15話 イケハン全一のマスタープラン
「では、さっそく」
ヤナが当初の目的、【リンク・シフト】を発動させる。
敵は殲滅したのでとりあえず攻撃を見ることはできないが、一旦どんな精霊かを確認することに。
「【リンク・シフト】!」
ヤナが唱えると、ヤナの指の間にはそれぞれ色の違う宝石が。
【水のサファイア】の次に呼び出す精霊を、この宝石を使って指定するようだ。
「ほい」
ヤナがその内の一つ、オレンジ系の宝石をぽいっと投げる。
それがアポスラナさんに反応すると、二匹の蛇は光の中に消え、代わりにこれまたラブリーな精霊がやってきた。
「きゃわーーーー!?!?」
「おお……うさぎさんか」
『みゅ?』
なぜか王冠を被ったうさぎさんが小首を傾げていらっしゃる。
体毛は先ほどヤナが投げた宝石と似ている。
しかし耳は現実では見かけたこともないほどながーい垂れ耳で、尻尾もながーい。
瞳は透き通った緑色、首回りや手足のモコモコとした毛も愛らしいのだが……何より背中! 羽が生えていらっしゃる!! これぞ天使!!
「王様にして天使とは……お仕えしたくなるな」
「【地のトパーズ】らしいけど、……お?」
『みゅ~』
「「!?」」
王様にして天使。
今のところ出会ってきたゲーム内キャラにおいて、一番権威をお持ちでいそうなビジュアルのうさぎさん。
だが、驚くべきことにヤナが召喚した精霊の中で最も人懐っこい!!
召喚したヤナを視界に捉えると、まるで親鳥を見付けた小鳥のようにすぃ~っとヤナへ吸い寄せられ、首元にマフラーであるかのように巻き付いた。
かわいいが過ぎるぞ!!
『みゅっみゅっ!』
「ず、ずるい……!!」
「ジェムリンカー、役得過ぎますわ」
ヤナも満更でも無さそうにうさぎさんを撫でる。
ぐぬぬ……羨ましすぎる。
「ミューレさんだって」
「きゃわ~」
王様天使でベタ甘なミューレさん。
推せる。ありがとう、ブラエ・ヴェルト。
「……ハッ!」
「また変なことお考えじゃありませんよね」
王様天使でベタ甘なミューレさん。
チョイ悪系とクール系で妙にバランスの取れたアポスラナさん。
バブみを感じるのにその力は荒々しい気配がするラーデヴィさん。
無論、ビジュアルも文句の付け所が無い精霊さんたち。
これはもう、あれだ……!
「擬人化待ったなし」
「言うと思いました」
こんな個性豊かでしかも強い彼らが、もしイケメンNPCに変身したら……?
そんなの、ブラエ・ヴェルト運営への信仰値が振り切れて、感激の涙を流すことだろう。
「そもそも精霊さんですから。性別あるかも分かりませんわよ」
「そこはシークレットにしとこう。妄想が捗るからな」
「はいはい」
「っつーワケで、擬人化スキルよろ」
「ありますかねぇ……。無ければ要望を送ったらいかがでしょう」
「要望……アンケか」
ゲームをプレイする者なら、一度は目にするであろう『プレイアンケート』。
ゲーム内通知、あるいはSNS。あるいはメディアを介して集められるプレイヤーの声は、運営側でどのように活用されているのかは分からない。
だが、少なくともコミュニケーション全般において、相互理解というものは歩み寄りの姿勢だ。
であれば、実装されるかはともかく、プレイアンケートに普段自分が思っていることや、こんな仕様があったら嬉しい等を伝えるのもコミュニケーション手段の一つ。
仮に要望が通らなかった時に理不尽に怒りをぶつけるのは絶対に間違いだが、ただ考えを伝えるだけなら誰の迷惑にもならず、運営もプレイヤーの考えを収集することができwinwinというわけだ。
「アンケといえば……」
「なんでしょう」
「ヤナは普段どういうこと書いてるんだ?」
