6話 イケハンの感知能力


「《見習い》とか《初級》とか、なんでランク層に別で名前ついてんのかね」

「大型コンテンツの参加条件で『ランク1から9のプレイヤー』って言うよりも、『見習いランクのプレイヤー』って言う方が分かりやすいからじゃありませんの?」

「なるほろり」


 見出しを整えて探し物を容易にする、ラベリングってやつだな。

 知らんけど。


「で、これからどうしますのお姉さま」

《……》

「そりゃーアレだよ」

「アレ?」

「イケメンNPCからの依頼を受けよう!」

「ですよね」


 インフォ画面には次なる目標、《見習いランクの依頼を受けてみよう!》とのガイドがある。

 別にガイドに従わなくてもなんら問題ないが、従っておいても損はない。

 自由。それがこのゲームの売り。

 とはいえ、冒険者ランクを上げておくに越したことはない。

 むしろ上げないと『自由』の幅は狭まる。



 ──では、自由とはいったい何なのだろう。



 選択権は自分たちにあると錯覚し、上手く誘導させられていることに気付かないこと?

 それとも、全てのプレイヤーの逆を行って「あらあら、普通ってつまらないんじゃありません?」なんて嫌味を言うこと?


 ……いや、違うね。

 少なくともゲームにおいては決められた枠組みだろうがなんだろうが、自分なりの楽しみ方を見付けること。きっとそうさ。


 答えの出ない問いを考えてしまいそうになる頭を振り払い、イケメンNPC捜索に思考を切り替えた。


 依頼ボードの前にやってくると、ボード自体にも依頼票が張ってある。が、別で依頼用の画面が開いた。こっちは文字の一覧で情報を確認できる。便利。


 その画面に目を閉じながら手をかざす。


「──イケメンNPCの嘆きが聞こえる……」

「それはもはや病気ですわ、お姉さま」


 助けを求めるイケメンの嘆きエネルギーを感じ取ろうと思ったが、反応はない。まだまだ修行が足りなかったようだ。無念。


「どうやってイケメンからの依頼かどうか判断しますの?」

「名前性別種族、そして──現地に見に行く」

「めちゃくちゃ古典的ですわね……」


 一覧からは【依頼名】【概要】【依頼者】の情報が読み取れる。

 もちろんVRMMO内においても個人情報は大切のようで、依頼者の欄は簡単な情報しかないものの、依頼を選択した時にマップに依頼者の位置がガイドされる。


 このシステムを駆使して現地に確認に行くのだ。


 ちなみに【依頼者】が冒険者ギルドのような公的機関、団体名の場合は、素材採取依頼や討伐依頼が多く、特に受注時に依頼者の元に行く必要はない。

 ふつうにギルドに持ってきて納品すればOK。


「別に最初の依頼はなんでもいいんじゃありません? 次からイケメンNPCを探せばいいのではないでしょうか」


 まずは冒険者としての身分を確立させてから、捜索範囲も広まったところで改めて自由に探索する……と。

 非常に合理的なヤナのプレイスタイルからもたらされる提案には、思わず手放しで頷いてしまうこと間違いなしだろう。だが──


 イケメンハンターにも、矜持がある。


「イケメンに恩を売っておくとどうなると思う?」

「さあ?」

「イケメンがイケメンをよび、後々逆ハーレムとなるのだ」

「初耳ですわ……」


 男キャラを選んでいる以上、逆ハーレムと呼んでいいのかは不明だが、概念的には間違っていないだろう。

 つまり、ヤナの得意とする確率計算。

 それを元に考えれば、最初から最後まで一貫してイケメンNPCと接する機会を設ければ、それだけ逆ハーレムに近づく可能性が高まるということだ。


「つーわけで、まずは水霊族のイケメン探すぞ」

「はいはい」


 何だかんだ言いながらも付き合ってくれるヤナ。

 私に多少の弱みを握られているというのもあるが、それにしてもやりおる。

 いくつかの依頼から、『水霊族の青年』が依頼者である討伐依頼を見付けた。


「──これだ」

「『オルドフォンス』さん、ね」


 間違いない。我がイケメンセンサーが強烈に反応している。


 ──彼はイケメンNPC


 事件の真相を解き明かした時のような。

 十数年来ファンである作品の裏設定を知った時のような。

 そんな歓喜とも興奮ともとれる胸の高鳴りと共に告げている。


 腐女子にして夢女子として培ってきた直観という名の確信は、もはや現実のみならずVR空間でも有用なのだ──!!


「魔女よ、支度しろ! すぐに向かう!」

「まぁ。お早いですわ。わたくしまだ他の依頼を見ておりませんのに……」

「当たり前だろ? ここでは俺が法律だ」

「暴君ですわー」


 このたった一瞬の迷い乱数が結果を狂わせるかもしれない。

 なにせここはVRMMO。

 ふつうのゲームと一緒で考えてはいけないのだ。


 次の瞬間には依頼が更新されているかもしれない。

 タイミングによっては同じ依頼でも別のキャラになるかもしれない。

 あるいは、「ちょっと! このキャラ美形過ぎてゲームに集中できないんですけど!?」などと横暴過激な同業イケメンハンターの逆ギレクレームにより、最速のアプデでビジュアルの変更がもたらされるかもしれないのだ。知らんけど。


 イケメンを感知したのなら、すぐに現場に急行することはもはやイケメンハンターの運命さだめなのである。


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