第7話

そのまま、フレイムスターは林の方へ逃げ込んで行った。スター軍団も後を追い林に足を踏み入れると、木々の隙間から漏れる月明かりが微かに道を照らす。


「ここに隠れよう!」と翔一が叫び、みんなは急いで近くの木の陰に隠れた。


「どうして…こんなことに…」久しぶりの全力疾走で息もからがらの宇宙がボヤいた。

「いい仕事…もらったと思ったのにな…」同じく疲れ果てた大地が返す。


「あれ?…遼さんがいませんね…」颯太が不安そうに周りを見回した。


「まさか、取り残されたのか?」翔一は焦りを隠せない。彼は仲間を探すため、林の奥を見つめた。静まり返った夜の中、テロリストたちの動きが気になる。


「俺が探しに行ってくる!」

いても立ってもいられず、侍姿の翔一は番組から用意された模造刀を手に取り走り出そうとした。


「ちょっと待ってください!!」

普段の数倍大きな声で叫んだ颯太が続けた。「これはもう冒険ごっこじゃありません。警察に連絡する方が先じゃないですか?」


「それもそうや」大地が同意する。「でも、スマホ、スタッフに預けてたからなくて…誰か持ってる?」


「俺も預けてる」と宇宙、「あ、俺もだ」と翔一が続く。「私もです。言い出しといて申し訳ないです。」と颯太も続いた。


「私は、ついでに配信も考えてたから持ってるよ、モバイルバッテリー付きで。」と結局kirara⭐︎がかけることになった。


「でも、どこに電話すればいいの?ここ、謎の外国だよ?」焦りを抑えつつ、kirara⭐︎が早口で尋ねた。


「だよねえ…」宇宙もツッコミに元気がない。


「ちょっと貸してもらえますか?」颯太がkirara⭐︎のスマホを受け取りながら言った。

「ネットで調べることはできるかもしれない。」


kirara⭐︎は心配そうに、颯太に渡したスマホの画面を見つめた。「でも、接続があるかどうか…」


その瞬間、敵の足音を察知したフレイムスターがうなり声を上げ、周囲の緊張感が一層高まる。みんなは思わず身を縮め、再び恐怖が押し寄せてきた。


「どうする…?」翔一は仲間たちを見回し、冷静さを保とうとしたが、焦りが隠せなかった。


「あ、皆さんあそこの岩陰に隠れましょう。あそこなら敵は正面からしか攻めて来れません。」迫る身の危険に戦略家としての本能が目を覚まし、将棋の中村颯太七冠が指揮を取りはじめた。


「敵は七人ですね。1人は銃を持っています。私達の攻め駒は、翔一さんとフレイムスターです。翔一さんは模造刀もいいですが、むしろ最速160キロを超える右腕での投石がより有効だと思われます。」

颯太はこんなに喋れたのかと意外に思える程、

早口で的確に指示を出して行く。


「私は指示役をやりますので、kirara⭐︎さんとトンチキクルーのお二人は、囮になって敵を翔一さんや、フレイムスターが攻撃しやすい場所に誘導することが第一の仕事です。あの木の裏側の10m四方の空間が有効です。いざとなれば敵1人の背後からであれば、トンチキクルーのお二人は勝てるかもしれません。」


そう言うと颯太は見晴らしの良さそうな木に登り、相手の動きを察知しつつ、他のスター達がどこで待ち構えるべきかを手で指示した。


まずはkirara⭐︎にスマホを例の10m四方の空間に置き音楽をかけて、自分はすぐスマホが取り返せる位置に隠れるように指示した。


静寂を破り、kirara⭐︎の歌声がスマホから鳴り響く。敵が寄って来るのを確認し、空間右側の木陰の翔一に投石の準備を指示する。敵は2人で近づいてきて10mの空間のスマホに寄ってきた。そこで翔一は思い切り石を投げた。


「ドカ!!」「ギャワ!」火を吹くような直球が敵1人のあごに命中し倒れ込む。もう1人の敵が興奮して銃を持ち周囲をグルグル見渡す。


「こっちやで!」 「こっちこっち」

岩陰に隠れたままの宇宙と大地が声を上げると、もう1人の敵が岩にめがけて発砲した。

「パーン!キュン!」しかし、銃弾は岩に跳ね返される。


「バタバタ!ドガ!」そのタイミングでフレイムスターが、背後から猛ダッシュし敵に強烈な頭突きをかまし、敵はもんどり打って倒れた。


その瞬間を見逃さず、翔一が猛ダッシュで倒れた敵の銃を奪い取り倒れた2人にフルスイングでとどめを差した。


kirara⭐︎はスマホを取り戻すように指示され、取り返した。


「銃を奪って形勢は逆転しました。ただし、残り5人も何らかの武器を持ってます。気を抜かないように」木の上から翔太の控えめな声が響く。


銃声を聞きつけた敵の仲間の1人が、10m四方の空間に2人の倒れた仲間を発見し、他の3人を呼び寄せる。


5人の集団をバラけさせるために颯太は、10m四方の空間を取り囲むように周りこみ、敵を誘き寄せる指示を出す。


宇宙、大地、kirara⭐︎、kirara⭐︎のスマホ、

翔一がそれぞれ取り囲むように敵を呼ぶ。

敵は逆に気圧されて、身動きが取れない。


それではとばかりに、木の上から指示を出していた颯太が、5人のそばにこっそり持ち歩いていた将棋の駒を投げおとす。敵全員が下を見た刹那、フレイムスターが突進し敵2人を薙ぎ倒した。


ナイフを持った敵が反撃しようとフレイムスターに向けて構えを取るが、すぐにその腕に翔一の投げた石が的中する。ナイフを落として倒れた敵の顔をフレイムスターが蹴散らす。残りの2人は、恐れをなして森から逃げ出した。


「詰みましたね。お疲れ様でした。」颯太は将棋の際のポーカーフェイスのまま、木から降りてきて、仲間達と倒れた敵達に一礼した。

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