魔石、要検証

「やっぱり」

 緑川が呟く。

「師匠は、師匠」

「ええと、宙野先輩とその弟さん」

 仙崎が、二人に確認する。

「お二人は、彼と旧知の間柄、なんですよね」

「そだよー」

「まあね」

 宙野姉弟は、同時に返事をする。

「彼、いったい何者なんです?」

「そりゃ、リョウちゃんはリョウちゃんだよ」

 姉の方は返答になっていないトートロジーを。

「ぼくと同じ、普通の高校生ですよ。

 一応」

 弟の方は、少しだけ補足情報を提示した。

「ラノベとかでは、普通の高校生が本当に普通であったためしはないんだけど。

 でも恭介の場合は、多少理屈っぽいだけで、能力的にはまあ普通かなあ。

 背は低いけど」

「背は低いは、余計だ」

 恭介自身は、そうコメントした。

「強いていえば、今引き取られている親権者の爺さんが、昔はそれなりの学者だったらしい。

 理屈っぽいって部分は、そんなことから来てるんだろうな。

 ガキの頃から本ばかり読んでたし」

「あ」

 赤瀬がいった。

「そういや、放課後に図書室に入り浸ってる一年生が居るって聞いたことあったけど」

「それ、多分おれ」

 恭介は首肯する。

「家に帰ってもやることないし、光熱費がもったいないし」

「光熱費の心配をする時点で、普通の高校生とはいいがたいと思うけど」

 赤瀬はそういって、頷く。

「ご家庭の事情にまで踏み込みたくはないんで、わかった、ということにしておきます」

「そうして貰えると、助かる」

 恭介は、そう応じる。

「その、こっちの都合はともかく、他人が聞いてもあまり愉快な内容じゃないんで」

「師匠」

 今度は青山が質問した。

「わたしたちをこっちに転移させた人たち、いや、人ではないのかも知れないけど、その存在は、なんで直接こうしてくれって、わたしたちに命令とか指示して来なかったのでしょうか?」

「いきなり廃墟に転移させられて、だな。

 召喚されてすぐに戦え命をかけろといわれたとして、おれたち全員が素直に従いたくなると思う?」

「……あー。

 なるほど。

 それと、もう一個、質問」

 赤瀬が、再び訊いてきた。

「昨日のオーバーフロー。

 あれで、出て来たすべてのモンスターを倒したわけではないでしょ?

 うちらが討ちもらしたモンスター、あのあとどうなったの?」

「それについては、ぼくから説明しようかな」

 彼方が片手をあげていった。

「大半は市街地の外、森へと逃げた。

 森ってのは、つまりはここいらってことだけど、場合によってはその外にまで移動しているのも居るかも知れない。

 何故だか知れないけど、オーバーフローのモンスターは、町の外へと進む性質があるっぽい」

「その性質には気づいていましたけど」

 仙崎が発言した。

「町の外まで逃げ延びられたモンスターは、どうなると思いますか?」

「これは予測になるんだけど」

 と前置きをして、彼方は続ける。

「この世界の生態系とか食物連鎖に、そのまま組み込まれるんじゃないかな、と。

 昨日、何体か、この森に棲息するモンスターの死体を確保したんだけど、オーバーフローのモンスターにはない特徴があって」

 ここで彼方は、倉庫からなにか小さなかけらをてのひらの上に取り出した。

「わかる?

