ジョブとスキル
「おお」
彼方がいった。
「そいつは凄いや。
今振り込まれたってことは……賢鳥の件?」
他に、思い当たらない。
「それ」
恭介が頷く。
「未知の神格とはじめて接触したボーナスとして、だって」
「ボーナス」
赤瀬が疑問を口にする。
「って、おかしくないっすか?
今まで出ていたボーナスって、たいてい、なんかやったあとにすぐ出てたじゃないっすか。
今回のはずいぶん、タイムラグがあるっていうか」
「多分、システムの方でも判断するのに時間がかかったんじゃないかな?」
遥が指摘をする。
「昼間ね、ヘルプちゃんに質問してみたんだ。
あんたらは、ああいう存在について把握していたのか、って」
「なんてレスが来ました?」
「該当するデータは存在しません、だって」
遥が答える。
「つまり、システムちゃんは、この世界についてすべてを知っているわけではないってわけで」
「いや、それ自体は別に不思議でもないだろ」
恭介は指摘した。
「世界全体を細部まで把握する。
そんなことが出来るとしたら、それこそ全知の神様くらいだ」
「いや、そうなんだけどね」
遥はなおも抗弁する。
「今までだったら、あれじゃん。
こういうとき、システムちゃんは、その情報は秘匿されています、とかいって、しらばくれなかった?」
「あ」
青山が呟く。
「この件については、知っているふりさえしなかった。
と、いうことですか?」
「そうそう」
遥が頷く。
「そういうこと」
「うーん。
考えられるのは、システムは、自分たちの管轄内でぼくたちに知られたくない情報については、秘匿されていますと告げる」
彼方はいった。
「それで、本当に知らないこと、あるいは管轄外のことについては、データが存在していませんと答える。
ってことかな?
だとしたら、対応としては案外素直だなと、思うけど」
「今まで存在を知らなかったからこそ、賢鳥について評価するのに、ここまで時間を必要とした」
緑川が続ける。
「結果、システムは賢鳥を神格の一種であると結論し、はじめての接触に成功した師匠にボーナスを与えた」
「システムが戸惑い、ここまで長考するくらい、想定外で例外的な事例だった。
の、でしょうね」
仙崎が意見を述べる。
「賢鳥を神格として認めただけではなく、ボーナスが出たということは、この出来事がプレーヤー全体に有益であると、そう結論した形になります」
「そういうことになるのか」
恭介はいった。
「それで、二百万。
おれが賢鳥に出会ったのは偶然で、おれ以外の誰かが賢鳥と出会っても同じような結果になると思うんだが」
「ないでしょ、それ!」
「いや、それはない」
宙野姉弟が同時に叫ぶ。
「あんなのと遭遇しても、普通の人はなにもしゃべれなくなっちゃうよ」
「あれ、出会った瞬間にヤバいと思ったからね!
身がすくんだ、っていうか!
