生徒会の対応(一)
「ぴんぽんぱんぽーん!
本日のオーバーフローまで、あと五分を切りました」
書記の小橋が宣言する。
「生徒の皆さんは各自準備を整え、モンスター対策に備えてください」
その声は、システムを通じて全プレイヤーの脳内に直接伝えられている。
どういう仕組みなのかはわからないが、そういうものだと納得するしかない。
「システムよると、昨日は達成率四十七パーセントになるそうです」
筑地副会長がいった。
「この達成率とはおそらく、オーバーフローで出現したモンスターを倒した割合、であると予想されます。
召喚されたて直後の初日としてはまずまずの数字だとは思いますが、トライデントと魔法少女隊の活躍がなかったとしたら、おそらくはスコアもこの半分以下になっていたでしょう。
二日目となる本日は、幸いなことに、前回よりは準備が整っています。
それに、プレイヤーたる生徒たちもゲームのルールを理解し、この場でなにをするべきか理解しています。
パーフェクトとはいいませんが、八割以上のスコアを出したいものです」
「オーバーフロー、一分前。
カウントダウンに入ります」
「会長、ドローンの準備が整いました」
庶務の常陸がいった。
「いつでもいけます」
「映像、クリア。
可愛く写ってますよ、会長」
これは、会計の横島。
「余計なことはいわなんでよろしい」
小名木川の反応は素っ気ない。
なんでこんな真似をしなければならないのか。
そう思わないわけにはいなかったが、イメージ戦略として必要だといわれればやるしかない。
小名木川は生徒会室の開けっぱなしの窓に近寄る。
窓の外には、巨大な映像が浮かんでいた。
ドローンから撮影した、窓の中に立つ小名木川の映像。
この空中映像もまた、システムによってもたらされたものになる。
「えー。
プレイヤーたる全生徒諸君。
生徒会長のジョブを与えられた、小名木川だ」
軽く自己紹介を済ませた後、小名木川は続ける。
「なんのスキルも武器もない。
そんなノービスのプレイヤーも現時点では多いと思うが、恐れる必要はない。
初期状態から全プレイヤーに使える共通性能として、倉庫という機能がある。
これを使えば……」
小名木川は右手をあげ、窓の外に出す。
「三十秒前。
十五秒前。
十、九、八、七、六、五、四、三、二、一。
オーバーフロー、開始!」
生徒会室の下、中央広場に、突如として無数の蠢く小動物が出現する。
小動物たちはそのまま外の道へと駆け出し、しかし、中央広場の密度は変わらない。
あとからあとから小動物、モンスターが出現し、溢れ出ているのだ。
「くらえ、スクラップアタック!」
窓の外に出た小名木川の手に巨大な物体が出現し、次の瞬間には落下した。
物体、一辺が二メートルはある、圧縮した鉄材の立方体はそのまま轟音をたてて地面に激突。
もちろん、スクラップの下にいたモンスターたちも無事では済まされない。
「とまあ、高所からの質量攻撃は可能である。
これならば、どんなに非力なノービスにでも実行可能。
ちなみに、わたしは今の攻撃だけで十万以上のポイントを稼いでいる。
装備を調えるための初期費用としては、まずまずの実績だろう。
諸君らの健闘を祈る」
小名木川は背中に回した手を振って、合図を送る。
「中継、切ります」
「ふうっ」
小名木川はそのまま後ずさり、パイプ椅子を出してその上に腰掛けた。
「もうやだ!
こういうの!
わたしのキャラに合わない-!」
「まあまあ、会長」
すぐに横島が背後に近寄り、肩を揉みはじめる。
「よく出来てましたよー」
「ご安心ください」
筑地副会長が冷静な声で指摘をした。
「大半の生徒たちは、モンスターの対応に追われ、中継に注視する余裕もないはずですから」
その言葉通り、窓の外では爆音や轟音、銃声、怒声などが止むことなく響いていた。
やる気のあるプレイヤーは、相応の割合で存在する。
問題なのは、現状に適応出来ず、気力をなくしているプレイヤーたち。
先ほどの小名木川のパフォーマンスも、そうした無気力勢を鼓舞するために企画され、実行されたものになる。
「幸いなことに小名木川会長は、体格に恵まれていませんから」
とは、筑地副会長の弁である。
小柄な女性生徒である小名木川が一発で多額のポイントを稼ぐ様子を実演すれば、多少なりともアピールになるのではないか。
というのが、生徒会の企図するところだった。
生徒会としては、やる気のないプレイヤーたちにも多少はレベルアップして貰い、「死ににくい」プレイヤーに育って貰いたいところなのだが。
「これ、本当に効果あるの?」
小名木川が疑問を口にする。
「今の時点でやる気のない人って、だいたいは元の世界に帰れないことに絶望しているわけでしょ?
こんなアピールが、効果あるとも思えないんだけど」
「目下のところ、モンスターを倒すのが手っ取り早いポイント取得法になりますが、それ以外にもポイントを得る方法はいくつかあります」
筑地がいった。
「そういう方々には、生産職などを斡旋して、自力でポイントを稼いでいただくしかないですね」
生産職かあ。
小名木川は、思う。
今後は、必要かつ重要、になってくるんだろうな。
生産職は、マーケットに出ていない武器や道具を生産できる存在だ。
そうした生産物があれば戦力は何倍にも跳ね上がるし、レベルが低いプレイヤーにも活躍の場を与えることが可能となる。
魔法少女隊の面々が持っていた、魔法の杖のように。
高レベルの生産職を育成することも、今後、重要になってくるはず、だった。
「やる気がない人たちのことはともかく」
ドローンを操作して中央広場周辺を空撮していた常陸がいった。
「やる気がある人たちの勢いは、凄いっすよ」
「中央広場周辺に集まってるのが、だいたいそのやる気がある人たちだからでしょ」
「そうなんですけどね。
特に対面の、女子寮の人たちの活躍が目立ちますね。
交代しながら、出現してくるモンスターに手榴弾投げつけてます」
生徒会室のある建物から見て、円形の中央広場を挟んで対面に存在した大きな建物。
どうやら宗教関係の施設ではないか、と推測されたそこは、現在、希望する女子が寝泊まりする寮として利用されていた。
その屋根に乗って、女子生徒たちが連携して手榴弾を投げ込んでいる、という。
「宙野遥がやっていた戦法だな」
小名木川はいった。
「初期コストは若干嵩むが、なんの特技もない女子にでも手軽にモンスターを倒せる」
手榴弾は現代兵器としては安価な方だったが、それでも、最初にプレイヤーに与えられる5000ポイントでは一発も買えない。
おそらくは、パーティを編成して資産を集め、パーティで手榴弾を何発も購入した上で、使用しているのだろう。
ちゃんとモンスターが密集した場所で使えば、出資した以上にポイントを稼ぐことが可能なはず、だった。
「ええと……パーティ名は、女子寮チーム(仮)、か。
急造というか、すぐに解散することを前提にしてパーティ組んだか」
それはそれで、手ではあるのだろう。
なにしろ女子寮チーム(仮)は、人数が多い。
五十名以上居る。
一度資産を共有してPPとCPを稼げば、あとは自立して動くという生徒も多いんだろうな。
と、小名木川は想像する。
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