救助クエストへ

 そんな会話を挟みつつ、彼らはどうにか膨大な資材やアイテムの仕訳を終える。

 数が多かったのと情報交換をしながらだったのとで、自称妖精のヘルプさんに手伝って貰っても、作業を終えるまでに二時間以上かかった。

 それから、生徒会に連絡して会計だという女子生徒がやって来て、リストと照合しながら物品を引き取り、引き換えにマーケット査定の規定価格をそのままパーティに振り込んでくれる。

 生徒会会計の横島真昼は、軽くウェーブした髪をした、眼鏡をかけた女子生徒だった。

「ピンキリというか、かなり高価な武器なんかも混ざっているんですけど、そういうの、買える人います?」

「あんまり高価なものに関しては、すぐに引き取り手は現れないと思います」

 横島会計は即答する。

「ただ、ポップするアイテムのほとんどは、普通のマーケットには出回らないものがほとんどで。

 生徒会で引き取って流通させるのは、長期的には意味があると思っています」

 淀みがない口調から察するに、生徒会内部で調整したあとの、公式見解なのだろう。

「すぐに売れなくても、いずれ買って、活用する人が出て来ればそれでよし、と?」

「そういうことです。

 それまで、どこかのパーティが死蔵して倉庫に眠らせておくよりは、生徒会で引き取った方がいいかと。

 マーケットは、引き取ったアイテムをそのまま売りに出すとは限らないようで」

 資財やアイテムをマーケットに売って換金するのはいいが、売ったものはそのままマーケットに流通するわけではない、という。

「マーケット以外に、オークションというシステムもあって、そこに預けることも出来るのですが」

 こちらも、手数料が取られる上、必ずしも売れるとは限らない。

 ものによっては、際限なく値段があがっていく、などの短所があり、生徒会としてはあまり推奨したくない、とのこと。

「もう少し、プレイヤーが全般に育ってきて、経済面も含めて競争力があがって来てなら、問題ないと思うんですが」

「大半の生徒がじり貧の今の状況では、オークションもうまく機能しないわな」

 奥村は、そういって深く頷く。

「アイテムを買い取ることで、皆さんのように先行しているパーティを資金的に支援する効果も望めますし、今の時点では、生徒会で買い取って流通させるのが最善かと」

 なんだかんだいって、仕事はしているんだよなあ、生徒会。

 彼方は、心の中でそう評価する。

 万全でも完璧でもないのだが、いきなりこんな異世界に飛ばされたにしては、パニックにもならず、与えられた仕事をまっとうしようとしている。

 いや。

 そう行動するであろう人材を、システムの側が選択して集めたのかも知れないが。


「それでは、あとは、遠隔地に転移させられた人たちの救援活動をよろしくお願いします」

 一連のアイテム引き取り業務を終えてから、横島会計はそういって頭をさげる。

「特に期限は設定されていませんが、他のパーティにも声をかけているので、遅くなればなるほど要救助者が少なくなります。

 そのことを、お含み置きください」

「ええっと」

 岡崎がマップ画面を展開して、確認する。

「もう十名以下になってるじゃないか!」

「比較的近場に居た人たちは、もっと低いレベル帯のパーティが回収したんじゃないかな?」

 彼方は指摘をした。

「別にそれでいい。

 とも、思うけど」

 彼方にとってこの仕事は「自分では進んでやりたくはないが、誰かがやらなくてはならない」種類の仕事といえた。

 他の誰かが肩代わりしてくれるのなら、それに越したことはない。

「だってお前、ひとり頭二十万だぞ!」

 岡崎は大きな声でそういって、席を立った。

「おれは先に出るからな!」

「一人パーティだから、気軽ですしね」

「というかあいつ、なんで今まで残っていたんだ?」

「パ-ティ運営とかスキル構成なんかの情報を、欲しかったようですよ」

「ああ。

 ここにいれば、そういう実践面でのノウハウは、いやでも耳に入るしな」

「知りたければ、直接質問すればいいのに」

「それが出来ないくらいにはこじらせていますね、彼」

 例によって魔法少女隊の面々は、いいたい放題だった。

「なーなー」

 遥が顔を逸らして、背後の恭介に確認した。

「わたしらは、一番遠くでいいよね?」

「いいんじゃね」

 恭介も、即座に頷く。

「おれらは二人で動くけど、彼方はどうする?」

「ぼくは、目星をつけておいた拠点の候補地を下見にいってきます」

 彼方はいった。

「残りの要救助者の数を見たら、もうそんなに人数は要らないかな、って」

「そうしてくれると助かる」

 恭介はいった。

「よさそうな場所を見つけたら、速攻確保しちゃっていいから。

 そっちの四人はどうする?」

「二名ずつペアになって動こうかと」

 魔法処女隊を代表して、仙崎が答えた。

「市街地の外に出ると想定外のことがあるかも知れませんし、最初から単独行動をするのも不安がありますので」

「それでいいと思う」

 彼方が頷いた。

「レベルを考えると、そちらの人たちが二名で対処出来ない状況だったら、そもそも、他のプレイヤーにもどうにも出来ないと思うしね。

 ヤバそうな事態になったらさっさと逃げて、安全第一でお願いします」

 マップを広げて各自の目的地を確認したあと、彼らは広げていた椅子やテーブルを倉庫の中に格納し、四方に散っていった。

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