第3話
歩くこと数時間、ようやく大都市らしき街にたどり着いた。門の上には「アクラディアへようこそ」と書かれた紋章。どうやらここは錬金術や魔法の研究が盛んな学術国家らしい。
「すごい建物ばっかり……なんていうか、中世っぽいんだけど、街並みに錬金工房とか魔法研究所みたいな看板がズラッとあるね」
「うん。通りを歩く人も、杖や本を持ってる人が多いみたい。魔法とか、当たり前なんだろうなあ」
レイナと一緒に感心しながら、広い大通りを進んでいると、急に路地裏から悲鳴が上がった。
「な、なんだ……?」
二人で駆け寄ると、そこにいたのは淡いピンク色をしたゼリー状の魔物――スライム・アメーバ。路地裏のゴミとかを溶かしているらしく、ちょっと不気味だ。
「まずいよ……あのスライム、酸っぽい液体を飛ばしてる。路地裏の人たちが危ないかも!」
レイナが慌てて火の玉のような魔法を準備するが、集中力が足りないのか、勢いを制御できずに炎が暴走しかける。
「わわっ! やばい、ちょっと熱くなりすぎ……!」
「れ、レイナ! 落ち着いて!」
俺が肩を叩いて注意を促したが、その火の玉はスライムの手前の壁を焼くだけで威力が空回りしてしまう。見かねた俺は、また左手を使ってみることにした。
「分解と再構築……できるか?」
スライムの体に触れそうになるギリギリで、俺は念じるように手を伸ばす。すると、ヌチャヌチャした感触が腕に伝わるが、やっぱりさっきと同じ光がチラッと走った。
スライムの一部が何かの液体に変わり、ダバッと地面へ広がっていく。そして、見る見るうちにそれがサラサラの水へと変化していったから驚きだ。
「え……ちょ、俺、今スライムを水に変えた?」
「うそ……それ、かなりすごいんじゃない? スライムって普通の火や水じゃ倒しきれないって聞いたことあるのに」
周囲にいた人々も「なんだあの魔法?」とざわついている。どうやらこの世界の住人から見ても、俺の力は聞いたことがないタイプらしい。
「わからないけど、助かったわ。ありがとう」
レイナがほっとした笑みを浮かべたところに、路地を巡回していた衛兵がやって来た。
「なんだ、騒ぎはもう終わったのか? やけに派手な炎が見えたが……ん? そこのお前ら、何者だ」
彼らに事情を話し、街の紹介所みたいな場所を教えてもらおうとしたんだけど、どうにも怪しげな目を向けられてしまう。
「学術院に行けば情報が集まると思うんですけど……」
「学術院だと? 身元不明の二人組が簡単に入れる場所じゃない。ここは研究者の国だが、ちゃんとした身分がなければ門前払いだぞ」
そう言われてしまっては仕方がない。仕方なく、レイナと相談して冒険者ギルドで仮登録し、身分証を作るしかないという結論になった。
「なんか手間ばっか増えるけど、仕方ないよな。とりあえずギルドへ行ってみるか」
「うん。魔物の情報とかも手に入ると思うし、一石二鳥じゃない?」
こうして俺たちは路地裏を後にし、人が行き交う大通りを抜けて、冒険者ギルドを目指して歩き始める。
「めんどくさいのは嫌いだけど、やるしかねぇな。へへ、燃えてきたぜ!」
異世界での生活も少しずつ形になりそうだけど、周囲の視線が俺の左手に集中しているのをひしひしと感じる。チートだとか、得体の知れない力だとか……今はまだ未知数だけど、俺にしかできないことがあるなら使う価値はある。
そんなことを考えながら、俺たちは活気に満ちた学術国家アクラディアの街並みを進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。