 これ、魔石。

 オーバーフローのモンスターも、体内に砂みたいな魔石があったけど、この森のモンスターは、体内にこれくらい、あるいはもっと大粒な魔石を内包しているみたい」

「そういうことか」

 そういって、赤瀬が自分の倉庫から大きな物体を取り出す。

「これ、昨日の終盤で出て来たオオコウライグアナの魔石なんですけど、見ての通りのこの大きさですわ。

 不純物が多すぎて、マーケットさんいわく、そんなにたいそうな値段にはならないそうですが」

 赤瀬の手の上にある魔石の大きさは、人の頭ほどもあった。

「あれくらいの大きさの個体だと、魔石もそれくらいの大きさになるのか。

 もともとこの森に住んでいた野生動物と、オーバーフロー由来のモンスターとは、違うのかどうか。

 これも、今の時点ではサンプル数が少ないからなあ」

 彼方は続けた。

「今までに入手できた少ないサンプルで比較すると、体の大きさが同じくらいなら、森の中に棲息するモンスターの魔石のが大きくなる傾向はあったけど。

 もっとサンプル数が増えて、体内にまったく魔石を含んでいない野生動物とかが見つかったりするかも知れないし。

 いずれにせよ、こっちもまだまだ要調査、ってところだね」

「ちょっと待って」

 珍しく、恭介が割って入る。

「オオコウライグアナって、なんだ?

 それが、あのデカいやつの名前なの?」

「倉庫の中で解体したら、あれ由来の素材はオオコウライグアナのなんとか、って名前だったっす」

 赤瀬が答えた。

「だから、オオコウライグアナってのが、あのデカいのの正式名称らしいっすね」

「イグアナ、だったのか」

 恭介は気の抜けた声を出した。

「あれだけ苦戦したのが、イグアナ。

 ドラゴンじゃ、なかったのか」

「ドンマイ」

 そういって、遥は恭介の肩に手を置く。


「はっ」

 数秒して持ち直した恭介は、顔をあげて彼方に問う。

「オオコウライグアナとか、そういう固有名詞はどっから取っているんだ?」

「考えられる可能性としては」

 彼方は即答する。

「その一、ここの現地住民からそう呼ばれている。

 その二、モンスターが召喚された元の場所でそう呼ばれている。

 その三、システムが勝手につけている。

 そんなところじゃないかなあ。

 ぼくも気になってた考えてみたけど、それくらいしか思いつかない」

「結構いい加減なもんだな」

「少なくとも、学術的な厳密さとかはあまり関係ないと思う。

 恐竜って概念がない時代に恐竜っぽい化石が見つかった際、片っ端からイグアナに関連付けられたくらいのいい加減さ」

「あまり深く考えないにしよう」

「その方が、精神衛生上、健康のためだね」

「なに駄弁っているのかこやつらは」

 遥がこぶしで恭介と彼方の頭を小突く。

「ゲストの皆さんが呆れておるぞ」

「お二人は、いつもこんな調子なんですか?」

 紬が訊ねた。

「まー、だいたいこんなんだねー」

 遥は頷く。

「つまり、普段は、ってことだけど。

 こんな風に益体もないことばかりくっちゃべっているし、脇道に逸れるとどこまでも止まらない。

 急いでいるときは強制的に止めて、本題に戻さなきゃいつまでもやってる」

「魔石って、杖の動力源になるやつ、っすよね」

 赤瀬が訊いてくる。

「この先、魔石が取れなくなると、うちら困るんすけど。

 でも、森の中に居る動物からも魔石が取れるんなら、オーバーフローが終わったとしても問題ないっすね」

「今のところ、そう考えていいと思う」

 彼方は頷く。

「っていうか、モンスターと普通の動物を区別するラインってのが、ぶっちゃけわからないんだよね。

 この森の中に居る動物、結構ぼくたちにとって馴染みのない種類が多いこともあって。

 強いていえば、オーバーフローで出て来たのがモンスター、それ以外が野生動物、ってことになるのかなあ。

 それらの体内にある魔石ってのが、その生物にとってどういう役割を果たす物質なのかもわからないし」

「魔力を蓄積する機能がある、というのは確実」

 緑川が、口を開く。

「そうでないと、魔石を消費して魔法の威力が増す理由がわからない」

「それはそう」

 青山が頷く。

「モンスターとか動物の体内に魔石が含まれているってことは……あ。

 そういや、あのオオコオウライグアナ、だっけ?

 あれも、派手に火を吐いていたっけ。

 そうすると、あれも魔法の一種になるのか。

 野生の魔法」

「オーバーフローから逃れてこの森に潜んでいるモンスターの中には、生存競争に晒されて、普通に魔法を使うのとか出て来るんじゃない?」

 仙崎が指摘をする。

「っていうか、この世界の動物、普通に魔法を使うとかも、あり得るかも」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る