11話 完全究極アイドル専属タンク


「魔女よ、作戦Bだ!」

「初耳ですわ!」


 歩くオルドフォンスさんの好感度を探し求め、ニト・ラナ周辺フィールドを彷徨う私たち。

 時折すれ違うプレイヤーが、私とオルドフォンスさんの仲を引き裂く闇よりの使者に見えてくる。


「コイツを聖祭へとご招待すれば──レベラップってわけ!」

「作戦Bの詳細求む!」


 七体目の水ネズミを(ラーデヴィさんが)難なく葬り、その時がやってきた。


「いえーい」

「レベラー再び」


 Lv3となったものの、軽微なステータス変動のみで新たなスキルは覚えなかったようだ。無念也。


「他に海のお仲間精霊いるのかな」

「どうでしょう。イルカさんのようにニト・ラナで見掛けたらいいですわね」


 言ってて気づいた。

 ニト・ラナの水路の水は海水なのか……?

 いや。物理があれでファンタジーな世界なんだ。

 その辺りも「いや、精霊なんで」理論でうまい事やっているだろう。


「はぁ。己の才能が怖い……」

「会話が成り立ちませんわね……」

「お」


 近くで音がするので振り返ってみると、闇よりの使者が我々と同じく水ネズミを屠っていた。さすがは闇に属する者。鮮やかな手際だ。


「あれって……」

「剣士と……?」


 一人は剣で攻撃をしているので恐らく【剣士】クラス。

 そしてもう一人、攻撃の手よりも味方への援護魔法と思われる挙動が多い……ということは。


「もしや、……【紋章師】!」


 なんてことだ。

 もう一つの初期ヒーラークラスである【紋章師】、そのお方ではないか!


「なんだかオシャレなクラスですわね」


 ヤナの言うことにも納得だ。

 服装は軍服のニュアンスも入った魔法使いのローブといったところ。


スキルは、うちでいうラッコさんに相当するであろう守りのスキルで紋章の入った盾のエフェクト。回復だか強化バフだかのスキルでは、対象の仲間一人の背後に応援団の旗のようなものが地面へと刺さり、周辺一帯が影響下にあるのか紋章の入った円形のフィールドが展開された。


 武器は身の丈ほどの棍棒。……棍棒?

 そんなバカなと思いつつ眼を凝らすと、ふつうの棒ではなくゴージャスな棒。

 美しい神殿の白い支柱のように高級そうな棒。先端には金の金具。

 応援団よろしくマーチングバンドにしてはやや長い。

 ……やはり棍棒。


 意外と物理クラスなのかと思いきや、次の挙動を見て納得した。


 紋章師が、ゴージャスな棍棒の先端を地面にコンと打ち立てるように振り下ろすと、上の先端に旗が召喚された!

 先ほどお仲間に着いていた旗とはまた紋章が異なり、恐らく別のスキルと思われる。

 召喚系のスキルにもいろいろあるってワケ。


 しかし、やはり通常攻撃は棍棒として使うんだろうか。

 そこだけが気になるが、前衛の剣士さんが居るために見ることが叶わない。


【バブルミスティック】がスーパー・かわいい・歌劇団なら、【紋章師】はハイパー・ゴージャス・応援団である。

 素晴らしい。

 これぞジャンルの被らない棲み分けというやつか。

 ……ん? 微妙に同ジャンルか?


「あれってフィールドサイン的なモチーフなんかな」

「なるほど、同担拒否ってわけね」

「会話が成立しませんわ……」

「!? つまり……」


 この状況は──オルドフォンスさん、争奪戦……ってコト!?


「マズイぞ柳丸!! イケハン全一として出遅れるわけにはいかない!」

「ママ、落ち着いてくださいな」


 とんだ伏兵がいたもんだなぁ!?


「早急に場を立て直さねばなるまい」

「立て直す場もありませんけれど」


 今の状況下において、最も重要なことは──ラーデヴィさんの火力だ。


 水ネズミ聖祭パーリィ、略してパーリィパーリィの効率を上げるために必要不可欠。

 オシャレな紋章師さんがオルドフォンスさんの御心を掴む前に、何としても──ッ!!


「柳丸よ」

「ははっ」

「お主がレベル2で獲得したスキルは何であったか?」

「イエス、ママ! 【セミ・リンク】であります!」

「ほう」


 なんでも、【跳躍バウンド】では+1貯まる、宝石のスタック蓄積

 これが+2になるのが【セミ・リンク】らしい。

 なるほどなるほど。


「ラーデヴィさんを早く召喚できるだけでなく、宝石の設置攻撃も火力が早めに上がると」

「イエス、ママ!」


 積み上げ型のアタッカーにとって、悪い話ではない。

 ということは……。


「俺が強化バフ系の魔法覚えたらなぁ」

「ありそうですわよね。お歌で火力アップ的な」

「!? それもう完全究極アイドルやん」

「たしかに?」


 やはりヤナのラーデヴィさんと、うちのラッコさんとイルカさんはズッ友にしてエターナル。

 皆さんでユニットを組んでいただくしかない。


「いろいろ助かる」

「ママにも攻撃魔法があるんでしょうかね?」

「ふむ……」


 それが一番早い話だが、今のところは見当たらない。

 装備を整えれば通常攻撃もバカにできない攻撃力を持つんだろうか。


「無い物ねだりをしても仕方がない……。なにせ、優れたイケハンは道具を選ばないからな」

「敵を倒しているのはうちの子ですけれど……」


 ラッコさんパワーをお借りして疑似盾をやるのにもかなり慣れてきた。

 私が持つ唯一にして絶対の力は、ファンサのよろしいラーデヴィさんに群がるモブ(水ネズミ)から、その尊い身をお守りすること──!


「よし。やるしか、無いんだ」

「それはそうですわね」


 近くて遠い。

 そんな答えを導き出し、再び八体目の水ネズミこと歩く好感度を探しに向かう。


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