそ半信半疑だったけど、やっぱり食糧不足を解決したい思いは切実なんだな。
「おーい、もっとこっち側に溝を広げてくれ。均一な勾配になるように!」
俺が声を張り上げると、村の男たちが「おう!」と力強く返事をする。
みんな汗だくになって頑張ってくれてるから、俺もなるべく彼らの士気が上がるような声掛けを意識する。
そんな中、ラヴィアが元気に走ってきた。
「エルフリード様、井戸のとこ見てみてよぉ! なんだか水がきれいになってるみたい」
ラヴィアが指さす先には古い井戸があって、地味に濁りがひどかったのが改善しているようだ。
おそらく水脈にうまく流れができたんだろう。
村人たちも喜び、「こんなに透明な水は久しぶりだ!」と歓声を上げていた。
「よし、いっそのこと、井戸にポンプをつけてみるか。前世で見た木製ポンプなら、簡易的に水を汲み上げられるかも!」
頭の中で設計図がパパッと浮かび、さっそく作り方を説明しながら木工作業に取りかかった。
釘や金具が足りない分は、この世界の鍛冶屋がなんとか加工してくれそうだ。
やっぱり“ものづくり”ってワクワクするな。
そして村の広場でポンプ試作品を稼働させたとき、初めて自力で水が勢いよく汲み出された瞬間は大盛り上がりだった。
村人が拍手喝采し、子どもたちが「すっげぇ!」と大喜び。
俺も嬉しくなって「よっしゃあ!」と雄たけびを上げちまった。
と、その時、不意に見慣れない黒髪の女性がこちらを見ているのに気づく。
漆黒のロングヘアを艶やかに下ろし、浅葱色のタイトドレスを着こなしたクールビューティーだ。
目が合うと、彼女はすっと近づいてきて、俺のポンプをじろじろと観察し始める。
「あなたがここの領主? エルフリード・ハヤカワ……で合ってるわね」
やけに落ち着いた声だが、言葉尻に少し辛辣なトーンを感じる。
誰だ、この人?
「そうだけど、あんたは?」
「黒川セリカよ。少し前まで大都市で情報屋をしていたけど、ちょっと興味があってね。あなたの領地改革、その計画を見学したいの」
セリカと名乗る女性は、鋭い切れ長の瞳で俺の顔を見つめる。
全身から滲む知的なオーラと、巨乳が強調されるタイトドレス……なんという色気だ。
ラヴィアが「セリカさん、何か手伝ってくれるの?」とにこやかに声をかけると、彼女はクスッと微笑む。
「ええ、仕事の延長みたいなものよ。あなたたちが成功すれば私も利益がある。どんな形で協力できるか、これから考えさせてちょうだい」
その言葉には、どこかビジネスライクな響きがある。
でも俺としてはありがたい話だ。情報屋だって? こっちも借金返済を急ぎたい以上、知恵と情報は大歓迎だし。
「俺にとっちゃ渡りに船だな。助かるぜ、セリカ!」
まだどんな人か全然分からないが、ひとまず新たな仲間になってくれるなら心強い。
ただ、セリカはポンプをひと通り眺めた後、苦笑混じりに小声でつぶやいた。
「ふふ……借金まみれの領地で、こんな玩具を作ってる余裕なんてあるのかしらね」
一瞬ドキッとしたけど、セリカはあくまで冷静な表情。
俺は苦笑しつつ、「ま、なんとかなるだろ!」といつもの調子で答える。
そうしたら、「またヘマしたの?」と突っ込みを入れる日もそう遠くないかもしれない。
こうして、黒衣の美女・セリカが俺の領地改革へと興味を示し始めた。
井戸ポンプの大成功で盛り上がる村の雰囲気と共に、徐々に俺の言葉に耳を傾ける人が増えつつあるのを感じる。
借金なんか吹き飛ばして、絶対に豊かな生活を掴んでやる――そんな決意がさらに強まったのだった。
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