13話 神官長補佐とのデート権


「──しゃああああああ!!!!」

「無事10体ですわね」


 ギリギリレベラップには至らなかったものの、当初の目的──オルドフォンスさんのお使いをこなして好感度アップ大作戦。

 その前哨戦を終えることができた。


 感無量だ。


 待ち受けるオルドフォンスさんとの濃密な時間を思うと、鼓動が高鳴る。

 早く会いたいという気持ちと、どこか気恥ずかしく足取りが重くなる気持ち。

 この気持ちはそう……、まるで『恋』。


「そういえば素で歩いていますけれど、ワープ地点の解放などは無いのでしょうかね」

《……》

「ありそー」


 恐らくチュートリアルで本来やるのだろう。

 いいんだ。流れで解放できれば。

 徒歩移動でも景色綺麗で飽きないし。


「待っていてくれ、……オルドフォンスさん」

「ちょっと騎士っぽいですわ」


 仕える主の元へと舞い戻る騎士の如く。

 青いスーツの裾をひるがえし、至上のお言葉「よくやった」を賜るために、いざ──!



 ◇◆◇



「! ああ、君たちか」

「(てええええええええ!!!!)」


 以前オルドフォンスさんにお話を伺った場所に舞い戻ると、何やら仕事仲間らしき神官や神殿騎士と話し合っていた模様。


 彼らと入れ違いとなるように私とヤナがやってくると、オルドフォンスさんはそのクールなフェイスを僅かに綻ばせて迎えてくれた。ありがとう、ブラエ・ヴェルト。


「ご、ごほん。あ、あー。水ネズミ、無事10体討伐して参りました」

「(騎士っぽいですわ)」

「ありがとう。君たちならやってくれると思っていた」


 当初、冒険者であることも意外に思われたほどだというのに。

 ここまで信頼を得ているとは……さすがはイケメンエルフ騎士。

 己の才能が怖い。


「神殿騎士にも話は聞いている。何でも、君たちは神殿への侵入を企てていた者を未然に捕えたとか」

「「え?」」


 急な展開に思わずイケハン全一のマスターブレインさえも反応が遅れた。


「君たちは優秀な冒険者だな、礼を言う」

「え、あ……あの……」

「またその内依頼をお願いするかもしれない。改めて……私はオルドフォンス。ラナ教の神官長を補佐する立場にある。また会おう」

「!!」

「まぁ、行ってしまわれましたわ」


 クールな美貌に花が咲いた。

 別れ際には確かな好感度上昇の手応えを感じる。

 そしてなにより──


「今のってさ」

「はい」

「完全にデートのお誘いだよな?」

「はい?」


 


 この何気ない言葉が、ここまで甘美なものに聞こえるとは。

 次の約束をするということは、生きる希望を与えてくれるというもの。


 その時の再会に向けて今を生き、その時のことを想い困難に立ち向かう。


 未来の楽しみというのはこんなにも希望に溢れている。

 それがオルドフォンスさんという美貌と権威をお持ちのイケメンNPCならなおのこと。


「それにしても、なにやら身に覚えがないことをおっしゃっていましたわね」

「それはそう」


 今のところイケメン騎士が出動したのはオルドフォンスさんが初めてだと思うが……。


「まぁ、お姉さまにとってはいいことですわね。また依頼を受ける分岐が出来たのなら」

「それな」

「きっとお姉さまの尊さMAXの奇声が、不審人物を追い払ったのでしょう」

「おいおいおい、聞き捨てならねぇな」

「割と現実的なことを申しましたのに……」


 まぁ、悪い話じゃない。

 オルドフォンスさんとのデート権。

 さらには土地の名を冠する『ラナ教』とやらの中枢の人物との交流ってのは、メインストーリー的なルートに違いない。

 とりあえず、変なヤツらと戦うことになってはLv3のままだと困る。

 オルドフォンスさんをお守りするどころか、醜態を晒す可能性が大だ。


「さて、魔女よ」

「はい」

「さきほど言ったな? 試したいことがあると」

「言いました」

「それを兼ねて、レベリングレベル上げといこうか」

「装備品の見直し等はいいんですの?」


 そう問われてステータス画面より手持ちのお金を確認する。

 1500エル。

 初期の手持ちが1000エル、オルドフォンスさんの元へ舞い戻った時のログが300

エルだったので、魔物を倒すだけでは良い金策とは言えない。


「これ素材とかも売って稼ぐんかなぁ」

「そうですわねぇ」

「じゃあ、ヤナの試したいことやったら荷物も整理するかぁ」

「なぜそんなに仕方なさそうなんでしょう……」

「そりゃーイケメンに何一つ関係ないからだろう」

「でも装備が充実しますと、見た目にもいいですわよ」

「……たしかにぃ?」


 まぁ気乗りはしないが……、しかしハイパー・頼れる・エルフ騎士になるためには必要な行為。

 やむを得ん、と言ったところ。


「では」

「ゆくぞ」


 今度は南門。

 私とヤナは、水トカゲが居た方面へと歩を進めた。


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