第4話

 冒険者ギルドは大通りを抜けて少し奥まった場所にあった。外観は古めかしい酒場のようだけど、中には冒険者っぽい装備をした連中がひしめき合い、活気というより少し殺伐とした雰囲気すら漂う。


 戸口を開けた瞬間、「なんだ新入りか?」「おい、こっちに来て座れよ」みたいな声が飛び交うけど、俺もレイナも落ち着かない。


「ここで仮登録って、どうすればいいんだ?」


「受付に聞いてみよう」


 カウンターへ行くと、猫の耳のような飾りをつけた女性職員がにこやかに対応してくれた。まあ、見た目は可愛らしいんだけど、目つきは結構鋭い。


「仮登録希望かしら? ならば軽い実力テストを受けてもらうわよ」


 こうして渡された書類に名前と基本情報を記入し、さっそくギルド内の訓練場で腕試しをすることになった。


 そこへ現れたのが、小柄でボブカットの女性冒険者。淡いピンクの髪がふわっとしていて、やたら身軽そうだ。


「こんにちは! あたしはトリス・ベルフィード。新人さんの実力チェック役をやってるの。よろしくね!」


「お、おう。こっちは俺で、こっちはレイナ。とりあえず冒険者の仮登録をしたいんだけど……」


「実力テストは簡単だよ。郊外の森に出没するブラッドウルフの群れを討伐しようって任務。一緒に行ってあげるから、気楽にやってみて」


 ブラッドウルフ……さっき痛い目を見かけたけど、レイナのヒールと俺のよくわからん魔法があればなんとかなるか? そう思いながら訓練場を後にし、ギルドの外でトリスが用意してくれた小さな馬車に乗り込む。


 道中、トリスは陽気に冒険話を聞かせてくれた。前に行ったダンジョンでレアアイテムを見つけたとか、魔物に襲われた時に仲間と苦労したとか、まさに冒険者らしい武勇伝だ。


「それにしても、君たち、変わった力を使うらしいね。噂はもうギルド中に広がってるよ。特に君……その左手で変な魔法を操れるって、ホント?」


「え、ああ、まだよくわかんないけど……“分解と再構築”みたいなことができるっぽい」


「へええ、面白いじゃん! もし成功したら、あたしもびっくりするようなアイテム作ってほしいなあ」


 トリスはお調子者っぽいけど、嫌な感じはしない。むしろフレンドリーで、初対面の俺たちを受け入れてくれているようだ。


 そうこうしているうちに、郊外の森に着いた。案の定、ブラッドウルフの群れが集まっている気配がする。


「うわ、本当にいるな……。しかも前より数が多い気がする」


 ごくり、と唾を飲み込みながら森へ足を踏み入れる。トリスが先陣を切って走り出し、レイナがヒールの準備を始める。


「俺は……よし、あの木の枝を使って何かできないかな?」


 再構築で物質を変形させられるなら、あたりの木の枝を鎖状にすることだって可能かも……。そう考えつつ木に触れると、やっぱり光が一瞬だけ宿る。


「……変われ!」


 するとどうだ。腕ほどの太さがあった木の枝が、固い蔦のようになって何本も地面から伸び始め、ブラッドウルフの足元を絡め取っていく。


「マジか、やったぜ! これで動きが止まる!」


 すかさずトリスが跳びかかり、手際よく狼たちの弱点を突いていく。さらにレイナが防御魔法を展開し、狼の反撃を和らげてくれた。


 数は多いが、俺たちの連携が上手くハマっているみたいで、着実に殲滅できる。何匹かは逃げていったが、大きなトラブルはなさそうだ。


「やったー! 大成功じゃん。あなたたち、なかなかやるわね!」


 トリスがウインクしながら親指を立てると、俺もレイナもホッと一息。


 ギルドに戻ると、受付では「君たち、思ったより素質あるみたいだね」と少し感心された様子。こうして俺たちは無事に仮登録の資格を得た。


「でもこれからが本番って感じだな。まだ訳もわからないことだらけだけど……」


「うん。でも、冒険者としてやっていけば情報も集まりそうだし、シオンとカルミラって人の手がかりも見つかるかも……」


 そう語り合いながら、ギルドでひとまず落ち着いていると、改めて周囲からの視線を感じる。俺の左手の力に興味津々の連中もいれば、「変なやつ」と距離を置く者もいる。


「ま、いろいろ言われるのは承知の上。オレはオレのやりたいようにやるさ。へへ、燃えてきたぜ!」


 そんな勢いで笑い飛ばすと、レイナも微笑みを返してくれた。こうして俺たちは、異世界での“冒険者ライフ”の最初の一歩を踏み出したわけだ。


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