「わたくしですか? そうですわねぇ……。対戦ゲームをプレイすることが多いですから、環境の調整案の一意見ですとか、バグを見付けた時の報告でしょうか。そして最後の締めに楽しくプレイさせてもらっていることへのお礼を少々」
「おお~。なんと理想的な」
「そういうお姉さまは?」
「誤字報告」
「どゆこと」
『みゅぅ~?』
首に巻き付いておられるミューレさんとヤナが、互いに顔を見合わせて小首を傾げる。
仕方がない。
このイケハン全一の
「時に柳丸よ」
「なんでしょう」
「ゲーム内のテキスト収集要素、拾った時に読む?」
「そうですわね、割とすぐ読みますわ」
「俺は後でじっくり読もうと思って、気付いたら沢山溜まって追いきれないタイプ」
「まぁ……」
『みゅーん……』
ヤナとミューレさんから、ジト目を頂戴する。
ゲーム内におけるテキスト収集要素……。
過去の事件に関する資料やNPCの手記、何らかの研究レポートなど、様々なゲームにおいて物語の奥行きを広げてくれる要素だ。
自分が体験していないストーリーの裏側等を知ることができ、そのゲームのファンなら全てのテキストを収集したいと願うだろう。
だが、悲しいかな。
イケメンNPCに関する物ならば驚くほど即座にその物語を読み解くことができるのだが、まったく関係のない物になると途端に頭に入らなくなり、奴が襲ってくる。
そう、──睡魔だ。
だからこそ私はイケメンNPC以外のテキストに関しては溜めまくり、そして結果読んでいないということも多く発生する。
それはいいのだ。個人の楽しみ方の違いなのだから。
問題はここからである。
「だがな」
「なんでしょう」
「『期間限定イベント』、このテキストだけは一言一句見逃しはしない」
「どゆこと再び」
『みゅ~』
互いに顔を見合わせて、「ねー」とでも言いそうなヤナとミューレさん。
そこを代われ柳丸。
「期間限定ってことはさ」
「はい」
「もうその時に命懸けるワケじゃん」
「命までは懸けないですね」
「ってことはさ、テキストに誤字があったら普段以上にちょっとショック受けるじゃん」
「わたくしは特に……」
「バッカ。そういう時はなぁヤナよ。逆にじっくり隅々までチェックして、誤植見付けるのがおもしれぇんだよ」
「イヤな遊びですこと」
『みゅ』
「いーや、ちがうね。これは愛だ。……俺たちプレイヤーからのな」
私は思わず天を仰いだ。
──聞いているか。
地球を創った神を愛した女神、通称名前長い女神よ。
「……誤植を見付けたらな、メモしておいてアンケートが来た時にこっそり運営に教えるのさ。その上で面白かったと。誤字如きで、貴方がたの創造物を覆せはしないのだと。その一言を添えてな」
「はぁ」
「イケメンはな。プロ妄想家の中からも生まれるが……その大半は、他人の創造から生まれるのさ」
「そうですか……」
そう、全てはリスペクトで巡っているのだ。
「誤字はすぐパッチがきて修正されるかもしれない。されないかもしれない。……だが、伝えることがなにより大切なのだ。そうしてゲーマーとしての善行を心の中でそっと積み上げる」
あの青い空の上で、名前長い女神だけでなく……。
最初に選んだ、顔が良いらしい闇の神エレヴォスも見ていてくれるだろうか?
「イケメン闇黒神よ……、どうか俺の善行を見守っていてくれ……」
「善行ならもっと他にあるだろ」
『んみゅ』
「あわよくばそのお顔を見せてくれ……」
そもそも何の話だったかを忘れかけていたが、ちょっぴり呆れ顔のミューレさんを見て思い出した。そうだ、擬人化だ!
「これからもイケメンハントで善行を重ねる所存!」
「蛮行にならないといいのですけど……」
次にプレイアンケートが運営から届いたら、召喚獣の擬人化要望待ったなし。
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