恭介がよく平然と会話しているな、って、呆れて見てたし!」
「それではまるで、賢鳥と会話したおれは普通ではないみたいじゃないか」
「普通じゃないよ!」
「普通じゃねーでしょ!」
また、姉弟の声が重なる。
「……そこまで強調しなくても」
恭介は不機嫌な顔になる。
「ラノベとかでさ。
なにかというと主人公のことを周りのキャラが持ちあげる展開、あるじゃん」
赤瀬が魔法少女隊の他の面子に語りかける。
「これも、あの一種なのかな?」
「微妙にニュアンスが異なると思われ」
緑川がその意見を切って捨てた。
「凄いというなら、トライデントの方々は三人とも凄いですよ」
青山が意見を述べる。
「凄さのベクトルが、それぞれ違うだけで」
「そだねー」
赤瀬はあっさり納得する。
「で、わたしは明日、師匠について配管工事とかなんとかのお手伝いするけど、みんなはどうする?」
赤瀬は身内の魔法少女隊に確認する。
「わたしは、アイテム開発に挑戦したい」
緑川がいった。
「今日のオーバーフローで、空を飛ぶモンスターが出現したらしい。
生徒会では、狙撃とか対空能力の強化でこれに対抗するつもりのようだけど、おそらくそれだけでは間に合わない」
「と、いうと?」
「空飛ぶ箒の開発」
緑川は告げた。
「すでに浮遊魔法には成功している。
だったら、これを応用して魔石で魔力ブーストし、推力や推進方向の制御まで成功すれば、自分が航空兵力になれる」
「いいですね、それ」
仙崎が同調する。
「それ、わたしも手伝います。
開発に時間がかかるかも知れませんが、案外実用化までいけるかも知れません。
わたし、錬金術系のスキルもいろいろ試してみたかったんですよ!」
「一人だけ余っちゃったか。
わたしは、どうしようかな」
青山は少し考え込んだ。
そしてチラリと遥の方を見て、
「もしよかったら、ですけど。
お二人に同行しても構いませんか?」
と確認する。
「いいよー!」
遥が即答する。
「すいませんねえ、デートに割り込んだみたいで」
「いや別に。
今でも、二人っきりになっている時間の方が長いし」
「わたしちょっと、魔法と他のスキルを混合した戦闘法、試してみたいかな、って。
これまで実験する機会がなかったし、魔法だけだと少し心細いので」
「そっちの工夫ね、うん」
遥は頷く。
「森の中だと、試せることも多いんじゃないかな」
「不思議だよねえ、スキル」
彼方も頷いた。
「ゲームとか比べると、制限がだいぶ緩いと思うし」
「そうですよね」
青山が頷いた。
「魔術師でも、回復術や錬金術のスキルが取れるし」
「ぼくのような罠師でも、土魔法が使える。
そのジョブにしか使えないスキルはあるけど、基本的なスキルはジョブに関係なく使える」
いいながら彼方は、
「もしこれがゲームだったら、デバッグ作業が大変だろうな」
とも、思った。
ジョブとスキルの組み合わせは無数にあり、そのひとつひとつを検証するのはかなり骨が折れそうだ。
「上位のジョブとかあるんでしょうか?」
「一応、あるみたいだね。
ヘルプ情報の中に、それっぽいのを匂わせた記述があったし」
青山の疑問に彼方は答えた。
「ただし、制限解除の条件は、今の時点では不明」
「ええと、戦闘職が、剣士、斥候、狩人……」
「戦士、魔術師の五種。
他にも様々なジョブがあるけど、生産職その他で直接的な戦闘には向いていないってことになっている」
「システムさんは、戦闘職をメインに考えていないんでしょうか?」
「どうかなあ。
むしろ、無数にある非戦闘職のどれかが、上位ジョブに開花することで物凄く戦えるようになるのかも知れないし」
様々な想像は可能なのだが、今の時点でこうと断定できる材料はほとんどない。
現状では、
「実際に試してみなければなんともいえない」
手探り状態だった。
「オーバーフローがある限り、モンスターを直接倒せる戦闘職が有利ってのはあるけどね」
恭介が指摘をする。
「罠師でその戦闘職よりも好き勝手に暴れた実例が、ここにあるけど」
「先行者の優位性を活用しただけだよ」
彼方が答える。
「今からぼくの真似しても、ぼくほどポイント取れないでしょ?」
「積極的なプレイヤーが増えてますしね」
青山が頷く。
「今一番多いジョブは、戦士だそうで」
「戦士は、体力と力の伸びがいいけど、剣士のように特定の武器に攻撃補正がかかるわけではない」
彼方がいった。
「あんまり面白みがないジョブではあるけど、死ににくくなるってメリットはデカいしね。
この状況だと、ある意味では正解かな」
「ある程度育ってから、別のジョブに転職も出来ますしね。
まず最初は戦士で、という選択肢も、まあ普通に理解出来ます」
ジョブを変える、いわゆる転職にも、ほとんど制限がない。
ただ、頻繁にジョブを変えると、パラメーターの伸びに一貫性がなく、使いどころに困るキャラになる可能性があった。
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