奥村清人

「おい!

 そこのお前!」

 唐突に、声をかけられる。

「でっかい銃ポンポン射ちまくっていたの、お前だろ!

 お前に、決闘(デュエル)を申し込む!」

 がっしりとした体格の、男子生徒だった。

「あれ、奥村じゃん」

 その男子の顔を見て、遥がいった。

「どうしたの?」

「知り合い?」

「知らない?

 うちの学校では結構有名人だとだけど」

「サッカーで有名な人ですね。

 膝を壊すまでは、プロリーグからも勧誘が来ていたとか」

「よ、陽キャだ」

 魔法少女隊の面々が口々に囁き合い、最後に緑川がなぜか身震いしていた。

「奥村先輩、結構モテててた、って聞いたけど」

「スポーツが出来て顔もそこそこ、いわゆる一軍男子ですね」

「個人的には、あまり好みではありませんけど」

「おめーらうるせーよ!」

 公然と品評しはじめた魔法少女隊の面々を、奥村が一喝する。

「その、決闘、ですか?」

 指名された恭介は、首を傾げている。

「なんでおれが、そんな面倒なことをしなくちゃいけないんですか?」

「てめえが一番目立っていたからだよ!」

「おれなんかよりも、派手な魔法連発していたこちらの子たちのが、よほど目立っていたと思いますが」

 恭介はそういって、魔法少女隊の面々を示す。

「そうかも知れねえが、おれが女子相手に本気を出すわけにはいかないだろ!」

「あ、性差別だ」

「というか、普通にサシで戦っても負ける気がしませんよね」

「決闘って、つまり、果たし合いってことですか?」

 相変わらず、恭介は緊迫感のない様子で、首を傾げている。

「なんか、決闘(デュエル)ってシステムもあるらしいね」

 急いでヘルプ情報を検索していた彼方が、助け船を出す。

「仮想的に、対決をする仕組み。

 一対一から五対五のマッチ戦まで対応。

 あくまで仮想空間でやるわけだから、本人が死傷する心配はない」

「そういうことか」

 なにもない空間を見つめながら、恭介は頷く。

「でも、おれがその決闘に応じなければならない理由はないかなあ」

 恭介が見つめる一点、傍目にはなにもない空間には、恭介にしか見えないメッセージが表示されていた。


『奥村清人から決闘を申し込まれました。

 決闘を受けますか?

  YES/NO』


「奥村清人、三年生。

 パーティSソードマンのリーダー。

 初動には遅れたもの、それなりにポイントを稼いでいますね」

 築地が、なにもない空間に視線を走らせながら、小声で小名木川に告げる。

「でも、これは。

 パーティ内のポイント移動などに、若干不自然な点が見えます」

 どうやら、生徒会メンバーだけがアクセス可能な情報をチェックしているらしかった。

「不自然な点、っていうと?」

「五人居るパーティメンバーはほとんどレベル上げに成功していませんが、奥村だけがレベル15になっています。

 おそらく、パーティ全員で稼いだポイントを、アイテムなどに変えて奥村だけを育てていたのではないか、と」

「他のメンバーを食い物にして、自分だけレベルアップを図った、か。

 典型的な自己中だな、こいつ」

 小名木川は軽くため息をついて副会長との内緒話を終え、今度は恭介に声をかけた。

「馬酔木くんや。

 確かに君には、こいつと決闘するべき義理はないかも知れない。

 でも、生徒会としては決闘して、奥村くんの鼻っ柱をたたき折って欲しいかな。

 生徒会としては、こういう生徒が目立つのは歓迎出来ないんだ」

「そういわれてもな」

 恭介は、露骨に不機嫌な顔をしている。

「おれ、弱い者いじめって、好きじゃないんだ」

「なんだと!」

 覿面に、奥村がいきりたつ。

「これは、あれ」

 緑川が淡々と解説した。

「異世界転移という非日常的な現象に巻き込まれ、少しハイになっている。

 おれが主役だー、とか、おれTUEEE出来るぞー、とか」

「ああ、はいはい」

 遥は緑川の解説に、何度も深く頷く。

「奥村、そういういことあるよね。

 両親は会社経営者で、男女問わず生徒の人気も高い。

 そのせいか、なんでも自分の思い通りになるって思い込んでいる節があるし。

 確か、うちに告ってきたときも、断られるとは微塵と思っていなかったようだし」

「え?

 宙野先輩、奥村先輩に告られたんですか?」

「うん、一年前に。

 秒でお断りしたけど。

 あ、ひょっとして、その意趣返しに決闘なんてことを……」

「おーまーえーらーなー!」

 奥村は、顔を真っ赤にして憤っている。

「ぼく、なんかこの奥村って先輩が可哀想になってきた」

 彼方がぽつりと感想を述べた。

「恭介、ちゃっちゃと終わらせてくれば?

 その方が、後腐れがないと思うし」

「やっちゃえキョウちゃん!」

 遥が無責任に煽る。

「それとね」

 彼方が恭介の耳元に口を近づけて、小声で囁く。

「今のうちから、対人戦の経験も積んでおいた方がいいと思う」

「それもそうか」

 今度は、恭介も頷いた。

「奥村先輩。

 決闘、お受けします。

 その代わり、条件をつけてもいいですか?」

「条件?

 なんだ!」

「おれ、武器はいっさい使用しません。

 その代わり、スキルは使います」

「……おま……」

 奥村は、何度か口を開閉させたあと、ようやく言葉を絞り出した。

「舐めてんのか!

 おれのジョブは剣士だぞ!

 狩人のお前が武器なしでどうやって!」

「それくらいじゃないと、練習にならないし」

 いいながら、恭介は狩人のジョブに解放されているスキルをひとつひとつ有効にしていく。

 これまで、まともにチェックする余裕もなかったし、それに、モンスター相手にどこまで通用するかも未知数だった。

 ぶつけ本番で試してみるもの不安だったので、結果的に封印していたスキルの数々を。

 最後に悠然と、対戦希望メッセージ中の、「YES」の項目にチェックを入れる。

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