「サバイバー」との会話

 一日目。AM11:12


「あー」

「わかるな」

「うん」

「異常といえば異常、ですよね」

 小名木川の言葉に、一度お互いの顔を見合わせてから、魔法少女隊の面々は頷き合った。

「わたしたちも師匠に出会っていなかったら、なにも出来ない側に入っていたわけですし」

「そういう意味では、かなり運がよかったよね」

「師匠は、恩人」

「いっておくけどその功績は、だいたいこの彼方のもんだからね」

 恭介はそう、強調している。

「おれは彼方の言葉を中継しただけだし」

「あの混乱の中、時間を割いて教えてくれただけでも、大感謝」

 緑川が冷静に指摘をする。

「誰にでも出来ることではない」

「ええっと、小名木川会長」

 彼方はいった。

「杖の作り方とか、写真つきのテキストとして提出しているはずですが」

「あんた、よくそんなことする暇あったね」

「口頭でいったことをテキスト化する機能とか、写真を撮る機能とか、ポイントで買えるよ」

「そうなの?

 なんか、スマホっぽいな」

「システムを用意したやつが、こっちが認識しやすい機能を用意した、と見るべきだねえ。

 他のシステムも、なんだかゲームっぽいし」

「そこ、すぐに身内の会話に帰らない!」

 小名木川が、宙野姉弟の会話に割り込んだ。

「つまり会長さんは、どういう協力をお望みなのですか?」

 恭介が落ち着いた口調で訊ね返す。

「どうすればいいのかわからないから、相談しに来たんでしょ!」

「なるほど」

 恭介は頷く。

「まず、生徒会というパーティの目的をお聞かせ願えますか?」

「目的、って……なんだっけ?」

「まずは、この転移現象に巻き込まれた生徒全員を死なせないこと、ですね。

 次いで、生徒各自の活動を促す、と。

 今の時点で、システムから提示されている生徒会の目的は、この二つになります」

 それまで無言だった背の高い男子生徒が、いいよどんだ小名木川に助け船を出す。

「あ、ぼくは、副会長ということになっている築地徹也といいます」

「意外と穏当ですね」

 恭介は、再度頷いた。

「デスゲームをやれとかいわれたら、どうしようかと思った」

「これ、笑うところ?」

「師匠、真面目にいっていると思うよ」

 赤瀬と青山は、小声でそんなやり取りをしている。

「だとすれば、優先することは決まっているのでは?」

 恭介は、続ける。

「食事は、まあ各自一定のポイントは持っているはずだし、マーケットから勝手に買って済ませるでしょう。

 ですがそれ以外の、今夜寝る場所かトイレとか、風呂とか……」

「あ!」

 小名木川は、小さく叫んだ。

「そっか!

 生活していく以上必要だ、そういうの!」

「この生活がいつまで続くかわからない以上、必要だよねえ」

 遥も、うんうんと頷いている。

 それから彼方と顔を見合わせて、改めて小名木川に向き合った。

「でね、会長さん。

 そのことに関連しているんだけど、わたしらのパーティ、用意が出来次第、自分の拠点をつくると思うんだわ」

「は?」

「いや、清潔で快適なお風呂とかトイレは重要だし、日々の食事も大切にしたいし。

 幸い、ポイントもかなり稼げたから、三人で愉快に過ごせる拠点くらいは自分らで作れると思うんだよね」

「それ、乗った!」

 赤瀬が、速攻で片手をあげてアピールする。

「うちらもポイント余っているくらいだし!

 そっちのパーティと同じ建物とはいわないけど、近くに拠点作っても構わないよね?

 みんなもそれでいいでしょ?」

「師匠のパーティなら」

「女ばかりのパーティだと、いろいろ心配だしね」

 魔法少女隊の面々も、赤瀬のいい分に異論がないのか、そんなことをいいながら頷き合っている。

「拠点、か」

 小名木川は戸惑った様子で、首を左右に振った。

「ちょっと、どう判断するべきか、わかんないなあ」

「会長」

 副会長の築地が、口を挟んだ。

「自立可能な生徒たちには、どんどん自立して貰ってもいいのではないでしょうか?

 われわれ生徒会の役割としては、むしろ、今の時点でポイントを獲得出来てない生徒たちの補助を重視するべきかと」

「それもそっか」

 ため息をついてから、小名木川は頷く。

「それで、その拠点とやらは、どこに作るつもりなの?」

「まだ決まってないけど、この市街地外になると思う」

 恭介が、そう告げる。

「そうなの?」

「市街地内に拠点を作るの、あまりメリットがない。

 会長。

 モンスターのオーバーフロー現象ってのは、今後もあるんですよね?」

「システムからのお告げによると、しばらく毎日、十時から十一時の一時間、続くみたい」

「だったら、拠点なんてのが市街地内あったら、かえって邪魔でしょ。

 モンスター討伐のとばっちりを受けて、壊されるかも知れないし」

「それもそだねー」

「あと、買い物はだいたいシステムのマーケット機能に頼るわけで」

 彼方は、そう指摘をする。

「だとすれば、町中に居着く理由もあまりないかな、って。

 今後、生産職の生徒とか出て来れば、町中に出て来る理由になるかも知れないけど」

「マーケット機能があれば、寄り集まって暮らすメリットもあまりない、か」

 小名木川は、呟く。

 無論それは、自衛する能力がる者に限った条件、ではあるのだろうが。

 いずれにせよ、そうした視点があること自体、小名木川は指摘されるまで気づけなかった。

「あと、もう少し落ち着いたら、だけど」

 恭介は続ける。

「試験的に、畑とか作って作物を育ててみたい。

 マーケットの機能がいつまで使用可能なのかわからないから、保険として」

「マーケット機能が、使用不能に?」

 口に出し、小名木川は戦慄する。

 そんなことになったとしたら、大半の生徒たちは生きていけないだろう。

「おれたちは、わけもわからず、いきなりこんな状況に放り込まれているわけで」

 恭介は、淡々と続ける。

「今後、なんの前触れもなく、システムが使用不能になることだってあるかも知れない。

 絶対にないとは、誰にも断言出来ない」

 なるほど。

 これは、サバイバーだわ。

 小名木川は、納得する。

 発想からして、ちょっと普通ではない。

 トライデントの三人組が突出して初動が早かったのには、相応の理由があったようだ。

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