生徒会のクエスト

「うう」

 その奥村先輩は、小名木川会長の指示によってこの場に留め置かれている。

「なんでこんなことに」

 縮こまって椅子に座っている姿は、「肩身が狭い」という言葉を体現しているようだった。

「いや、自業自得っしょ」

 恭介の膝の上に座った遥が、ことなげにいった。

 奥村一人のために新しく椅子を購入する必要はない。

 遥が真っ先に主張し、自分の定位置を恭介の膝の上に定め、咳をひとつ空けたのだった。

 当の恭介は、遥かによるこの手のわがままに慣れているのか、澄ました顔をして紙コップの紅茶を啜っている。

「でも、会長、なんでこんなの残してるの?」

「こんなの、でも、今の時点では貴重な高いレベルの人材だしな」

 遥の疑問に、小名木川は答える。

「他の大半の生徒たちには、自分の寝床とか町内の整備とか、明日のオーバーフローへの準備とか、スキルもレベルも関係ない仕事に従事して、報酬として生徒会が相応のCPをばら撒くことになっている。

 CPが乏しいと、身動きが取れないし」

「まあ、そうでしょうね」

 彼方が頷く。

「武器や、それに、食事や着替えにも不自由するだろうし」

 一種の、救済策というわけだ。

 プレイヤー各員がCPにある程度余裕があり、なおかつ、今日得られた各種ノウハウ情報が周知された状態で同じようなオーバーフロー現象を迎撃する、ということなれば、全般に、今日よりもずっと、スマートに処理するこが可能なはずで。

「全員のレベルを底上げすることになるわけです」

 築地副会長が、結論を述べる。

「それで、それ以外の、つまり、この場に居る高レベルのプレイヤーには、別の仕事をやって貰おうかと思っている」

 小名木川会長が、続けた。

「断って貰ってもいいが、生徒会から相応の報酬も用意する」

「詳しい内容を聞かせてくれ」

 奥村が真っ先に反応した。

 多分、報酬が欲しいんだろうな、と、遥は予想する。

 さっきの決闘で自分の至らなさを痛感した直後である。

 CPがあれば、武装の今日かも出来るし、生徒会の仕事内容によっては、さらにレベルをあげる機会にもなるだろう。

 奥村は自己中な性格ではあるが、失敗から学べないほどのアホというわけでもなかった、らしい。

「マップを見て貰えればわかると思うが」

 小名木川は説明を続ける。

「転移した大半の生徒たちは、真ん中の円、つまり、市街地内に出現している。

 しかし、若干名の生徒たちが、市街地から少し離れた場所に転移して居る。

 こうした、離れた場所に転移した生徒たちと合流し、こちらの市街地まで連れてきて欲しい」

「ざっと、二十名前後、といったところですか?」

 さっそくマップの表示を確認した仙崎がいった。

「人数はともかく、あちこちに散らばっているから。

 これは、うん、何名かで分担した方がいいですね」

「正直、市街地の外がどういう状況なのか、生徒会の方でも把握していなくてね」

 小名木川は、そう続ける。

「そんな場所に、低レベルかつ保有スキルに乏しい、他の生徒たちを送り出すわけにもいかないでしょ」

「今、動ける人といったら、ぼくたちくらいしかいないわけですか?」

 彼方が、頷く。

「説明を聞けば、まあ順当な内容ですね。

 でも、遠くに出現した人たちの現状って、どうなっているんですか?」

「生徒会の方で個別に連絡をして、しばらくその場から動かないでくれと頼んでいる。

 出た場所は、さまざまだな。

 なんの目印もない森の中が一番多いが、その他にも河原とか、崩れかかっている小屋みたいな場所とか。

 報酬は、ひとりあたり二十万CP出そうと思っている」

「乗った!」

 奥村が真っ先に反応する。

 この場に居る中で、一番上昇志向が強いのが、この奥村なのかも知れなかった。

「奥村さあ」

 遥が、呆れた顔でそんなことをいう。

「あんた今、ソロでしょ?

 戦闘職の剣士だけだと、いろいろ厳しいと思うよ、この依頼」

「戦闘向けじゃないスキルも、これから取る。

 たくさん取る」

 奥村はそういって、なにもない空中に視線を走らせ、指先を滑らせる。

「回復と結界、それに、探知スキルも要るな」

 どれも、レベル1なら50PPで取得可能だった。

 また、スキルの取得はジョブに制限を受けない。

 今の奥村は、汎用性のあるスキルを獲得しておく必要性を感じているのだろう。

「あと、もうひとつ」

 小名木川は続ける。

「あんたら、トライデントと魔法少女隊は、膨大なモンスターを倒してきているわけだ。

 当然、素材とかドロップアイテムも、大量に持っているだろ?」

「ありますね」

 彼方が、その言葉に頷く。

「素材はともかく、ドロップアイテムの方は、大量にあるというわけではありませんけど」

 彼方の体感では、ドロップアイテムが出るのはモンスター百体を倒して一回あるかどうか。

 出現率一パーセント以下、でしかない。

 出て来るアイテムは、武器だったりポーション類だったり、様々だった。

「それら、全部とはいわない、自分たちで使う分以外を、生徒会で買い取らせて貰えないか?」

 トライデントと魔法少女隊の面々は、顔を見合わせたあと、頷き合う。

 なんに使うのか、などと、質問する者はいない。

 なにしろ、転移してきた生徒たちの大半がろくにポイントも経験値も稼げていない現状なわけで、適切な装備を生徒会が配れば、そうした面子も明日以降、まともな戦力になる、はずだった。

 買い込んだ素材やアイテムを、生徒会がどんな条件で他の生徒たちに与えるのか、そこまではわからなかった。

 が、それは、素材やアイテムを供出する彼方たちが心配することでもない。

「別に構いませんけど」

 代表して、彼方が答えた。

「特に武器なんて、ジョブの関係で自分たちでは使えないのが多いですし。

 ただ、その。

 まだ整理が出来ていない状態なんで、仕訳するのに少し時間をいただければ、と」

 つい先頃まで、モンスター相手に暴れていたばかり、なのである。

 倉庫に大量の素材とアイテムが眠っているのは確かだったが、今までチェックする余裕もなかった。

「そんじゃあ、荷物の整理がてら、長めに休憩取るかね」

 遥が、そう提案する。

「午後からもやることはいっぱいありそうだし、今のうちに休んでおかないと身が保たないよ」

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