聖女と勇者

「結城さーん!」

 目的地に着いたのは、午後四時を少し回った頃だった。

「迎えに来ましたー!

 どこにいますかー!」

 恭介と遥は、そんな内容を大声で叫んで周辺を歩き回った。

 ここがマップ上でこの辺に表示されていた地点、の、はずなのだが。

「……あ、はい!

 ここです!」

 突如、ノーマークだった枯れ葉の山から、人影が起き上がる。

「すいません。

 ただしちゃんの看病していて、つい、添い寝をしちゃって」

 枯れ葉の山から出て来たのは、着古したスウェット姿のぽっちゃり系女子だった。

 当然、着衣のあちこちや頭髪に、枯れ葉が着いている。

「ええと、結城紬さん、で、間違いないですね?」

「あ、はい。

 はじめまして。

 結城紬と申します」

 紬は、深々とお辞儀をする。

「以後、よろしくお願いします」

 育ちがいい。

 の、だろうな。

 と、恭介は思う。

 ただ、なんとなく、しゃべっていると調子を狂わされる。

「もうおひとり、いらっしゃると聞いているのですが」

「あ、はい。

 今起こします。

 ほら、ただしちゃん!

 お客さんですよ!」

「この子、なんか、ズレてない?」

 小声で、遥が恭介に耳打ちした。

 恭介としては、なんとも答えようがなかった。


「結城さんのご姉弟、今、確保しました」

「彼方、今いい?

 うん、そう。

 目的の子たち、今、合流できたから」

 恭介と遥は、それぞれ生徒会と彼方に連絡する。

「二人とも無事です」

「あ、よさそうな場所、見つかった?

 ちょっとマップにマークして。

 あ、ここかあ。

 こっからだと、そんなに離れてない、と」

 遥は恭介の方に顔を向け、提案してくる。

「彼方がよさそうな拠点候補地を見つけたから、みんなでそっちに向かったらどううだろ?」

「今は、四時過ぎか」

 恭介は時刻を確認してから、少し考え込む。

「本格的に日暮れてから移動するのは、出来れば避けたいかな」

 この世界の日没時刻など、恭介は知らなかった。

 が、それでなくとも今日はいろいろなことがあり過ぎたわけで、恭介としては、早めに休みたいという思いもある。

「彼方が居る場所、ここから遠いの?」

「マップで見ると、そうだね、そちらのお二人に合わせても、一時間くらいはかかるかなあ」

 遥は、考え考え、そんな風に答える。

「お二人に合わせて、か」

 この二人は、レベルもあがっていない。

 下手すれば平均以下の身体能力しなかないかも知れない。

 その二人を、あんまり長時間歩かせるのも酷といえた。

 ましてや、道さえない森の中を突っ切る形である。

 現実問題として、今日中に市街地まで移動するよりは、彼方が見つけた拠点候補地まで移動する方が、現実的だと思った。

「聞いての通り、一時間前後、いや、おそらくはそれ以上に長く、歩いて貰う形となりますが」

 恭介は結城姉弟に向き直って、確認する。

「それでも構いませんね?」

「それはもう。

 こんな場所で野宿をするよりは、そちらの方がマシでしょうし」

 紬が、おっとりとした口調で返す。

「では、まずはそちらに向かうということで」

 恭介は、提案した。

「まずは、お二人に着替えていただきましょうか。

 サイズさえ教えていただければ、服はこちらで用意しますので」

「そうですね。

 スェットとパジャマ姿で野外活動をするのは、少々無謀ですよね」

 なにが面白いのか、紬は口に手を当てて、小さな笑い声をたてる。

 この二人は、靴さえ履いていなかった。

 なんでも、

「風邪でダウンしていたただしくんと、その看病をしていた紬さんが、自宅で突然転移させられていた」

 とかいう状態で、生徒会から連絡が来る前までは、かなり心細い思いをしていたようだ。

 幸いなことに、こちらに転移されて来た前後から、ただしくんの病態はかなり改善し、熱もさがり、ほとんど治っている状態だという。

 まだ消耗しているのか、ただしくんは疲れた様子で、ほとんど口を開かなかった。

「歩けそうっすか?」

 遥が声をかけると、

「大丈夫です」

 と、ただしくんは掠れた声で答えた。

 まだ、顔色が青白く、ほとんど血色がない。

 いざとなれば、おれが背負っていくしかないかな。

 と、恭介は、そう思った。

 ただしくんの背は恭介自身とほとんど変わらず、つまりは、男子としてはかなり小柄だった。

 体格はともかく、恭介の方はこちらに来てからレベルアップの恩恵で身体能力がかなりあがっているので、小柄なただしくんひとりを背負って歩くくらい、問題なく出来るだろう。

 ぽっちゃり系女子である紬さんを背負って歩けるかどうかは、いまいち自信が持てないが。

 ともあれ、結城姉弟にも恭介たちのような野外モードの服に着替えて貰い、すぐに出発することにする。


「疲れたら、いってくださいね。

 休憩取りますから」

 恭介は、そう伝えた。

「大丈夫ですよぉ」

 紬さんが、おっとりした声で応じる。

 病みあがりのただしくんは、声を出す気力がないのか、無言のままだった。

 恭介にしても、

「無理をさせえているなあ」

 という自覚は、ある。

 しかし、日が落ちる前に落ち着ける場所まで移動しておきたいので、この場はただしくんにも我慢して貰うしかない。

 例によって遥が先頭に立って道を開き、結城姉弟が続き、恭介が最後尾を警戒しながら歩く。

 適当な枝でも拾って、杖でも作っておくべきだったかな。

 恭介は、そんなことも思った。

 レベルがあがった自分たちを基準に考え過ぎていた、のかも、知れない。

「なんだかんだいって、もう半分越えているから」

 先頭を歩く遥がそう声をかけた。

「もう少し我慢して。

 足を止めると、歩きたくなくなると思うし」

 そうかも知れないな、と、恭介は思う。

 まだ本調子ではないらしいただしくんはともかく、紬さんの方は意外に健脚で、ペースを変えずに歩き続けている。

 四人は、黙々と森の中を進んだ。

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