9話 ネズミ・レクイエム
「イエーイ」
「レベラー」
二匹目の水ネズミを倒したところでレベルアップ!
そのまま三匹目も倒して、改めてステータス確認。
「お?」
「お」
「……イルカさん!?!?」
「おおー」
ログを横目になんらかのスキルをゲットしたのは分かっていたが、メニューからスキルアイコンを確認すると──そこにはイルカさんのお姿が!!
「キター」
「ラッコにイルカ……ママのコンセプトって、指揮者兼トレーナー的な感じ?」
「かもねー」
ちなみにMPを使わない通常攻撃は魔法攻撃。
指揮棒を手に持つと、音符を
通常攻撃は無属性ぽいけど、もしこれから攻撃系のスキルを覚えるなら水属性が多そうだ。
「ではさっそく……」
戦闘中でもないのにイルカさんをお呼び出ししてもいいものだろうか。
一瞬ご機嫌を損ねないか不安がよぎったものの、好奇心の方が爆勝ちしてしまった。
咳払いをして祝詞を捧げるがごとく、スキルを読み上げる。
「【バブル・リング】!」
発動。ほんのり減ったMPを合図に、待望のお姿が現れた!
『……?』
「きゃわー!」
「寝起き?」
どこか「え? どゆこと?」といった様子でボーっとしている、蝶ネクタイと尻尾のアクセサリーが可愛いイルカさん。
未だフィールドに残っていたラッコ先輩が、『キュ!』と挨拶を交わしていた。
頼もしい限り。
「可愛すぎてムリ~」
「あ、あれか。敵もいなければ回復も不要だから、何で呼ばれたんだ? ってなってるのか」
『ピッ』
「かんわ~」
お口を開けて応えるものの、イルカさんは頭の上にある窪みのあたりを震わせて鳴き声を出す。
見た目ももちろん、人間とは違う部分がたくさんあって動物の生態を知るのは面白い。
……いやこの方々は恐らく精霊扱いなんだろうけど。
「……?」
おもむろに、ラッコさんがイルカさんの鳴き声に合わせてくるりと横回転をする。
「これは──」
「また変なことお考えじゃありませんよね?」
先ほどヤナは言った──
指揮者兼トレーナー。
それがこの【バブルミスティック】というクラスのコンセプトではないかと。
水と精霊さんたちを、指揮者やトレーナーさんたちのように操るぞ♪──これが、恐らく公式の解だ。
そして指揮者という点を考えれば音楽……いや、『お歌』。
これで技を繰り出せるのではないだろうか!?
「お歌を唄ってくれるかな~?」
『……きゅぅ?』『……ピィ?』
はい困り顔かわいい。
彼らの説明を求めるような声なき声に耳を傾けることなく、私は腰元のホルダーから頼りない指揮棒を構えた。
技名を付けるとすれば──【アクア・レクイエム】だ!!
「さんっ、はい!!」
私は羞恥心、理屈。仕様に困惑。
一切を振り返らず、渾身の力を込めて。
ただ心の赴くまま、この想いを旋律に乗せるために腕を振った。
奏でよ。
その愛らしさからもたらされる────破壊の衝動を!!
『…………、キュッキュ~~♪』
『…………、ピッピッピー♪』
尻尾をフリフリ、体をうねうね。
私を哀れんだのか、意図を汲んでくださったのか。
お二人は、自らが奏でるお歌に乗せて、その愛らしい体を魂ごと揺さぶるかのように懸命に振った。
「きゃわーーーー!?」
「ここだけ癒しの空間ですわね」
これぞ、眼福。
イケメンハントにおいて、そう呼べるのは美形NPCを前にした時だと思われがちだ。
だが、彼らを前にした時は正直なところ正常ではいられない。
ゆえにコンサートを観るかのように、その愛らしさを存分に堪能するこの機会こそ、まさに『眼福』と称せるのだ。
ありがとう、ブラエ・ヴェルト。
お二人は一度始めると機嫌を良くしたのか、僅かな哀れみや仕方なさも一切なく、ただただその旋律と体を動かすという生物の本能を楽しんでいた。
「……はぁ、かわ……ん!?」
「あら」
そこへ、明らかに場に似つかわしくない者が現れた。
新手の水ネズミだ。
お二人の奏でる衝動に同調してやってきたのかと思いきや、ヤツは一体ながら尊大な態度でこちらを見ている。
そしてあろうことか、スーパー・かわいい・コンサート中のお二人を見て──笑った。
「……」
群れずに来たのは褒めてやろう。だがな……。
人の懸命な姿を鼻で笑う。
それはイケメンハンターである前に、一人の人間として怒りが沸いてくる行為だ!
「はい煮えた。あいつ処す」
「ヒーラーで?」
「なればこそ!」
人を癒し、人を生かすクラス。
そんな
いや……むしろ、生死に関わるクラスとして、これは制裁にして聖祭だ。
レッツクッキング!
レッツパーリィ!!
「今夜はネズミ鍋だな」
「全然惹かれませんわね……」
「こちとらイケハン全一だぞ。……ケンカを売ったこと、後悔するといい」
「競技人口一名でしょうか」
水ネズミよ。
その不遜にしてふてぶてしい態度ができるのも今だけだ。
イケハン全一の前にひれ伏し……そして、せいぜい次の生を願うんだな。
魂よ、廻れ。次の生で会った時には──
「イケメンNPCであれ……」
「ネズミ界の?」
「というわけで、──ゆけ! 柳丸! ラーデヴィ・エレメンタル・パワーだ!」
「はいはい……」
さぁ、絶望の始まりだ。
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