14話 一石五兆
「では、【リンク・シフト】を試したいと思います」
「ほう?」
なんでも、【リンク】で召喚成功時に出てくる専用スキルらしい。
名称的にはリンクをシフトする……つまり、精霊の属性変更ってことか?
『クルゥ……』
「ラーデヴィさんが悲しそう」
非戦闘時には【リンク】でお呼び出しして、ファンサをもらうことだけは可能なようだ。召喚成功時のスキルは未発現のため、攻撃はできない模様。
「じゃあ、今度は水トカゲパーリィ?」
「ええ。そうなりますわね」
近くの岩の上で日光浴をしている水トカゲ。
ちらっと二人で視線を向ければ、心なしか顔を背けられた気がした。
「ノンアクティブとはいえ、侮ってはいけませんわよ」
「怒らせたら怖いのは人もトカゲも一緒だな」
『静かなる憤怒』の異名をとるヤナを見ながら言えば、なにやら呆れられた目線を向けられた。
「……水ネズミの時みたいに、一度に何匹も釣ってこないでくださいねってことですけれど」
「ハイ」
うっすらとヤナの背後より暗黒が見える気がする。
まさか、こやつも闇よりの使者となったのだろうか……。
仕方ない。ここは大人しく引き下がろう。
そもそも水トカゲの尻尾ペシペシ攻撃を受けるのは、他ならぬ自分なのだから。
「では、一旦【リンク】してみますので」
「おう。タゲ保持は任せろ」
ヒラタンク、いざ出陣。
ぼーっと日光浴をしている水トカゲさんに音符攻撃を一撃お見舞いする。
短めの足を健気に動かし地を這うようにガチギレ水トカゲさんが向かってくると、私はラッコさんに縋る。
「ラッコさん助けて! 【バブル・シェル】!」
『キュ!』
神秘的なヴェールを纏ったラッコさんは、此度も小さなお手々でほっぺをモチモチと揉み始め、ムンッと気合いを入れた。
私を水の膜が覆い、水トカゲの尻尾ペシペシ攻撃も届かない。
「【水のサファイア】!」
「あれ」
いつの間にやらヤナの隣からはラーデヴィさんは消え失せ、代わりに青い宝石が水トカゲ周りに出現。
「最初に別の精霊出してからシフトした方が、一度に二体見れるくね?」
「ほむ」
言われてみれば確かにと納得する。
水トカゲは水属性の攻撃など何のそのといった様子。
ゲーム開始直後で大した属性補正は入っていないはず……とはいえ、水トカゲのHPゲージも【雷のアメジスト】の攻撃ほど削れてはいない気もする。
「もうちょーい」
「ういー」
私はひたすらにラッコさんを頼り、ヤナはひたすらに【
水のサファイアの【
……普段はバブみを感じるミニドラゴンのラーデヴィさん、もしかして実はキレたら怖い説?
「キタでー」
「ういー」
「【リンク】!」
ヤナの【水のサファイア】が六個全て点灯し、いよいよ水の精霊を召喚!
「「……おおー!」」
『シュロロ』『……』
青い宝石たちが光と共に砕け散り、その場に現れたのはお互いの身体を絡ませ合う二匹の蛇。
それも、黒い蛇は赤い瞳を宿し禍々しいオーラを放ち、白い蛇は金の瞳をゆっくりと開いては閉じ、物静かで知的な印象だ。
「アポスラナだって」
「名前?」
「うん」
「二人で一つってことなんかなぁ?」
「別々に名前あるのかねぇ」
ひとまず二人で一つという仕様を尊重し、お二人を「アポスラナさん」とお呼びすることにする私たち。
「なんか……カッケー」
「ラーデヴィさんとはまた随分違いますわね」
チョイ悪系男子っぽさを感じる黒蛇と、クールな白蛇。
バブみを感じるラーデヴィさんとはまた違っていて、面白い。
精霊にも個性があるということだろうか。
「お呼びする時はアポスラナさんだけどさ」
「うん」
「区別する時はシロさんとクロさんにする?」
「そうですわね」
一応本人の同意が必要だろうとお二人の方を向けば、クロさんは愉快そうに細長い舌を出し、シロさんは「好きにしろ」とでも言うように静かに目を伏せた。
「か、カッケーっす……!」
ラーデヴィさんがアイドルならば、このお二方はカリスマ。
守りたいというよりも先に、着いて行きたいという気持ちになる。
「ん?」
「どした」
「専用スキルに……自己回復あるな」
「マ?」
なんて使い勝手がいいんだ!
「MP結構使うから多用は無理っぽい」
「ほうほう」
すっかり存在を忘れられた水トカゲ。
私を健気にペシペシと叩くも、ラッコさんバリアにより阻まれ己の存在を私たちに認めさせることができないでいる。
「とりあえず、攻撃っと」
ヤナが専用スキルで水の攻撃を放つ。
と、クロさんがはりきって大口を開け、水の魔弾で水トカゲさんを蹴散らした。
つええ。
シロさんは終始冷静に水トカゲを見据えるのみとなった。
「シロさんは回復担当?」
「もしくはクロさんが張り切り過ぎて出る幕ない的な」
【ジェムリンカー】の精霊も、奥が深そうである。
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