8話 スピニング・ハイドロランス


「おらぁ! 釣るどー!」

「は、おま、ちょ待て」

「気合いいれんかい!」


 水ネズミ討伐依頼。

 合計10体の討伐らしい。

 ソロでも対処できるよう、一対一は大したことのないLv1の水ネズミ。


 だが、パーティを組んだ我らの敵ではない。


 ニト・ラナに初めて訪れた時とは反対側の出入り口から北に出て、しばらく歩くと該当エリアとなった。


 湖面にぶっ刺さった杖っぽい神器、グオ=ラ・クリマの周辺ってのはほぼ街の周辺と同義っぽい。

 ひいてはオルドフォンスさんは街の有力者……ってコト!?


 彼に気に入られれば彼とのご縁ができるどころか、さらなるイケメンを紹介いただけるに違いない。

 討伐依頼にも気合いが入るというものだ。


「というわけだ、魔女よ」

「なにが“というわけ”じゃぼけぇい」


 猫くらいの、ちょっとデカめなネズミっぽい魔物三体がペシペシと私に殴りかかる。

 それをラッコさんバリアで疑似盾しながらいなしつつ、ヤナに倒してもらう。


 ……が、さすがに三体を相手にするとタゲがヤナに飛ぶこともしばしば。


 【雷のアメジスト】で雷属性の攻撃を地道に積み上げるヤナだが、今のところ全体攻撃技は持っていない様子。


「ジェムリンカー、単体火力け?」

「むしろ序盤はみんなそうだろ」


 あーだこーだ言いつつ、なんとか一体撃破!

 経験値ゲージも水トカゲと同じくらい入る。もう少しでレベルアップの模様。


「レベラップしたらさ」

「おー?」

「ラッコさん進化するかな?」

「さすがに?」

『?』

《……》


 もはや【バブル・シェル】を湯水のごとく使っている私。ヴェールを被った神秘的なラッコさんも一々ご帰還なさるのが面倒なのか、今回はフィールドにずっといらっしゃる。


 相変わらずちんまりお手々でほっぺをモチモチして、ムンッと気合いを入れる姿は大変可愛らしい。


「……!」

『んきゅ?』


 ラッコさんの待機モーションである空中横回転は、中々にハイスピード。

 リキャストの待ち時間にぐるんぐるんと回る姿は、何かを示唆しているかのようだ。

 そう、まるで遠心力を利用した攻撃、その助走。


 どこかで見たかと思えば、あれだ。


 電動ドリル。あるいは、先の尖った棒状の何かに回転を加えることで力を伝えるもの。


 ラッコさんの尻尾、足元を鉛筆の芯のごとく尖らせるかのような動き……。

 どう考えても攻撃力を増幅させる動きに違いない。


 なんたってこのゲームの売りは自由……そうだろう?


「もしかして──」

「お姉さま。また変なことお考えじゃありませんよね?」

「ゆけぇ、ラッコさん!! 【スピニング・ハイドロランス】だ!!」

『キュキューーーー!?』


 横でふわふわと浮いていたラッコさんが、驚きのあまり飛び上がる。

 その表情はほっぺをモチモチしていたことなど記憶の彼方かのように驚愕に震え、さらには「え? 頭大丈夫そ?」みたいな顔つきで私を見てくる。


 哀れみだ。


 このラッコさんから感じられるのは、驚きだけではない。

 私に対する「大丈夫そ?」な哀れみをも感じる。


 大丈夫だラッコさん。私はいつだって正常さ。


「ラッコさんはいかねぇよ」

「無念也」

「てかここの国の神器が杖っぽいし、どちらかといえば槍より杖じゃね?」

「たし=カニ」


 しかし……ならば、自由とは?


 やはり我々はシステムという『枠』に縛られた異邦人であり、地球を創った神を愛した女神……なげぇな。その女神とやらの掌の上。


 やはりここでもについて考えてしまう。

 もしや、これこそが運営の思惑なんだろうか?


「深いな……」

「何をお考えか知りませんが、たぶん違うと思いますわよ」


 運営がプレイヤーに『自由』について考えてもらいたいと思っているのなら……。

 二次元における逆ハーレム。

 それを目指すのもまた、自由でありプレイヤーの権利。


 そうだろう?


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