12話 水もしたたるプロ騎士


「現実は時に残酷だ……」

「まぁまぁ、いいじゃありませんか」


 八体目の水ネズミパーリィを経て、気付いたことがある。

 私は、ラーデヴィさんではなく柳丸を守っていたのだと。


「こんな美貌の夜人ナイトウォーカーを守れるなんて、騎士冥利につきませんこと?」

「騎士の純然たる心は美醜に左右されやしない」

「どの口が……」

『クル……』


 ラーデヴィさんが、心なしか気まずそうだ。

 せっかくのプロ騎士(※ヒーラーの姿)が護衛についたというのに、実態はヤナを守る羽目になったのだから……。

 すまない、ラーデヴィさん。

 私がもっと早くこの事実に気付いていれば──


「ところで……」

「ん?」『クル?』


 先ほど、私ことイケメンエルフは、水ネズミの最後の抵抗により水魔法を浴びてしまった。

 冷たい水が肌を伝うリアルな感覚と、不思議と時間経過により乾いていく衣服にVRMMOのリアルさとゲームらしさを感じたものの。

 それよりなにより、大変な事実がある。



 水も滴るなんとやら──



 今まさに、絶世のイケメンエルフがその状況下に置かれている。


 装備などの見た目を確認するプレビュー画面──鏡のような機能で、慌てて自分の姿を確認する。

 予想通り額や頬に張り付いた蒼銀の髪が、普段とは異なる色香を放っていた。

 ところどころ水気を吸って肌に密着した指揮者の青いスーツが、体の輪郭を浮かび上がらせる。


 素晴らしい。素晴らしいぞ。

 ありがとう、ブラエ・ヴェルト。

 これはもう……アレだ。


「ハァ……辛い。俺のキャラがいっちゃんえどい」


 驚き。歓喜。尊さ。喜び。

 あらゆる感情が胸の内を渦巻き、最終的に口よりもたらされる言葉数は少なくなる。

 尊さパラメーターが振り切れた限界オタクの宿命だ。


「わたくしのキャラが一番エロい」

「……すぞ?」

「まぁ、お姉さまと同じことを言っただけですのに……」


 あろうことかヤナは張り合ってきた。


「スーパー・セクシー・エルフ騎士と張り合おうとは……。お主、自尊心が振り切れているな」

「マイキャラが可愛いのはどこのご家庭も同じですわ」

「……ふむ」


 ヤナの言うことも尤もだ。

 私にしては珍しく反論の余地を失った。


「そういえばお姉さま」

「なんだ、魔女よ」

「試したいことがあるのですが」


 そう言うとヤナはラーデヴィさんの顎の下をひと撫でした。

 クルクルと声を鳴らしながら喜ぶラーデヴィさん。

 こやつ……羨ましすぎる……ッ!


「試したいこと?」

「はい。やっぱり情報は大事ですから」


 対戦ゲームを特に好むヤナ。

 キャラ相性、地形、技、スキルなど。

 とにかく、対戦において相手より優位に立つ前提として、情報を持っているか否かが挙げられる。


 そこにヤナ自身の性格も合わさり、基本的にヤナは最初に提示されている『情報』というものを一通り把握する。それがゲームにおける最初にやることのようだ。

 私とまったりプレイするからと今回はチュートリアルも飛ばしたが、普段はしっかりと聞くタイプ。


「水ネズミパーリィで先手を取りたいお気持ちは重々承知しておりますので、オルドフォンスさんの依頼が終わりましたら、他の宝石を使いたいのですが……」

「なるほどな」

『クルル』


 【雷のアメジスト】の【リンク】により召喚されたラーデヴィさん。

 他の宝石だと、恐らくだが別の精霊をお呼び出しできる……というわけか。


「……ジェムリンカー、めっちゃいいやん」

「ですわよね」


 ゲーム序盤から色んな召喚獣と交流できるってわけ。


「バブルミスティックにも、ラッコさんとイルカさん以外いるのかな」

「きっといるに違いありませんわ。攻撃専門のお方ですとか」

「たしかにぃ!」


 それもそうだ。

 まだまだLv3のひよっこ。

 お楽しみはこれからってもんよ!


「では、残り2体」

「張り切ってご招待しようぞ」


 とにもかくにも、オルドフォンスさんの好感度アップも目前に迫る。

 はやる気持ちを抑えつつ水ネズミを血眼になって探す。


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